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その選曲が、映画をつくる

『マルセル 靴をはいた小さな貝』は「アンビエントの映画」だった

2023.6.29

#MOVIE

オリジナルサウンドトラックのモデルとなった、日本の作曲家

通常、映画制作の工程においてオリジナルのスコアを音楽家へ発注する場合、コンテの段階か、あるいはあらかじめ仮編集を施した映像に対して監督自身や音楽監修者の選んだ「仮の音楽」が付けられ、それらのイメージを元に作業を進めていくことがよくある。本作の制作においても同じだったようで、これまでに『ミッドサマー』や『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』等にも携わってきた音楽スーパーバイザーのジョー・ラッジが、「仮の音楽」として、日本のアンビエント作家、故・吉村弘の楽曲をピックアップした。

吉村弘は、近年世界的な再評価を浴びる日本のアンビエントの草分け的な存在だ。1980年代から多くの作品を手掛け、レコードに限らず、サウンドオブジェやパフォーマンス、様々な施設のための音楽を発表してきた。生前において吉村は、ポップミュージックのリスナー一般に必ずしも名の知れた存在とは言えなかった。しかし、2010年代以降の日本産アンビエント再評価の機運の中で過去の作品が大きな人気を博すと、とたんに世界中のクリエイターから厚い支持を受けるようになったのだ。

ラッジもそうした一連の再評価熱を通じて吉村の作品を知った一人だった。彼は、映画情報サイト「IndieWire」の取材に答えて、次のように述べている。

「どんな映画でも、その『声』を見つけるのが一番難しいのですが、吉村弘の音楽が、本作のスコアとして欲しいものの基盤になるとわかっていました」

出典:https://www.indiewire.com/features/general/marcel-the-shell-with-shoes-on-sound-music-shakira-score-1234739824/ より

吉村弘を参照したオリジナルスコアを制作せよ。この命を帯びて作曲に取り掛かったのが、これまでに『イット・フォローズ』や『アンダー・ザ・シルバーレイク』などで優れた仕事をしてきた音楽家、Disasterpeaceことリッチ・ヴリーランドだった。その時点で彼は吉村の音楽についてはなんとなく知っている程度だったといい、各トラックの制作作業はなかなか骨の折れるものだったらしい(実際に映画で使用されているものの3倍に上るトラックを制作したという)。作品を観てもらえればわかるように、果たして彼のオリジナルスコアは素晴らしい効果を挙げており、なおかつ、たしかに吉村の音楽に通じるテイストを湛えたものになっている。

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