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2.5センチの主人公を取り巻く「音」の巧みな表現
加えて本作を特別なものにしているのが、様々な「音」への鋭敏な感覚が実に巧みに表現されているという点だろう。体長たった2.5センチメートルのマルセル主観の聴覚体験を強調しようとすると、例えば、人間の発する音を鋭い大音量にするといったギミックを使うこともできたはずだ。しかし本作では、様々なサウンドはあくまでも自然な処理を施され、巧みにデザインされている。そよぐ風音、足音、虫の羽音、往来の音、どこからか聞こえてくる話し声。それら全てが、あくまで普段私達を取り囲んでいるサウンドスケープの印象と違わぬよう、繊細な音響操作とともに配置されているのだ。
こうした音響設計を伴った映像作品の場合、そこで使われる音楽の選曲と配置には、通常にもまして細やかな神経が要求されるだろう。ドキュメンタリー作品の場合、このような困難を避けるために、そもそも一切の音楽を排してしまうのも珍しくないし、逆に、開き直って劇的効果を狙ったいかにも演出的な音楽付けがなされる場合もある(もちろん、そうした作品にも優れたものは沢山あるわけだが)。しかし本作は、この難しい課題も巧みにクリアしている。
