連載「Summer Eyeの知るって幸せ」
「知る幸せ」と書いて「知幸」。知ることや学ぶことの幸せ・喜びを体現するSummer Eyeこと夏目知幸が今回訪れたのは、日本科学未来館です。ここには科学に関するさまざまなバックグラウンドを持つ「科学コミュニケーター」というスタッフが在籍しています。今回は科学コミュニケーターのなかの理学博士の解説のもと「宇宙」を学んでいきます。
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千葉県に住む少年、インターネットで火星を目撃! 宇宙へ憧れを抱きつつ、現在は音楽家に
およそ30年前、NASAがマーズ・パスファインダーという宇宙探査機を火星に着陸させた。1976年以来21年ぶりってことで、日本のメディアも大きく取り上げた。探査車によって撮影された火星地表のカラー写真は、当時まだまだ目新しかった「インターネット」の「ウェブページ」とかいうのに掲載され、世界中の誰でも見ることができた。赤茶色の砂。ゴロゴロと転がる石。砂埃のせいなのか灰色で薄暗い空。写り込む探査車と、それが走った轍がくっきり跡を残す大地。
千葉県の湾岸沿い、とある団地の一室。ブラウン管PCディスプレイに映される遥か彼方の風景に少年は目を輝かせた。「すげえ……」「かっけえ……」「宇宙行きてえ……」「ロボット作りてえ……」。以来、彼の夢は「科学者になって宇宙ロボットを作る」になった。
頑張ってけっこういい高校へ進学。が、理系の勉強が全然自分に向いていないことに気がつき挫折。バレーボール部では顧問からいじめを受けて1年経たない間に辞めた。青春、超想定外。超暇になったため毎日音楽聴いたりMTVや映画を見てダラダラ過ごした結果、(それなりに努力して)バンドマンになり、いつしかそのバンドも終焉を迎え、現在東京で再び一念発起、ソロで音楽活動始動と共に本連載をスタートさせて今回が二回目、私Summer Eyeです。

行ってきましたお台場、日本科学未来館。
今回僕を科学の世界へ誘ってくれたのは「科学コミュニケーター」という仕事をなさっている本間さん。市民と科学技術の橋渡しをしたり、未来を一緒につくる活動を促したりといった役割をされている。
「私は科学が進歩しても人間のためになったり人間が必要としないと、意味のある・価値のある科学とは言えないと考えています。一般の方のお話を聞いたりコミュニケーションを取ることで科学を活かす方へ導く役割が私たちのお仕事です」とのこと。カッコいい!
「今日は宇宙について知りたいということですが、具体的にどんなことを知りたいですか?」
「宇宙の向こうの向こうはどうなってるのかとか? 知りたいです。あと、粒子でしたっけ? ヒモ理論とか? そういうのにも興味あります。物質の根源というか、この世界の根本について知りたいです。あとSF映画大好きです!」
「『インターステラー』観ました? 最後の方、理解できました?」
「もちろん観てます、最後の方ってのは5次元世界のシーンですかね? あそこはあんまり好きじゃないです! 他にも好きじゃない所があって、ある惑星から小型ロケットで逃げ出すシーンあるじゃないですか? 地球から飛び立つ時にはでっかいロケットで必死に大気圏外に出たのに、あの惑星から出る時は超簡単にピューンって脱出できちゃうんですよ、あのシーンで興醒めしちゃって。ご都合主義すぎないか? と。あれのせいでそのあとあんまり集中して観られませんでしたね」。
取材一行に「知らんがな」という空気が流れた。見学がスタートした。
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サイズ感や金額感が規格外な、宇宙開発
未来館の展示内容はまじ広範囲。プラネタリウムみたいなドームシアターで上映される3D映像プログラム『バースデイ』、宇宙の誕生から現在までの歴史やミクロの世界がどんなだか知ることができる。銀河の間を飛んだり、りんごの奥の奥の奥の隙間に入り込んだり自分の大きさがビュンビュン変化するみたいで楽しい。
H2Aロケットに使われているエンジンの実物が見れたり、宇宙ステーションの実寸模型に入れる。最高。童心に帰る俺。宇宙開発は絵空事じゃない。リアルなものとして感じられる貴重な体験。粒子加速器やニュートリノについての模型と解説には知的好奇心をビンビン刺激された。この2つの共通点は、どデカい装置を作って目には見えない小さい物について調べようとしているところ。
世界最大の粒子加速器は円周がだいたい山手線と同じくらいらしい。デカいな! さらに調べてみると建設費は1兆円くらいかかっていて、日本も138億円くらい出してるらしい。出してんな!
岐阜県にある、ニュートリノ観測のために建てられたスーパーカミオカンデ、まず、言わせてほしい。名前がかっこ良すぎ! スーパーナツメカンデにアーティスト名を変更したい。話がずれた。スーパーカミオカンデ、地下1000mにある。直径約39m、高さ約41m! 円筒形のタンクに1万3000個のセンサーが付いている。この装置を使って知ろうとしているのは、0.0000000000000001cmのニュートリノである。「え???」としか言葉が出ない。


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宇宙に憧れたあの日に植え付けられた魂の炎は、まだまだ燃え続けている
展示を巡れば巡るほど、知らないことを知っていけるんだけど、その喜びよりも「どうしてこんなに大変なことしてまで知ろうとしてきたんだ、人間よ……」という気持ちが強くなっていった。知れば知るほど、宇宙は知らないことで溢れている。外に目を向けると果てしなく遠く果てしなく広いし、小さな小さな宇宙の方、ミクロの世界を知ろうとするとすれば、それはそれで果てしなく小さすぎてまじやべえ〜。けれど、ここで無力感に負けず、コノヤロウ! と思ってるのかどうかは分からないけど、気合い入れて知ろうと努力して何かを知ってきた人たちがいるし、現にいま進行形で知ろうしている人たちがいる。
『“ちり”も積もれば世界をかえる』という展示ではまさに、好奇心がどうやって僕たちが見ている世界の姿を変えてきたのかを感じることができた。この展示、まじよかった。力を尽くしても、解き明かすことのできることは宇宙全体のほんのほんのわずかな部分にしかすぎないかもしれない。しかしそのわずかな部分から、世界を押し広げていくことができるんだな! 人間!(展示のスタイルとか映像のグラフィックもめちゃいい!!)。

日本科学未来館を見学して、僕は宇宙に関する新しい知識を得たけれども、それよりもっと大きいマインドを得た。それは「でもやるんだよ」の精神。
僕は科学者にはなれなかったけど、マーズ・パスファインダーに憧れたあの日に植え付けられた魂の炎って、そういう気持ちとしてまだまだ燃え続けてんな、なんて思いながらお台場を後にした。明日も頑張ろう。
Summer Eye選曲による「宇宙にまつわるプレイリスト」
リリース情報

Summer Eye
『大吉』
2023年3月21日(火)リリース
- 失敗 (new mix)
- 求婚 (new mix)
- 湾岸
- 双六
- 甘橙
- 人生 (new mix)
- 水坑 (new mix)
- 白鯨
- 大吉
博物館情報
日本科学未来館
住所:東京都江東区青海2-3-6
開館時間:10:00~17:00(入館券の購入および受付は16:30まで)
休館日:原則として火曜日
常設展入館料:大人630円、18歳以下210円、6歳以下の未就学児無料
※特別展等やドームシアターは別料金