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「あの頃」を呼び覚まし、今を色づけてくれる、映画と音楽
映画はその後、神保依子との再邂逅や、友人の病気の告白などを経て、ゆるやかに展開していく。加山は「本当にやってみたいこと」に取り組もうと決め、急な出奔をする。そして、『伊豆の踊子』の舞台となった旅館に逗留してシナリオを書き、自らの過去と再対峙していく。そのやり方は、相変わらず情けなく、頼りない。しかし、不思議なほどに晴れ晴れとしているのだ。伊豆の旅館に千恵を呼び寄せて加山の書いたシナリオを元に二人で「演じる」シーンは、本作の白眉ともいえる美しさで、実に儚い。
このシーンにつけられた劇伴音楽も見事だ。静謐なピアノ曲が、悲しみとほのかな喜びの感情を同時に運び込む。本作のオリジナルスコアを担当したのは、「スキンレスナイトバンド」とクレジットされており、全編に渡って随所に見事な音楽を提供している。レゲエ調のエンディングテーマ“願い”もそのスキンレスナイトバンドによるもので、繊細な一編を締めくくるのにふさわしい素晴らしい楽曲となっている。

ラストにかけて、映画は冒頭へと還っていく。時系列をあやふやにしてしまうその仕掛けも(さりげないながら)実に見事だ。映画が還る先は「日常」なのかもしれないが、「青春」は終わらないし、かといって再び始まることないだろう。「あの頃」はふと目を開けば今もそこにあるのだ。
1991年、元ピンク映画監督が描き出した物語は、2023年の私達の「あの頃」をも呼び覚まし、今を色づけてくれる。私はこれから先、“塀の上で”を聴くたびにこの映画のことふと思い出し、折に触れて観かえしたくなるに違いない。かつて作った8mmフィルムのことをふと思い出し、「参考試写」にかける加山のように。
映画情報

『スキンレスナイト デジタルレストア版』
2023年9月16日(土)、新宿k’s cinemaほか全国順次公開
監督:望月六郎
出演:石川欣、八神康子、桂木文 ほか
配給:フルモテルモ
©イースタッフユニオン
https://skinlessnight.com/