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折坂悠太『呪文』短期連載

折坂悠太と、その「歌」のあり方。編集者・山口博之が「本は話し相手」とたとえて綴る

2024.9.13

折坂悠太『呪⽂』

#PR #MUSIC

折坂悠太の4thアルバム『呪文』の発表、そしてそのリリースツアーの開催に際した短期連載第3弾。

今回の書き手は、ブックディレクター、編集者の山口博之。折坂悠太の歌詞集『あなたは私と話した事があるだろうか』を企画、出版した山口が「折坂悠太鴨川説」という仮説から、その言葉、その歌のあり方について綴る。

山口博之(やまぐち ひろゆき)
good and son代表。1981年仙台市生まれ。立教大学卒業後、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。2006年から2016年まで選書集団BACHに所属。2017年にgood and sonを設立し、オフィスやショップから、レストラン、病院、個人邸まで様々な場のブックディレクションを手掛けるほか、企業やブランド、広告のクリエイティブディレクション、さまざまなメディアの編集、執筆、企画なども行う。2023年、出版レーベル「wordsworth」を立ち上げ、折坂悠太の(歌)詞集『あなたは私と話した事があるだろうか』を企画、出版した。

本は話し相手、本屋は公園。折坂悠太は本のようであり、本屋のようでもある

本は話し相手のような存在だ。本を読むことは対話をすることで、著者との対話であり、登場人物との対話であり、何より読んでいる自分自身との対話である。そして、本屋は公園のような場所だ。自由に入ることができて、入った人は思い思いに好きな本を手に取ったり、読んだりして時間を過ごし、気に入れば買うが、買わずに出てもいい。そこにいることにコストを要求されず、ただなんとなくいることも許されているさまざまなきっかけに溢れる場所だ。

歌詞集『あなたは私と話した事があるだろうか』をつくる打ち合わせの中で折坂さんは、「自分という人間は、これまで世に生み出された言葉が集まるクラウドから個性や時勢や環境のフィルターを通して持ってきて表現しているイメージがある。自分の詞もまたそこに帰っていくもののひとつ」であり、「公園みたいな感じでいたい」という話をしてくれたことがある。

折坂悠太『あなたは私と話した事があるだろうか』書影(詳細を見る

初回の打ち合わせで、「どんな本を読んできたんですか?」と聞くと「いや、恥ずかしいのですが、あんまり読まないんですよ」と意外な答えが返ってきた。折坂さんの曲や詞の言葉、本人の佇まいを知っていたら、当然たくさん本を読んできたんだろうと勝手に想像してしまう。けれどそれは本の仕事をする私に気を遣ったのだと思う。だって実際、造本のモチーフに童話屋の『ポケット詩集』を選んだり、“芍薬”が詩人川崎洋の「ひどく」から詩想を得て書かれていたりもするのだから。しっかり言葉で表現する人間の歴史の中に生きている。

公園という言葉は、発売後行った書店B&Bでのトークイベントでも話題になり、「鴨川でありたい」とも言い換えられている。折坂さんは、過去と対話しながら現在に生き、未来に言葉を残すという意味で本のようであり、現在において開かれた場のような存在であるという意味で公園や本屋のようでもある。ひとりで本と本屋を兼ねるなんて、ブックディレクター、編集者と名乗り仕事をする自分からすれば、実に羨ましい。

安易な納得や熱狂、誤魔化し、ありきたりな共感に抗う、折坂悠太の言葉のあり方

歌詞集のタイトル案が出るまでに本や本屋についてのこの話を折坂さんにしたかどうか覚えていない。本を読むことは対話をすることと書いたが、『あなたは私と話した事があるだろうか』というタイトルは折坂さんが考えたものだ。「あなたは私と話した事があるだろうか」と冒頭に書かれたエッセイ「雑草と花」から取られている。

