漫画家オカヤイヅミさんが、ゲストを自宅に招いて飲み語らう連載「うちで飲みませんか?」。第7回は『コンビニ人間』『殺人出産』『信仰』などで知られる小説家・ 村田沙耶香さんにお越しいただきました。
よく会うけれど、サシ飲みは今回がはじめてというお二人。村田さんが最近まで半年間滞在していたスイスでの暮らしぶりから、書き手にとっての親との関係の難しさまで、いろいろな話題が飛び出した雑談の模様をお届けします。
当日振る舞われた「スペアリブのお雑煮」のレシピもお見逃しなく!(レシピは記事の最後にあります)
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「人としゃべることで自分の体を認識する」
オカヤ:お久しぶりです。お会いするのはいつぶりでしたっけ? 村田さんがスイスに滞在しているあいだのInstagram、サバイバル感があるなと思って見てました。
*村田さんは今年、ライターインレジデンスでチューリッヒに半年間滞在していました。
村田:直接お会いできたのは久しぶりに感じます! スイスは、そんなに長期の滞在をするのは初めてで、自分にとってすごく大切な経験になりましたが、英語もドイツ語もわからないので大変でした。レジデンスにはいろいろな形式があって、前に1か月行っていたアメリカのレジデンスは、作家が10人くらい集まって滞在していたんですが、今回のスイスは私1人だけだったんです。図書館でトークイベントを1回するのと、スイスの雑誌にエッセイを1本書くという宿題がある以外は、自分の創作に集中してください、というタイプのレジデンスで、今までにない体験でした。

2003年「授乳」で群像新人文学賞、2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年「コンビニ人間」で芥川賞受賞。他の著書に『マウス』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』『信仰』など多数。2025年3月に最新刊『世界99』を刊行予定。
オカヤ:ぜんぜん知り合いもいないんですか?
村田:以前イベントでお世話になった翻訳家さんと再会するまでは、誰もいなかったです。スイスで気づいたのですが、私は人としゃべる時間を大切にしていたんだなあ、と。人と会わないと、心の中に生まれた言葉が外に出ないままずっと自分の身体の中を回転している感じで、苦しくなってきてしまいます。
オカヤ:会話がないとつらいですよね。私は一人暮らしが大好きだし、たぶん孤独に強い方ではあると思うんですけど、人としゃべることで自分の体を認識するようなところはあります。
村田:わかる気がします。
オカヤ:生活面もぜんぜんケアしてくれないんですか? インスタで「洗濯ができない!」って書いてましたよね。
村田:滞在していたのは普通のアパートメントだったのですが、地下に洗濯できるお部屋があって、使える日が週に1回と決まっていたんです。特別なカードがないと電気も通らないのですが、到着したときに紛失してしまっていて……。
オカヤ:たいへんだ。○号室の人は何曜日、みたいな感じなんですね。
村田:そうです。お部屋によって決まっていて、その日を逃すと1週間洗濯できないんです。翌週の水曜日に用事があったりするともう無理なので、いつも水曜日はお洗濯に集中していました。

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作品が海外で読まれるということ
オカヤ:村田さんはもう、日本より海外での方が多く読まれているぐらいですよね。
村田:たぶんそんなことはないと思います(笑)。街の本屋さんで自分の本を発見するともちろんうれしいですが、基本的には「誰だろうこの人?」という感じだと思います。読んでくれている稀有な方がいるのだなあ、と実感がわくのは、海外でイベントをやって読者さんが来てくれて、サインしてるときくらいですね。あと、(自著を訳してくれた)翻訳家さんはだいたいその国にお住まいで、現地に行かないと会えないことが多いので、会えてお話できるのはとてもとても嬉しいです。
オカヤ:こないだ友達の漫画家が外国の漫画フェアに参加したら、漫画がアートの一環として位置付けられていて驚いたと話してました。漫画の場合はそういうふうに、国によってわりと位置付けが変わる感じがありますけど、文学はわりと世界共通じゃないですか?
村田:どうなのかな……。国によって違うと思いますが、文学を扱う出版社さんは文学だけを扱っていて、日本のように幅広く出版していないというお話をよく聞く気がします。漫画とは出版社さんが違うのかもしれませんね。よくわかってなくてすみません。
オカヤ:なるほど。
村田:ミステリーを扱う出版社さんや、ファンタジーを扱う出版社さんなど、いろいろあるとお聞きしたのですが、どの国でもそうなのかちゃんとわかっていないです。
オカヤ:国によって受け取られ方も違ったりするんですか?
村田:少し前にトリノのブックフェアに参加したんですが、イタリアでは今、日本文学といえば「猫が出てきて、喫茶店が出てくる、ほっこりした話」というイメージがあって、表紙に猫がある本がたくさんあるんですよ、と書店さんを案内していただいました。現地の新聞の方からインタビューで「いま、つらいニュースが多い世の中で、あたたかみや癒しを求めて日本文学を手に取る人が多い中、村田さんが真逆のものを書くのには理由があるのでしょうか?」って質問されて、とてもびっくりしました。でもなんとなくうれしかったです(笑)。
オカヤ:そんな!
