連載『音楽と仕事、ときどき法要』
記念すべき連載第1回は、奈良を拠点に活動するバンド・LOSTAGEのフロントマンで、自主レーベル&中古レコードショップ「THROAT RECORDS」のオーナーでもある五味岳久さんを訪ねました。
「音楽をやめる、続けるとは?」というテーマから、音楽に限らず「稼ぐこと」「仕事」について、そしてメンバーを含めた「人」との関係性について対話が深まっていきました。THROAT RECORDSの店内で、たくさんのレコードに囲まれながらのふたりのおしゃべりの様子をお楽しみください。
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子供ができた時、このままじゃまずいなと思って。それでTHROAT RECORDSを立ち上げたんです。(五味)

tami:私、本格的に音楽をやり始めたのが遅くて、20代後半だったんです。その年頃って、みんなけっこう音楽をやめていく時期だと思うんですけど、私は逆にその時期に始めたんですよね。
五味:それまでは、なんでやらなかったんですか?
tami:中学と高校では軽音楽部でバンドをやってたんですけど、大学に入る時にやめちゃったんですよ。その後、大学院を出て研究員として働き始めたんですけど、仕事の理想と現実のギャップもあったし、長時間のハードワークでめちゃくちゃストレスが溜まってしまって。そんな中で、なぜか急に「音楽がやりたい!」と思って、DTMを始めました。仕事が終わった後、夜な夜なひたすら曲を作る日々でしたね

2018年にTAMIW(タミュー)を結成。19年には20公演のアメリカツアーを敢行。21年には『FUJI ROCK FESTIVAL ROOKIE A GO GO』への選出などでも話題となり、23年2月に3rdアルバム『Fight for Innocence』をリリース。大阪・堺にあるお寺で、音楽スタジオ「Hidden Place」とペット霊園を経営。
五味:最初はソロだったんですよね。その後メンバーが増えてバンドになったんですか?
tami:そうです。バンドを組んだのが遅かったから、昔からずっと一緒にやり続けている仲間とか盟友みたいな人がいなくて、TAMIWのメンバー以外で音楽をやっている人と深く話す機会があんまりなかったんですよね。それで最近、いろんな人の話を聞いてみたいと思うようになって、思い浮かんだのが「音楽と仕事」という連載テーマと、五味さんでした。
五味:ありがとうございます。
tami:五味さんは今、バンドとこのお店を並行してやられていますよね。そこに至った経緯って、どんな感じだったんですか?
五味:バンドは高校の学祭でステージに立つために始めて、当時とメンバーは変わっていますけど、そこからずっと続けてます。店を始めたのは、2012年。その前はバンドをやりながらバイトしてたんですけど、29歳で結婚して33歳の時に1人目の子供ができた時、家族を支えていくことを考えたら、このままじゃまずいなと思って。それでまず自主レーベルを立ち上げたんですよ。その事務所を探していた時にこの物件を見つけて。

地元・奈良を拠点に活動を続けるLOSTAGEのフロントマン。2001年にLOSTAGEを結成し、07年にメジャーデビュー。10周年を迎えた11年に自主レーベル「THROAT RECORDS」を立ち上げ、12年にレコード店として実店舗を構える。
tami:最初からお店をやろうと思ってたわけじゃなかったんですね。
五味:そう、たまたま。物件を探してた頃、このビルの隣で友達が店をやってて、「隣空いたで!」って教えてくれたんです。それで見に来てみたら気に入って、借りることにしたんですけど、事務所としてだけ使うにはちょっと広い。スペースが無駄になるから、ちょっと物売った方がええかなと思って、家にあったCDとか並べて売ってたんですよ。そこから徐々に店舗として形を整えていって、買い取りとかもするようになって、今の状態になりました。

