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運動が苦手な村田さんが、体育で輝いた日
オカヤ:歳をとるといろいろ変わりますよね。私は最近、いよいよ運動をしないと死ぬなという気がしてきて、嫌じゃない運動を探したいと思ってるんですよ。
村田:私も命の危機を感じて、今はジムに通って、ほとんどリハビリのようなことをしています。運動は苦手なのですが、トレーナーさんが悩みをわかってくださって、「腰痛防止になります」「将来転倒しなくなります」と言ってくださるので、がんばることができます。
オカヤ:腰痛予防と言われると、やらなきゃ! ってなりますね。私は本当に運動神経がなくて、コンプレックスなんです。体育でいい思い出、ひとつもないもんな。
村田:私も運動はとてつもなく苦手なんですが、一度だけ人生の輝きみたいなことがあって忘れられずにいます。小学校のとき、ほんの数回だけ相撲の授業があって。
オカヤ:あったかもしれない。千代の富士が人気だった頃ですよね。
村田:子供たちは相撲に対して「裸に廻し」のイメージが強いからか、「ちょっと恥ずかしい」という雰囲気があったと思います。みんな笑っていて、あまり真剣にやっていない中、先生が「腰を低く」と言っていたので、その通りに腰を低くひたすら押すようにしていたら、私、押し出しだけでトーナメント戦を勝ち抜いてしまったんです。
オカヤ:おお、すごい。
村田:それで、女子を勝ち抜いてしまったので、優勝候補の一番身体が大きい大島田くん(仮名)vs村田という組み合わせになって。たぶん誰も覚えていないのですが、自分にとっては一生に一度、体育で活躍した経験なので奇妙に鮮明に覚えているんです。大島田くんがまったく手抜きをせず、私を5秒くらいで倒してくれたことにも感動しました。
オカヤ:真剣に戦ってくれたんですね。
村田:はい。人間性を感じました。同窓会で大島田くんに話しましたが、大島田くんは一切覚えてなかったです。
オカヤ:大島田くんはいつも勝ってるから。
村田:「ごめん、ちょっと覚えてないかもしれない……」みたいな感じで、今もすごくいい人でした。そういう「誰かにしかない記憶」というのも、すごく面白いですよね。
オカヤ:いい思い出だなあ。大島田くんは村田さんの本、読んでるかな?

書籍情報
村田沙耶香
『世界99』(上・下巻)
2025年3月5日刊行
集英社