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「楽器を持たないパンクバンド」が腑に落ちた幕張メッセライブや、ソロ活動の開始(2017〜2018年)

―2017年から2018年にかけてはグループが軌道に乗っていく時期ですが、ここでキーポイントになる出来事はどうでしょうか。
西澤:メジャー2ndアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』は大きかったなと思います。ストリングスを使った“My landscape”とか、それまでのオルタナとも違う新しい軸を松隈さんが見出した。さらにこのタイミングで大阪の道頓堀の船上でゲリラライブをやったり、もともと淳之介さんがやりたかったセックス・ピストルズのオマージュが大規模な形で実現できるようになってきた。このリリースの時期はそれが大成してきたのかなと思います。
飯田:あとはやっぱり幕張メッセ(『BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL “THE NUDE”』)でしょうね。
―あのライブには僕も行ったんですけれど、すごかったですよね。僕の感想を先に言うと、あれを見て「『楽器を持たないパンクバンド』ってこういうことなんだ」ってようやく腑に落ちたんです。お客さんの熱量がまるでパンクバンドのライブみたいだった。
そして何より、アイナが振り付けを考えて、それをメンバーが踊っているということの意味がわかった。メンバーが自分で振り付けを考えてそれを踊るのって、バンドが自分たちで曲を書いて演奏するのと同じなんだという。そこでようやくBiSHというのがどういうグループなのかの本質が伝わった感じがしました。
飯田:僕はこの幕張メッセの時に、東京ドームに行くかもしれない、ビッグスターになるかもしれないと思いました。柴さんと同じですね、概念が変わったという感じ。かっこいいことできるんだ、アイドルじゃないなって。それまでのクオリティとは群を抜いて違ったと思いますね。ラストの“NON TiE-UP”とか、今でも思い出します。
―この頃からアイナやチッチのソロ活動、アユニのPEDROなどメンバー個々の活動も始まりますが、このあたりはどんな風に見ていましたか?
飯田:アイナはこの頃に開花していったっていう感じがありますね。ダンスもしかり。この頃から感情的なライブをするようになった。アドリブを入れて踊ったりするようになったんですけど、それってアイドルではないんですよ。アイドルは型にハマった踊りをすることが正しいので。
それもあって彼女の実力が上がっていって、歌もいろんな人に届いて褒められるようになった。この頃は、音楽性においてアイナがチームを引っ張っていた感じがします。それによってチッチもソロを始めたり、アユニがPEDROを始めたり、モモコが本を書いたり、それぞれの個性が爆発しだした印象がありますね。
西澤:インディペンデントとマスの中間地点が2018年だと思います。その状況にどうアジャストするというか、どうしていけばいいのかっていうことを考えていた時期だと思っていて。
この時期でインパクトが強いのはやっぱり“NON TiE-UP”を事前告知なくリリースしたことですね。このときって、メジャー4thシングル『Life is beautiful / HiDE the BLUE』をリリースしていて、どっちの曲もタイアップが決まっていたんです。そのタイミングで“NON TiE-UP”はタイアップついてないから<おっぱい舐めてろ チンコシコってろ>って、めちゃくちゃじゃないですか。

飯田:“NON TiE-UP”は、最初はいい曲と思わなかったけれど、幕張メッセでめっちゃいい曲と思いました。すごい曲ですね。それなりに音楽を聴いてきた僕らでも「何やってんの?」って思わされる曲。
西澤:グループが大きくなっていく中で、成長痛のようにソロとか“NON TiE-UP”みたいなものが出てきた時期だったのかなって、今振り返って思います。
『アメトーーク!』への出演や、表現の幅を広げた“遂に死”(2019年)

―2019年に入ると『アメトーーク!』(テレビ朝日系)への出演もあったり、より広いフィールドでファンが増えた印象もあります。この頃のBiSHにはどんな印象がありますか?
西澤:3rdアルバム『CARROTS and STiCKS』は実験的なアルバムでした。“遂に死”とか、ちょっとノイズっぽい音が入っていて。
飯田:BiSHって、ライブを観てみるまでわからないところがあって。この曲は誰がどういう風にフィーチャーされるんだろうって思ったら、リンリンがど真ん中で。「なるほど、これがしたかったんだ」って思いました。リンリンという一番目立たない子がデスボイスをいきなり出して確変していく感じはすごくいいなと思いました。
―この時期の曲を選ぶならば“遂に死”になる感じがありますね。ライブでのパフォーマンスも含めて鮮烈なものがあった。
西澤:最近の取材でメンバーに聞いても、この作品が大きかったって言うメンバーも多くて。表現の幅が広がったと。あとは、この時期になるとWACKを背負うような立場にもなってきていた。BiSH単体というよりは、後輩や他のグループを牽引するポジションにもなってきた気がしますね。

飯田:この頃の取材でメンバーに「売れてきたね」って言ったんですけれど、みんなの服装や持ち物はいつも通りで。彼女たち自身はそんなに売れている自覚なく進んでいたというか。誰も調子に乗ってなかったし、必死にやってる感じでした。