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その選曲が、映画をつくる

『スキンレスナイト』 はちみつぱいの名曲にのせて描かれる「失われた青春」

2023.9.13

#MUSIC

大人になった元サブカルチャー青年の葛藤を描く

本作のテーマは、ずばり「失われた青春とその再生」だ。つまり、(アダルトビデオ業界という「一般的でない」舞台設定にもかかわらず)その物語類型は実にオーセンティックで、これまでも数々の映画が挑んできた普遍的なテーマに貫かれている。だから、私達は容易に作品の世界に入っていけるし、各々の感情を投影することができる。

多少なりともピンク映画の歴史に明るい読者ならよくご存知だろうが、かつて主に日活ロマンポルノが主導した日本のピンク映画界では、後に一般映画で大成する巨匠や、作家性(思い切って「イデオロギー性」といってもいいだろう)を強く秘めた作り手が多く蠢き、「映画的」としかいいようのない実験的な、かつ野心的な試みを数多くフィルムに刻んできた。濃淡の差はあれど、そこにはしばしば「政治の季節」の挫折と、サブカルチャー / 対抗文化の拡散という、1970年代以降の日本のアンダーグラウンド文化に広く共有されていたムードが、色濃く反映されていたのだった。

どうやら、本作の主人公である加山も、そういう時代の空気を胸いっぱいに吸いながら青春時代を過ごし、映画好き / 演劇好きとして将来を夢見てきた「元青年」のようだ。

象徴的なシーンがある。(かつての映画 / 演劇仲間らしい)サラリーマンの男たちと待ち合わせをして、アングラ演劇のカリスマ、唐十郎の劇団「唐組」の芝居を観に行くくだりだ。

生活のために現在はアダルトビデオの監督に「甘んじている」けれども、本当にやりたいことはそうじゃない……。加山のそういう青い思いは、振り切ろうとして振り切れるものではなく、クライアントとの打ち合わせの際にやたら詩的な舞台設定を熱く語ってしまうなど、普段の仕事にも端々にその思いがにじみ出ている(彼よりも「リアリスト」である同僚達は、そんな加山の「癖」をやや冷ややかに見ている)。

唐組の芝居を観た翌日、加山は思い立ったように自宅にある古い荷物をあさる。発見したのは、若かりし頃に自らが撮った(憧れの女性に捧げられた)短編映画を収めた8mmフィルムだ。

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