そもそもこのエッセイも本の最初に掲載するものとして書かれたわけではない。「私の話はぼんやりとしていて、わかりにくいだろう。でも、いつもそちらを向いている」と書かれた締めの言葉が、この本全体を貫く折坂さんの態度表明として冒頭に据えるべきだと考えた。

折坂悠太『たむけ』(2016年)収録曲

折坂さんは自分をぼんやりとしてわかりにくいというが、そうだろうか。たしかにライブのMCは、わかりやすい近況報告やアジテーションではなく、ライブのMCとしては珍しいやさしく散文的なものであることが多い(『フジロック』では叫んでましたね)。

折坂さんの言葉や詞はわかりにくいのではなく、都合のいい言葉で私たちを安易な納得や熱狂へと誘ったり、誤魔化したりせず、ありきたりな共感で終えることもしない。熱狂に巻き込まれることなく傍観するのでもなく、淡々と熱く、ためらいながら、抗いながら、目をそらさず、真摯に「いつもそちら(私たちの方)を向いている」。

折坂悠太『トーチ』(2020年)を聴く

おまじない、おまもりのような『呪文』で歌われる言葉は、何を眼差しているのか

折坂さんは時々、Instagramのライブ配信を行っている。そこに寄せられた「(配信を見ていて)自分の悩みがちっぽけに思えてきました」というコメントを見つけた折坂さんは、「ちっぽけに思わないでください。きっとそれは深刻な悩みです。考え抜いてください」と応答した。

本の読み手、歌の聴き手の人生はその人が向き合い、考えなくてはいけないことであり、その大小を誰かの何かと比較するものではない、あなたの悩みはあなたにとって重要なことである。折坂さんはそのことをとても大切にしている。

瞳の奥に降り注ぐ
手懐けられぬ風景が
私を私たらしめる
思いがけぬつよさで

折坂悠太“スペル”

小指をきつく締めつける
かけがえのない後悔が
私をここへ連れ戻す
忘れがたいつよさで

折坂悠太“スペル”

自分で思う通りに進めることや乗りこなすことのできない、だからこそおもしろいものでもある感情やできごと、他人という存在と人間関係。

いとし横つら
魂 ディダバディ

折坂悠太“スペル”

そうした日々を支えてくれる、おまじないとしての「ディダバティ」。

https://www.youtube.com/watch?v=OyvYe2kW3Ms
折坂悠太『呪文』(2024年)収録曲

好きな 名も知らない絵の
名を調べた時に
それが「悲しみ」だと知って
君に手紙を書いている

悪い事がまた
起きる時のために
手紙を書いている

折坂悠太“無言”

何かを見るとき、その解釈は見る人間に委ねられる。好きな絵が「悲しみ」を描いたものだと知って頭に浮かべた好きな君のこと。いつも見ていた君の好きな顔が実は悲しみの現れだったかもしれないと、悪いことが起きたときのために送る、おまもりとしての「手紙」。

https://www.youtube.com/watch?v=fyfeJjGbdEE
折坂悠太『呪文』収録曲

“正気”や“ハチス”の詞は、「もしあなたが私の歌を、作られた意図のまま知りたいと思ってくれたなら、言葉の持つ意味を探るよりも、それを切り出す事によってそのとき私が誰と、どんな話をしたがっていたかを考える方が近道だろう」と歌詞集に書いたこれまで折坂さんの詞とは違う、書いた言葉の意味とどんな話をしたいのかがストレートに一致している。

「あれはこんなに恐ろしく
ついには君もわからない」

そんな話はしていない
私は本気です
戦争しないです

折坂悠太“正気”

全ての子供を守ること
全ての 全ての子供を守ること

折坂悠太“ハチス”

https://www.youtube.com/watch?v=kdpGI9UldNA
折坂悠太『呪文』収録曲

平成という時代を振り返った『平成』、コロナ禍をその最中に見つめた『心理』、そして『呪文』へ。呪文やおまじない、おまもりは過去に対しては役に立たない。これから起きること、起きるであろうことのためにある。振り向き、足元を見つめてきた折坂の目は、しっかり前を向いている。

