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その選曲が、映画をつくる

『カラーパープル』労働歌、ブルース、ゴスペル…時代を映す音楽とその効果的な「齟齬」

2024.2.1

#MOVIE

© 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
© 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

アフリカンアメリカン女性の悲劇とエンパワーメントの物語

映画のあらすじを簡単に紹介しよう。

前半の舞台となるのは、20世紀初頭の米ジョージア州沿岸。ある黒人の姉妹が、父からの暴力に怯えながらも、二人で手を取り合いながら暮らしている。姉のセリーが虐待の末に妊娠し身ごもり、二人の子供を出産する。しかし、父は生まれてすぐにその子たちをセリーの手から奪い、離れ離れにしてしまう。

ある日、セリーの妹ネティに目をつけていた一人の男が彼女を娶ろうと家を訪ねてくるが、父は厄介払をするようにその男へセリーを押し付ける。幼い子供が駆け回り、荒れ放題の家にやってきたセリーは、「ミスター」を名乗るその男の暴虐に晒される。そこへ、好色な父の魔手を逃れたネティがやってくるが、彼女がミスターの凌辱を拒絶したことをきっかけに、姉妹は無理やり引き離されてしまう。何度でも手紙を出し続けることを誓うネティ。セリーは打ちひしがれ、絶望とともに涙する。

しかし、ネティからの手紙はセリーの手に届けられることなく時は過ぎていく。夫の暴力に怯え、いいようのない苦難の日々を過ごすセリーだったが、そこへ、ある女性たちがやってくる。一人は、義子ハーポの恋人で、独立心の強いタフな女性ソフィア。それからしばらくしてもう一人、ミスターがかねてより恋い焦がれていたブルースシンガーのシュグも姿を見せる。

絶望の淵で暮らしていたセリーは、誇り高き彼女たちの言動に接し、心を通わせていく中で、少しずつ自らのうちに希望の光りと抵抗のパワーを宿し始める……そして、ついにセリーは、自身を虐げつづけてきた世界と勇気を持って対峙しようと立ち上がる。

ストーリー面では概ね1985年版の映画から大きな改変をされているわけではなく、かなり実直なリメイクになっている。これはおそらく、公開当時には毀誉褒貶相半ばする結果となったスピルバーグ版が、現在の視点からみてもかなりの水準で巧みに映画化されたものだったことを告げてもいる。むしろ、今見返してみると、スピルバーグ版の方が、セリーたち女性が負うトラウマの苛烈さ、その描写のジリジリするような入念ぶりという意味において、センセーショナルであるとすらいえそうだ。

他方、この最新版で新たに追加された(あるいは改変、削除された)プロットも少なくなく、全体に、悲劇性への過度のフォーカスよりも、そのトラウマの克服やエンパワーメントの方向性により強い力が注がれている印象だ。このことによって結果的に、長くアフリカンアメリカンの女性たちを苦しめてきた家父長制や黒人差別等の複合的な問題=歴史的に蓄積されたインターセクショナリティをいかにして乗り越えていくのかという思考を、観る者の中にポジティブな形で駆動させていくことに成功しているように感じる(一方では、その苦難の描き方が手緩いという批判ももちろんありうるだろうが)。

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