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Stronger Than Pride

香田悠真と加藤修平 とめどないおしゃべりの中で発光する、二人の美意識と哲学

2025.1.31

#MUSIC

「音楽の単位としての『曲』と自分の思想とか歌詞の相性があんまりよくない(笑)」(加藤)

香田:詞を書くときは結構散歩するの?

加藤:移動しながらじゃないとちょっと嫌なんです。ずっと歩きながらケータイで打って書きますね。ペンと紙だと消すのめんどくさいんで。

―普段、思いついたフレーズとかメモしたりしますか?

加藤:しないです。制作するってなったときにガッて書く。基本的に嫌いなんですよ、歌詞書くの(笑)。

香田:メロディ先行?

加藤:メロディ先行です、圧倒的に。いい詞が書けたら良かったなとは思うんですけど、書くこと自体は嫌いです。メロディの方が僕の中で圧倒的に優位なんで、それを崩すのがすごく嫌なんです。すごくいい詞がテトリスみたいにメロディにフィットしたときは快感があるんですけど、その範囲がめちゃくちゃ狭いんですよ。

香田:なるほど。僕が曲を書く時は楽譜とかピアノ先行型だから、歌から作れることがあまりなくて。フォーキーな人がよくやるけどさ、先にメロディがあって、そこに無理やり収めたなっていうワード感があるでしょ。あの音符に対する憧れがすごくある。

加藤:それは僕もあります。やっぱ一個一個の玉が長くなっちゃうっていうか。

香田:歌いながら作るんだっけ?

加藤:そうです。ラララ、って感じで。ここはこの速さで歌いたいとか、この音で伸ばしたいとか。

香田:そういえば、こないだ合唱団に向けて曲を書かせてもらったんだけど、それがラテン語のテキストを引用してて。長い発音のメロディが多い楽譜を書いたんだけど、合唱の先生から意味の伝わり方をご指摘いただいて、とても為になった。その時にふと気づいたんだけれど、僕は複数の声部で違う歌詞が歌われたりするモテット風なスタイルとか、歌詞の意味が失われること自体にはあまり抵抗ないんだろうなと。その曲はテキストが記号的なのもあったんだろうけど、そもそもポップスであっても昔から歌詞に意味をあまり求めていなかったのに気づいて。だから言葉が変に伸びたり縮んでも気にならないのかも。


加藤:じつは昨日、人とその話めっちゃしてて。米津玄師の“Lemon”って曲あるじゃないですか。

(米津玄師の“Lemon”を流す)

加藤:ここの<きっともうこれ以上>って、すげえ間違ってるみたいに聴こえるんですよ(笑)。他人の曲なのに。いぃじょう、ってなんか違くないコレ? みたいな(笑)。

―日本語って割と無理しても成立しちゃうんですかね。広東語は伸ばすところとか発声の力み具合で意味が全然変わっちゃうから、広東語ポップスなんかは作詞がすげえ大変って聞いたことあります。

香田:なるほど。そのあたりの感覚が僕は薄いのかも。いま作ってるアルバムで、安部勇磨くんにボイスパーカッション的なことをやってもらってる曲があるんだけど、「ヨイショ、ヨイショ」とか「うふふ」とか色々すてきな日本語を入れてくれてるのね。それが聴いているうちにだんだんと意味が消えていって、パーカッションの一部として機能してくる。すると僕が抱えてる日本語に対する気恥ずかしさから逃げられたりするんだよね。加藤くんは英語も日本語もどっちもやるよね。

加藤:NOT WONKとしては2月に出すアルバムで初めて、日本語がちゃんと飛び出してくる瞬間をいくつか作ってるんですよ。前回のアルバムではワンワードだけ<あなたの名前>って言ってるんですけど。

―“Your Name”ですね。あれ以外で日本語って出てきてないんですね。

加藤:そうなんですよ。“Your Name”では通り過ぎるように、認識すらできないぐらいの感じで使ってるんですが、今回も急にインサートされるみたいな。それが一番効果的な気もする。音楽の単位としての「曲」ってあるじゃないですか。それと自分の思想とか歌詞の相性があんまりよくない(笑)。

香田:NOT WONKの新作の話ちょっとする? 僕、ざっと聴かせてもらったんだけど……ソロとバンドの違いについて一回ちょっと聞いときたいなと(笑)。

加藤:うんうんうん(笑)。

香田:まずシンセサイザーの扱いが面白いなって感じたんだよね、今回。ソロで色んなスタイルをやってしまったからこそミニマルなトリオをやることの難しさに向き合ってたと思うんだけど、どういう考え方でやったんだろうって気になってて。

加藤:今回のアルバムはトリオの作品として作り始めたけど、実際ベースがずっと不在な状態だったんで、ドラムのアキムとスタジオ入って、ベースがいないままダーッと作ったんですよ。アンサンブルが未完成の状態でレコーディングに突入するっていう。デモを作りたくないっていう欲があって。

香田:なるほどね。

加藤:デモがあるとそれ以上にならないっていうか、なぞっちゃうんで、やっぱり。ソロだったら「こうしたいんすよ!」っていうのを汲み取ってもらうためにも、デモの重要性が高かったんですよ。自分の中の100パーセントに近い状態で聴いてもらって、「でもこうじゃない?」ってサラッと変えちゃってもらえることが快感っていうか。けどバンドはそれやっちゃうと、過去の自分をなぞる感じになるんです。前作(『dimen』)は、ガッチリデモ作ってからやったんですけど、今回はそうしたくないなっていう。足そうと思ったらいくらでも足せるじゃないですか。

