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映画を彩るニューオーリンズの音楽
リンクレイターといえば、ロックミュージックを題材とした『スクール・オブ・ロック』(2003年)を筆頭に、毎作において劇中音楽の使い方にも並々ならぬこだわりを貫いてきた監督として知られている。これまでに比べるとやや控えめな使い方に感じられるかもしれないが、今作でも各シーンで多くの既存楽曲が使用されている。具体的なアーティスト名と曲名をいくつか書き出しみよう。
ジェリー・ロール・モートン“New Orleans Bump (Monrovia) ”
バックウィート・ザディコ“Space Zydeco”
ジューン・ガードナー“99 Plus One”
Rob49 ft. Lil Baby“Vulture Island V2”
プロフェッサー・ロングヘア“Big Chief”
アルヴィン・ロビンソン“Down Home Girl”
アラン・トゥーサン“Cast Your Fate To The Wind”
アメリカ音楽に詳しい方ならすぐにピンと来るはずだが、ジャズやリズム&ブルーズ、ザディコ、ラップなど、サウンドの傾向は多岐に及ぶにせよ、ニューオーリンズのアーティストによる楽曲が多く並んでいる。本作の音楽監修を務めたランドール・ポスターは、NMEの取材に応え、次のように述べた。
「この映画の音楽はニューオーリンズ産のもので、楽しい時間を過ごす(=letting the good times roll)( *)という精神が込められています」
https://www.nme.com/news/film/hit-man-soundtrack-every-song-in-film-3758637 より
「そうしたスピリットは全ての曲の特徴といえます。加えて、ニューオーリンズ特有の語彙を見ると、恋愛は一般的に複雑で、時には二面性があり、時には苛立たしく、時には悲劇的なものとして考えられているのがわかります。しかし、そこには忍耐の精神があるのです。まさにこの映画が描いているように」
*この発言は、ニューオーリンズのリズム&ブルース系デュオ、Shirley & Leeによる1956年のヒット曲“Let The Good Times Roll”に掛けているものと思われる。
主に映画の前半部に散りばめられたこれらの曲々は、ポスターの示唆する通り、うきうきと楽しげで、しかし同時にほのかな陰りを帯びたコメディタッチを画面にもたらしており、演出的な効果としても実に巧みな配置がなされているといえる。しかしながら私は、これらニューオーリンズ産音楽の使用に、より根源的なレベルでの作品との結びつきを読み取ってみたい。その結びつきは、ニューオーリンズの歴史と文化を振り返ってみると、よりはっきりと浮かび上がってくるだろう。
