柴田聡子が、7枚目となるアルバム『Your Favorite Things』をリリースした。前作『ぼちぼち銀河』から表面化してきたダンスミュージック〜R&B的な志向が、ライブでも演奏をともにする岡田拓郎との共同プロデュースによってより一層鮮やかに開花し、柴田のキャリアにおける新たな転換点というべき作品となった。その一方で、繊細なサウンドメイクにもさらに磨きがかかり、一個のアルバム作品としての完成度もかつてないレベルに達している。
また、彼女の歌唱にもこれまでにない細やかなニュアンスが宿っている上、そこに乗せられる言葉の機微も一段と切れ味を増し、一人のシンガーソングライターとして新たな「ゾーン」に突入したことを告げている。
そんな柴田の才能をかねてより高く評価し、シャムキャッツとして活動していた時代から度々共演を重ねてきたのが、夏目知幸だ。彼もまた、ソロプロジェクトSummer Eyeのデビューアルバム『大吉』でダンスミュージックへと大幅に接近し、ファンを驚かせた。また、柴田と同じく個性的な詞作が高く評価されてきたアーティストでもある。
今回、『Your Favorite Things』リリースを記念して、両者による(ありそうでなかった)対談が実現した。出会いから、お互いの作品、歌唱、そして歌詞について。二人の話は広く、深く展開していった。その模様をたっぷりとお伝えする。
INDEX
柴田と夏目の出会い。夏目がベタ褒めした、“結婚しました”の歌詞について
―お二人が知り合ったきっかけから伺わせて下さい。
柴田:多分私がデビューする前……2011年くらいかな。シャムキャッツの出るライブを江の島の「OPPA-LA」へ観に行ったとき、初めて会ったような気がします。
夏目:あ〜、確かそうだったね。
柴田:その時、共通の友達と一緒に観に行ったんですけど、友達がテキーラをガンガンに飲んで夏目くんに話しかけに行っていて、「なんて恐れ多い!」と思った記憶があります(笑)。その時はすでに私達にとって夏目くんはスターでしたから。音楽はもちろん、歌詞も、バンドのあり方とかすべてが輝いて見えて……。
夏目:いやいやそんな(笑)。その後柴田さんがデビューしてからは、ちょくちょくイベントで共演させてもらってるよね。弾き語りで対バンしたり。
柴田:あったね。集客が悪くて主催の人に「約束のギャラが払えないんですが……」と言われて、私もまだぺーぺーだったから「あ〜、いいですよ!」って言っちゃったんですけど、夏目くんは毅然と対応していたのを覚えてます。「しっかりしてるなあ」って(笑)。
夏目:もう10年くらい前の話だよね(笑)。2019年にも王舟と一緒に函館でライブをやったり、思い返すとなんだかんだで長い付き合いですね。一緒に飲みに行ったりはしたことないんだけど、会うといつもTWICEとかK-POPの話で盛り上がるんですよ(笑)。
柴田:そうそう(笑)。けど、こうやって取材でじっくり話すのは初めてなので新鮮です。
―夏目さんは2019年に『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』というトークイベントで、柴田さんの“結婚しました”の歌詞を分析していましたよね。当時CINRAでも記事になっていますが、独自の視点で鋭く解説していてとても面白かったです。柴田さんもその記事は読まれましたか?
柴田:もちろん読みました。
夏目:分析とかしてすみません(笑)。ベタ褒めした記憶があります。
柴田:本当に嬉しかったですね。自分の書いた歌詞をミュージシャンの方がそんなふうに読み解いてくれるっていうのも新鮮で。「逃げ足が早い」っていう表現がとても印象に残っています。この歌には第三者の視点が介在しているという指摘もまさにその通りで、さすがだなと思いました。逆に、こういう視点はなかったなっていう読み解きもあって、すごく面白かったです。
夏目:初めて柴田さんの歌を聴いたときから思っていたんですけど、柴田さんの歌詞って、一直線に進んでいかないっていうか、いろんな視点が並走していたり、枝分かれしている印象があって、それがとても独特に感じるんですよね。ひとつのシーンが描かれているとして、それが映画のように巧みにカット割りされている感覚というか。それは自分にはできないから余計にすごいなと思います。
―柴田さんにとっては、夏目さんが書く歌詞はどんなふうに映っていましたか?
柴田:さっきも言った通り、私にとって最初からスター的な存在だったので、「わあ、すごいなー」っていう初歩的な気持ちが先にきてしまうというか(笑)。夏目くんの言葉に限らず、基本的に私は、他の人の書いた歌詞を冷静に読み解いてみるみたいなことが全然できなくて。ただ、「すごいな〜」「素敵だな〜」っていう感じ……(笑)。逆に言うと、「この人みたいに書きたい!」とかもあまり思わなくて、ただ自分の言葉を書いている感覚なんですけど。