折坂悠太『呪文』アートワーク写真(各社音楽サービスで聴く) / NiEWに掲載したインタビューはこちらより(記事を開く

折坂悠太『呪⽂』

2024年6⽉26⽇(水)発売
発売元:ORISAKAYUTA
折坂悠太『呪⽂』特設サイト
orisakayuta.jp/jumon

●初回限定盤(2CD)
品番:ORSK-020
価格:¥4,400 (税抜価格 ¥4,000)
アルバム CD+インストバージョン CD
●通常盤(CD のみ)
品番:ORSK-021
価格:定価¥3,300 (税抜価格 ¥3,000)

■収録曲(初回・通常共通)
1. スペル
2. 夜⾹⽊
3. ⼈⼈
4. 凪
5. 信濃路
6. 努努
7. 正気
8. 無⾔
9. ハチス

https://orcd.co/orsk-jumon

折坂悠太『呪⽂ツアー』

2024年9⽉18⽇(⽔)宮城公演
open 18:00 | start 19:00
会場:⽇⽴システムズホール仙台 シアターホール
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:GIP ( www.gip-web.co.jp / 0570-01-999 )

2024年9⽉20⽇(⾦)北海道公演
open 18:00 | start 19:00
会場:共済ホール
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:WESS ( wess.jp / info@wess.co.jp )

2024年9⽉22⽇(⽇)⼤阪公演
open 17:00 | start 18:00
会場:サンケイホールブリーゼ
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:SMASH WEST ( www.smash-jpn.com / 06-6535-5569 )

2024年9⽉23⽇(月)岡⼭公演
open 17:00 | start 18:00
会場:おかやま未来ホール
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:YUMEBANCHI ( www.yumebanchi.jp / 086-231-3531 )

2024年10⽉6⽇(日)福岡公演(ソールドアウト)
open 17:00 | start 18:00
会場:電気ビルみらいホール
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:BEA ( www.bea-net.com / 092-712-4221 )

2024年10⽉7⽇(月)愛知公演
open 18:00 | start 19:00
会場:名古屋市⻘少年⽂化センター アートピアホール
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:JAILHOUSE ( www.jailhouse.jp / 052-936-6041 )

2024年10⽉9⽇(水)京都公演
open 18:00 | start 19:00
会場:ロームシアター京都 サウスホール
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:キョードーインフォメーション ( kyodo-osaka.co.jp / 0570-200-888 )

2024年10⽉17⽇(木)東京公演
open 17:30 | start 18:30
会場:LINE CUBE SHIBUYA
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:
SMASH ( www.smash-jpn.com / 03-3444-6751 )
HOT STUFF PROMOTION ( www.red-hot.ne.jp / 050-5211-6077 )

2024年10⽉18⽇(金)東京公演(ソールドアウト)
open 17:30 | start 18:30
会場:LINE CUBE SHIBUYA
券種:全席指定 / 前売:¥6,500
お問い合わせ:
SMASH ( www.smash-jpn.com / 03-3444-6751 )
HOT STUFF PROMOTION ( www.red-hot.ne.jp / 050-5211-6077 )
総合お問い合わせ先:SMASH ( smash-jpn.com /03-3444-6751 )

企画/制作:AMUSE / SMASH

■チケット詳細
⼀般発売:6⽉29⽇(土)10:00〜
ぴあ:w.pia.jp/t/orisakayuta-band24/
ローチケ:l-tike.com/orisakayuta/
イープラス :eplus.jp/orisakayuta/
・お⼀⼈様4枚まで
・紙、電⼦チケット併⽤ ※チケットぴあはセブン発券/紙チケットのみ(電⼦なし)
・⼩学⽣以上チケット必要、未就学児は席が必要な場合は要チケット

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