香田:僕がさっきシンセサイザーの話をしたのはそこが聞きたくて。足そうと思ったら足せる環境の中で、控えめに置かれてるシンセサイザーが何個かあるなって思ってて、これはどういう基準があるんだろうなって。

加藤:効果的ではないんだけど間違いなく作用している、みたいなシンセの使い方が音響的に好きで。「そういえばこの曲シンセ入ってんな」みたいなの結構あるじゃないですか、そういう仕事をシンセサイザーにしてもらいたいなって。“Changed”って曲も実はシンセ使ってて、サブベースの一番下のオクターブで、キックにピッチをつけるつもりで入れてるんです。ずっとトニック(主音)が鳴ってる状態って、場面転換がしない感じがして。パッて聴いてもわかんないんだけど、間違いなく作用している。

香田:ふ~ん。

加藤:SADFRANKでもそれやりましたね。無調の世界の、めちゃくちゃ下に低音をドローンみたいに忍ばせて、途中から急にそれが曲を進行させてゆくっていう。調性(キー)を作るものが、曲の中で移行していくみたいな考えが好きなんですよね、僕(笑)。

香田:どの曲だっけ?

加藤:“最後”って曲ですね。

(SADFRANKの“最後”を流す)

香田:こういうコンクレート的に作った曲って、聴き直すたびにいろいろ蘇るよね。

加藤:そうなんすよ。最初ツーコードで進行させてるんですけど、けっきょく実は裏の進行が“丸の内サディスティック”っていう大オチをつけたのを思い出しました(笑)。嘘みたいに“Just the Two of Us”進行になるっていう(笑)。まさにこの部屋で僕がほとんどミックスして、最後に微調整してもらったっていう感じでした。

―このミックス、めちゃくちゃ時間かかりそうですね。

加藤:ヤバかったっす(笑)。こういうのは大体みんなMIDIでやったりとか、テンポ決めたりしてやるんですけど、これはそういうの何もやらなかったんで。聴いて、オーディオをひたすら動かし続けるっていう。

―超アナログな。

加藤:超アナログ。ほんとにテープ切って貼ってるみたいな感覚でコラージュして。しかも一発録りなんすよ、これ。

香田:ここで4人すし詰めになってやったよね。ポップスの上で調性を揺らすってどうやるんだろうなって、いま僕も制作しながら考えてるんだけど。

加藤:それは、揺らしたい?

香田:揺らしたい。感情がすごく固定される気がして。せっかちだから耳が飽きるだけかもだけど。わかりやすく複調や多旋(※)を用いてみたり。でもこれはあんまりうまくいかないね。

そう言えば先々月かな、『ドナウエッシンゲン音楽祭』っていう、ドイツで毎年やってる有名な現代音楽祭があって、今はストリーミングでも見れて。僕にとってはある潮流を見られるのでとても興味深いのだけれど、そこの初演が結構、調性が保たれたものが増えてきてて驚いた。

※様々な旋法を並列して用いること

加藤:あ、そうなんすね。

香田:前衛の方が、調性に戻ってきているような。ライヒっぽく受け取りやすいな、って思うような曲が多い。ブツ切りの、和声を現代にした、どんどん流れるような曲が多く感じて。

加藤:それはチョップされてるんじゃなくて、最初からそういう構造になっている?

香田:そう、それをあえてオケでスコアに落とし込むっていうか。そういう潮流を感じた。

加藤:いま、いろんな音楽がそうですよね。J-POPも和声進行がすごく複雑になっているじゃないですか。そういう構造をアナライズする番組も増えてきてるし。

香田:それは、スポーツ化しやすいからってことなのかな?

加藤:だとも思いますし、芸大至上主義的な考えがまた戻ってきているのかな。そういうアカデミックなものに対する一般的な興味って増してるような気がする。批評したいんですもんね、今、みんな。

-SNSとかは年々批評的になっていますよね。

加藤:完全にその流れだなって僕は感じていますね。転調とか変拍子とか複雑な和声の権威性が高いっていうことじゃないですか、現代の日本は。複雑さイコール高尚、みたいな考えがいまのポップスにはあると思うんですけど、ひょっとしたらまたTHE BLUE HEARTSみたいなのが出てきて、また更地に戻すようなことが起きるのかなー、とか。

香田:複雑さっていうのは好まれやすいんだろうね。ブライアン・ファーニホウとかが国内でとても人気があるのは、楽器ひとつとっても動きがとても複雑で、わかりやすい凄みがあるというか。

加藤:受け止め切れる複雑性の限度ってどこなんだろう、って思いますね。聴き取れるハーモニーってどこまでなんだろうとか。ピアノとか、バンドの中で弾いてても聴き取れないっすもんね。

香田:バンドにおけるピアノって難しいよね……。J-POPって呼ばれるものの中では、和声を担保するというよりパーカッシブなアプローチが多いんだろうなと思うけど。実は下声部のほうでこんなことやってます、っていうのも競技的な趣があるよね。そういうものは星がつけやすいというか。

加藤:そう考えるとベンチと同じで、星が1から5まで満遍なくついてる音楽が、一番優れてるのかな(笑)。

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