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小説と料理は似ている?
滝口:オカヤさんは人が書いたレシピを見て作ることもあるんですか?
オカヤ:レシピは、読み物として読みます。レシピ本って、その人の思想がわかるようなところがありますよね。
滝口:なるほど。僕は、レシピという文章の形式とすごく反りが悪いんだと思うんですよね。最初に全部読んで「2番の工程は、7番でこういうふうな結果を得ることになる」とわかった上で2番をやればいいんですけど、それができないんですよ。例えば2番に必要な材料がないときに、「結果こうなるんだから、これがなくても大丈夫」という遡行的な視点がないまま、「できない、でもこれをやれと書いてある、どうしよう」となって、「ええいじゃあこれでどうだ」と場当たり的な何かをしてしまうんです。
オカヤ:そういえば、こないだハッシュドポテトを作るときに、片栗粉を使ってるレシピがあったんで、いつもは小麦粉で作るんですけど、片栗粉にしてみたんです。そうしたら、モチモチしたのができたんですけど、私、モチモチしてるのはあまり好きじゃないんですよ……。片栗粉を使えばそうなることは考えればわかったのに、書いてあるからそうしちゃった。そういうことはありますね。
滝口:なるほどー。でもやっぱり僕と違ってレシピから逸れるにしても大崩れしないんですね。事後の分析も完璧で、今後に生きる失敗ですね。
オカヤ:私は「自分よりも世間の方がだいたいのことに対して優秀だろう」と思っているところがあって。みんなこんなにだらしなくないんじゃないか、自分ができないことを他の人はみんなできているんだろう、と常々思っているので、レシピについても「書いてあるんだからこれが正しいんだろう」と思ってしまいがちかもしれません。
滝口:ああ、僕にはその謙虚さがないのかもしれない。どこかで、レシピを逸脱して、もっとおいしいものができるんじゃないかという夢を見ているところがあります。
オカヤ:ホームランを狙っちゃう。
滝口:そうですね。サインを無視して(笑)。
オカヤ:主人公タイプですね。そういうタイプがすごい発明をすることもある気がするけど。
滝口:ほぼ三振ですね。打率が低すぎる(笑)。
オカヤ:まあ、料理は失敗しても最悪食べれますからね。
滝口:そうそう。どうにかなると思うから、向こう見ずな感じで進んでしまうところもあるのかもしれません。
オカヤ:小説も、最後までの見通しがあれば良いものになるというわけじゃないですし。
滝口:そうか。小説を書く仕事をしているから、というのもあるのかな。最後まで決めてから書き始めても、どうせその通りにうまくなんかいかないよって思ってるから。なんで料理にもその考え方を当てはめてしまうのかわからないですけど。
オカヤ:そうですね……。
滝口:あと、いま話していて、書き手としてはそんな読み手は嫌だなと思いました。書いたものをどう読んでもらってもいいですけど、書いてもないことを勝手に読み取って「自分なりの読み方をすればもっと面白いかもしれません、それを夢見てるんです」って言われたら、「お前は何を言ってるんだ」と思いますよね(笑)。