住所:奈良県奈良市小川町14-1グランテール1F

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母親が見るにみかねて、「音楽やめるか、やめたくないならスタジオでもやりなさいよ」って。(tami)
tami:昔からの夢を叶えたとかじゃなくて、気づいたらたまたま今の状態になっていた、という感じは、私も似ているかもしれないです。私は研究所を辞めた後、音楽をやりながらニートみたいな感じで暮らしてたんですよ。そしたら母親が見るにみかねて、「音楽やめるか、やめたくないならスタジオでもやりなさいよ」って言ってきたんです。実家が寺なので、そこの蔵でも使えばって。それで、「じゃあやる!」って言ってスタジオ経営を始めたんですよね。
五味:へぇ! お母さんに言われて。ずっとスタジオを作るのが夢で、っていうわけじゃないんだ。そこは僕と同じですね。
tami:今は、実家の寺のペット霊園も私が責任者をしていて、それとスタジオを経営しながらバンドをやってます。で、実はうちのバンドメンバーもみんなうちのペット霊園とスタジオで働いてるんですよ。
五味:すごい。経営者としてメンバーの生活まで支えてるんですね。背負ってるものがでかい。

tami:五味さんも、メンバーの生活のこととか考えたりしましたか?
五味:僕らは基本3人でやってるんですけど、同い年のドラムは、高校の時からずっとスタジオで働いてて今は店長になってるから、そんなに気にしたことはないかな。ただ、もうひとりは弟なんで。やっぱりずっとバイトしてるのを見てたりすると、メンバーとしてだけじゃなく、家族としてもちょっと気にかかったりはしましたね。今は弟もすぐ近くで店をやってて。
tami:そうなんですね! 五味さんの影響もあったんですかね?
五味:少しはあったんじゃないですか? まぁ、本人は絶対認めないと思うけど(笑)。

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乱暴な思い込みですけど、音楽を諦めたやつは、きっとその後も何かを諦めるんちゃうかな。(五味)
tami:最初に、「30歳前後でみんな音楽をやめていく」と言ったんですけど、音楽をやめるってどういうことなのかなと考えたりもしていて。
例えば正社員として会社勤めを始めることになったとしても、音楽と仕事のどちらかを選ばないといけないってことはないと思う。「音楽をやめる」って、メジャーデビューするのを諦めるとか、そういう意味なのかなぁ。売れることにこだわらなければ、いつまでもやろうと思う限りはやれるだろうと思うし、いつかやめなきゃいけないってみんなが思ってしまっているのは、ちょっと嫌やなと思ってて。
五味:これは僕の乱暴な思い込みですけど、音楽を諦めたやつは、きっとその後も会社で仕事とかしてても、何かを諦めるんちゃうかなと思うんですよ。まぁ、自分がずっと意地でバンドを続けてるから、他の人に対しても「やめんなよ!」って思っちゃうっていうのもあるけど。
tami:あぁ、たしかに、音楽をやめることで「何か」から逃れられると思ったら間違いやで、みたいなのはちょっとわかりますね。音楽やめて会社で働いてても、その「何か」はずっとついて回るよっていう。リセットできるわけじゃない。
五味:だから、音楽やめたやつは、きっと他の何かもやめるんですよ。……でも、今ふと思い出しましたけど、ZOZOTOWNを作った前澤友作さん、あの人もともとバンドやってて、やめてからも成功してますね。まぁ、うん、いろんな人がいますよね(笑)。
tami:そうですね(笑)。いろんなパターンがある。

五味:さっき「どんな形でもやろうと思えばやれる」っておっしゃってましたけど、ほんとそうだと思うんですよね。だから、連載初回からこんなこと言っちゃ元も子もないんだけど、「音楽だけを仕事にしている人」と「音楽とその他の仕事もやっている人」で括って話をするっていうのは、もう今の時代、ナンセンスなんじゃないかと思う。その2つだけじゃないよなって。グラデーションで、間にいろんな人がいる。いやほんと、初回からこんな話してすいません。
tami:いやいや、むしろありがたいです。たしかにそうですよね。間を見た方がみんなもっとやりやすくなる。
五味:そう、間をあんまり見てないから、諦めなきゃいけないみたいなことも出てくるんですよ。やりたかったら、どんな形でも、細々とでも、やればいい。
tami:なんか、音楽でお金を得ている人っていうのが、世間からすごく特別に見られているっていうのは感じます。夢とか目的意識がすごく強い人だけができること、みたいな。
五味:みんな何かしらでお金を稼いで生活しているわけで、その中に音楽で稼いでいる人もいれば、その他で稼いでいる人もいれば、両方やっている人もいる。それだけのことで、何かでお金を稼いでるっていう意味ではみんな一緒。音楽で稼いでるから楽しいことばっかりってことはあり得ないし、やっぱり仕事だからつらいこともあるし。
