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「僕は自分の感情が塗り替えられてしまうことに疑惑の目を向けてる」(香田)
―加藤くんは好きな作詞家とか詩人とかっているんですか?
加藤:それこないだ取材でも聞かれたんですけど、いないんですよ。自分の中にお守りみたいにしてる言葉とかないんですよね。
香田:それは日本だけじゃなくて?
加藤:そうですね……詞とか言葉を心に留めといたりすることがないんですよね。人の曲歌ったときに、これいい詞だなとか思ったりはするんですけど。
香田:僕はわかりやすく良い言葉にも惹かれるのだけれど、リルケとか、言葉が強いというか、奮起させるような詩は、それがそのまま音楽になったらちょっとくどいというか。あいまいに留めておきたくて。ヴェルレーヌの『詩法』っていう、詩の書き方について散文で書いた作品があるんだけど、その一節で、「定かなる 定かならぬと打ち交わる灰色の歌 この灰色の歌は何者にも勝らん」っていうのがあって、作曲するときにたまに思い出したりする。古いお守りみたいなものかもね。
加藤:僕は、会った人とか、見かけたシチュエーションとかから着想を得たりしますね。その人の表情の前後をすごく想像する。さっき公園で撮影してるとき、小学生ぐらいの子供が「何してんの?」とか言って絡んできたんですよ。で、「ローラーブレード滑れる?」とか聞いてきたから「滑れるよ」って言ったら、「俺もできるよ、東京ドームシティで毎日滑ってる」って。

―自慢げに?
加藤:自慢げに(笑)。無料で入れるチケットを親がいっぱい持ってるから、毎日そこで滑ってるとか言ってて。その瞬間の感じとか一生忘れないですよね。彼は都会の子供で、僕は田舎の大人だから、全然取るマウントが違うなって。おれのマウントって、親がクワガタいっぱい取ってきたとか、車の名前めっちゃ知ってるとか、そういうマウントだったよなって。しかも都庁の真下の公園で遊んでるんですよ。都庁がピカーっと赤く光ってて、その真下にホームレスの人がいっぱいいて。
香田:両親も近くにいなくてね。
加藤:帰らなくていいの? って聞いたら22時まで遊ぶっつって。嘘だろ、みたいな。
―そういうロケーションが残っていくんですね。
加藤:凄く下品な言い方をすると、そういう画として残る感じが好きなのかもしれない。社会問題的な目線ももちろんあるんですけど。

香田:こういう子はどんなノスタルジー持つんだろうねとかね。都庁の赤い光が安心感になるのかとか。
―そういう瞬間が歌詞になっていったりするんですか。
加藤:なりますね。こないだPROVOの龍太さんとTHA BLUE HERBの話をしてたんですけど、ヒップホップは自分じゃ思っていても言えないようなことをパーンと言い切ってくれるからすげえ楽になるよなって言ってて。
―代弁というか、思考を言語化してくれたみたいな。
加藤:でも本当は思ってないとも思うんですよね、それって。受けた瞬間に発生してるだけで、自分が思ってたことではない。
香田:僕は神経質だからか、そういう自分の感情が塗り替えられてしまうときにとても慎重。書いた曲をある程度プレイヤーに委ねて演奏してもらうって瞬間にもよく起きるけど。とてもすばらしいものになった反面、僕の感情ではないっていうとき、それを良しとするか、ダメとするか。楽器であったり人であったり、力強すぎる代弁者が現れた時に細部は塗り替えられちゃうことがあるよね。

加藤:均質になるんですよね。すばらしく感じるものってだいたい一緒だから。デカい海とか美味い魚みたいなのって均質なんですよね。そこに凄く抗いたい感はある。「すばらしい」ってある種デジャヴだと思うんですよ。だからみんなLSDとかやるんでしょうね。僕はやんないですけど(笑)。
香田:それもある種均質化なんじゃないの?
加藤:リバーブ踏んでディレイかけるだけみたいなのは、本当の美しさに接近してないと思うんですよ。
―踊ってばかりの国の下津君が、昔インタビューで「2万円あればサイケは出来る」って言ってました。
加藤:リバーブとかディレイは誰でも買えますしね(笑)。近しいものが提示されても、それじゃないって言える強度が自分のビジョンにあればいいんですけどね。
―均質化を追求するというか、ずっと同じものを作り続けるクリエイトとかもありますよね。JBとか、ラモーンズとか……そういうスタンスはどう思いますか?
加藤:自分にはできないですね。キーにしてもテンポにしてもギターの音にしても、想起させるものが自分の中にあると自己模倣してるような気になって、避けちゃう。でも同じものが並ぶ気持ち良さって、やってみたくはあるんですよね。
香田:だけれど僕らはどうしても西洋化されてるから、よこしまなアーカイブ欲がある。どこか博物館的なことをやりたいというか。

加藤:あとから作品をズラッて並べた時に、時代を経て点で繋がるところがあるんです。自分の中ではこことここは繋がってるって説明できると思う。でも誰にも語らずにほくそ笑むっていう(笑)。
香田:まぁ人生の中で10ぐらいのスタイルの曲が作れたら十分じゃないのかな? 脚本とか比較神話学の本読んでたら、物語が10ぐらいに限られるというか。僕らが根幹に持ってるスタイルって本当はそれぐらいで、それをどこから受け取ってどこに繋いでるのかって話にかんじてる。
加藤:曲作ってても、結局ここを変えるか変えないかの二択しかない。その二択をずっと選び続けてるだけなんですよね。
香田:まぁそう言えば、確かにね(笑)。
―さて、そろそろ締めくくりたいと思いますが、今回話してみていかがでしたか?
加藤:悠真くんとはいっつもこういう話してますね。悠真くんと話してると「そうなんすよ!」って言うこと多いですね(笑)。
香田:恥ずかしく思うポイントとか欲しがるポイントがちょっと似てるんですよ、きっと。
加藤:言い当ててくれることが多いです(笑)。

NOT WONK 5th Album『Bout Foreverness』

アーティスト:NOT WONK
タイトル:『Bout Foreverness』
リリース日:2025年2月5日(水)
レーベル:Bigfish Sounds
フォーマット:配信 / CD
販売価格:CD ¥3,300(税込)
トラックリスト
1. About Foreverness
2. George Ruth
3. Embrace Me
4. Same Corner
5. Changed
6. Some of You
7. Asshole
NOT WONK ONEMAN TOUR “Bout Foreverness”
チケットリンク:https://w.pia.jp/t/notwonk-2025/
料金:学割 3,000円 (+1D) / 一般 4,000円 (+1D)
■2025年2月27日 (木)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
時間:OPEN 18:15 / START 19:00
■2024年3月14日 (金)大阪・心斎橋 Live House ANIMA
時間:OPEN 18:15 / START 19:00
■2025年3月15日 (土)愛知・名古屋 CLUB UPSET
時間:OPEN 18:00 / START 18:30
■2025年4月20日 (日)北海道・札幌 BESSIE HALL
時間:OPEN 18:00 / START 18:30
主催/制作:Bigfish inc.INFO:エイティーフィールド 03-5712-5227 / http://www.atfield.net/