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その選曲が、映画をつくる

『スキンレスナイト』 はちみつぱいの名曲にのせて描かれる「失われた青春」

2023.9.13

#MUSIC

象徴的な挿入歌=はちみつぱい“塀の上で”

これまで望月監督は、音楽の使い方に並々ならぬこだわりを見せてきた。たとえば、実話を元にしたチンピラ映画『恋極道』(1997年)では憂歌団を起用し、荒井晴彦が脚本に参加した『皆月』(1999年)では、山崎ハコの歌う下田逸郎作“早く抱いて”をエンディングに使用するなど、1970年代文化とのコネクションを強く感じさせる音楽使用で観客を唸らせてきた。また、2006年から主宰している劇団「DOGA DOGA+(plus)」の公演においても凝ったオリジナル音楽を制作し、効果的に使用してきた。

本作『スキンレスナイト』でも、1970年代に生まれたある曲が、誠に印象的な使われ方をしている。それが、前述した8mmフィルムを「参考試写」と称して事務所で上映する際に流れる、はちみつぱいの“塀の上で”だ。この曲は、日本のロック史を語る上で避けて通れない名バンド、はちみつぱいが1973年にリリースした唯一のオリジナルアルバム、『センチメンタル通り』の冒頭に収録されている。Grateful DeadやThe Band等のアメリカンロックから影響を受けながら、東京の下町地区に漂う詩情を織り込んだ名曲だ。

かつて加山が監督した8mm映画も、どことなくその当時のムードを反映しているふうだ。ギャングに扮した男女が「その店のパンが旨いから」という理由であるパン屋を襲撃するという短編作品で、どことなく、大正レトロ的な印象を抱かせる内容となっている。あえて深入りするなら、ピンク映画の巨匠でもある神代辰巳が大正時代を舞台に撮った『宵待草』(1974年)や、(はちみつぱいとも関係が深い)あがた森魚が監督を務めた『僕は天使ぢゃないよ』(同年)との類似性を指摘してみたくなるし、もっと広く見れば、アーサー・ペンの『俺たちに明日はない』(1967年)をはじめとする「ボニー&クライド」ものが下敷きになっているのは明らかだ(あるいはまた、そのモチーフの直接的なネタ元は、村上春樹の短編小説『パン屋再襲撃』(1981年)かもしれない)。

いずれにせよ指摘できそうなのは、この8mm作品が、明らかに1970年代のサブカルチャーに憧れを抱く「青春の象徴」としての機能を託されているという点だ。冒頭のカットからすると、短編映画の舞台は、今はなき渋谷の裏路地「恋文横丁」のようだ。道玄坂を登ったその少し奥=百軒店には、1970年代当時はちみつぱいが根城としたロック喫茶「BYG」もある。もしかしたら、加山少年もその店ではちみつぱいのライブを観、熱心な映画 / 演劇シンパとして知られるはちみつぱいのフロントマン鈴木慶一と会話を交わしたことがあったのかもしれない。

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