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Stronger Than Pride

香田悠真と加藤修平 とめどないおしゃべりの中で発光する、二人の美意識と哲学

2025.1.31

#MUSIC

ボサノヴァから寅さん、映画音楽、そしてスーパーのBGMまで

香田:普段思ってることがどこまで曲に染み渡るかって、当たり前だけど大事だよね。加藤くんはそれが現れやすいような。キャラクターと曲が解離してる人って多いから。「普段ここを恥ずかしがれるのに、これをやっちゃうんだろう?」みたいな。加藤くんはそういう解離が少なくて、キャラクターと曲がとても近く感じる。

加藤:詞だけじゃなくて、ビートとかハーモニーもそうじゃないですか。僕、悠真くんのソロで一曲歌ってるんですけど、「そうっすよね!」ってなる。「ここがただのセブンスになるの、わかるぜ!」っていう(笑)。

―その楽曲をけさ聴かせてもらったんですが、何というか無国籍感がすごかったですね。どこの国の音楽かわからない感じがしました。

香田:あれはボサノヴァっていうか、最初は特にミナスサウンドを思いながら作ってたんだけど。SADFRANKで難しいボッサの曲弾かせてもらったから、僕もそのあと彼に作った(笑)。

―局地的なボッサムーブメントがあったんですね(笑)。

香田:僕がミナスの音楽に最初に出会ったのって、ブレッソンの『白夜』という映画のワンシーンで。橋の袂に楽団が乗ったボートが流れてきて、それがだんだんだんだん下っていく、香り高くて色気のある情景で、それこそ「どこの国の音楽なんだ?」って。調べてみたらマルク・リバスの“N’Biri, N’Biri”って曲だったんだけれど。そのミステリアスな感情をそのまま曲にしたくて、歌ってもらったんですよ。加藤くんの新作のボッサに関しては何の影響が大きい?

加藤:Pinstripe Sunnyの『Bossa Loser』ってアルバムがあるんですけど、これが凄く良くて。

(Pinstripe Sunnyの“Toilet Boy”を流す)

加藤:このベッドルームの感じというか、一人の音楽になってる感じのボッサは好きですね。

―そういえばブラジル音楽って全体的に音が良い気がするんですけど、何でなんでしょうね。

加藤:うーん……優しく弾くから?

香田:最近思ったのはストリングスの音がひじょうに優れてるものが多いような……。とくに1970年代あたりのは節度が凄く守られてる。あとマイクの本数が少ないのかな。ふと思い出したけど『男はつらいよ』のテーマとかもそう感じるんだよね。

―寅さんですか。

香田:これもねえ、結構音いいんだよね。

(渥美清の“男はつらいよ”を流す)

香田:never young beachが衣装を寅さんの格好でやってた時期があって、SEもずっとこの曲だったから、僕が参加してる時は全国いろんな会場の音響でこれ聴いたんですよ。で、どの会場の音響にも耐えうるな、再現性あるな……ってステージ脇で思ってた。

―再生環境を選ばないっていうのも音の良さのひとつですね。曲自体に地力があるというか。

加藤:スーパーマーケットの店内BGMとかの、打ち込みのJ-POPカバーあるじゃないですか。アレもいい曲はやっぱいいですよね。蕎麦屋で流れてるお琴アレンジのスピッツとか最高じゃないですか(笑)。

香田:バッハ的な考え方だね(笑)。そう言えば武満さんが、自分の音楽とバッハとの対比をどこかで書いていたね。バッハには再現性があるけど、自分の音楽は音響込みでしか完成しえないと。

―ジョン・ケージも音楽はライブでしか聴かなかったとか言いますが、ライブと音源の解離っていうのは音楽家にとってやっぱ命題なんですかね。

香田:いま映画音楽に集中してたから、その話になっちゃうんですが、映画館って一回性のライブに近いところがあるので、劇中で流れる音楽は、そうした映画館での体験を意識して作ります。一方でサントラはもう少し踏み込んで音楽だけで成立するように構成を変えたり、劇中の環境音を取り入れて映画の世界観を補完したりもする。リモデルとかの流れはむしろ解離を良しとしてますよね。

―映画音楽家の仕事って、どこからどこまでなんですか?

香田:昔は作曲して、録音して音楽を完成させたらお終いだったと思うんですが、いまだと音楽と映像を合わせるダビングまで立ち会うことが多いんじゃないですかね。僕は音楽なのかSEなのか解らないような劇伴も多いから、ダビングまで付き合わないと印象が変わっちゃう。たとえば環境音からキーを決めたりしてた場合、劇中で鳴ってた掃除機とか電話の音のチューニングが、ダビング段階で変わってたりすると厄介というか。映画を観ててなにか音痴に感じるときって、実はそういうとこにエラーがあるのかなとか。

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