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その選曲が、映画をつくる

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』実在の事件を安易なエンタメにしない誠実さ

2024.7.11

#MOVIE

ボタンをかけ違えたまま進行するような、妙な感覚

驚くべきことにこの設定は、1996年に起きた実在の事件=通称「メイ・ディセンバー事件」を元にしている(*)。実際の事件も、(固有名詞や細かな設定の外は)上に書いたのとほぼ同じ顛末をたどっており、当時のアメリカ社会に大きな衝撃を与えたことで知られている。

*「メイ・ディセンバー」=「5月12月」とは、極端に年の離れたカップルを指すスラング。

とすると、この映画も事件に至る道程や発覚後の喧騒をスキャンダラスに取り上げているものと思われるかもしれないが、そうではない。事件の顛末自体は描かれておらず、二人の結婚から更に20数年後を舞台としているのだ。

上で述べた通り物語は、次回出演映画でグレイシーを演じることになったエリザベスが、グレイシーとジョーの一家の元へ、役作りの取材のために訪れるシーンから始まる。日常を共にすることでグレイシーの真実の顔へと迫ろうとするエリザベスは、徐々に、グレイシーおよび件の出来事に対して単なる取材を超えた強い興味を抱くようになっていく。「真実」の追求に没頭し、いつしか自らとグレイシーを重ね合わせるように変幻していくエリザベスは、一体どこへ向かおうとしているのだろうか。彼女は、ジョーをはじめ、彼の子どもたちやエリザベスの元家族たち、知人たちとの邂逅を通じて、「真実」を追い求めていくが、それは果たして彼女が欲していた「真実」なのだろうか。それとも……。

グレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)。

本作は、題材の重苦しさもあいまって、いかにも重厚なミステリー映画の外見をしている(ように見える)。暗示的なほのめかしが張り巡らされたプロットは、一種の謎解き的な鑑賞へと観客を誘っていく。しかし実際のところは、これみよがしなフリに対して答えが置き去りにされることもしばしばで、「伏線の回収」の見事さで観るものの欲望に応えようとするような、一般的な意味でのエンターテイメント性に貫かれているとはいい難い。むしろ、どこかでボタンをかけ違えているのに、しかもそれに自らがうっすらと気付いているのにも関わらずそのまま歩みを進めていくようなチグハグ感が全編に渡って持続していく。注意深く画面とプロットを追っていくほどにその注意が想定とは異なる別の場所へ運ばれてしまうような、そういった妙な感覚が、始まりから終わりまで、うっすらと付いて離れることがないのである。

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