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「ジャズのCD」に特化した、こだわりのBGM
2010年代のレコードブーム以降、レコードをかけるカフェやバーが増えた。その中にはこだわりのオーディオで大きな音量で聴かせてくれる店も少なくない。しかし、ウィスカが面白いのは、ここでかけているのは全てCDであること。戸嶋さんは「狭い店内にはレコードプレイヤーやレコードを置く場所がなかったから」というが、それだけが理由だと僕は思えない。ウイスキーの棚の少し横に並んでいるここのCDのコレクションにはこだわりが感じられるからだ。まず、ここにあるのはほとんどが1980年代半ば以降のジャズ。日本でのCDの売り上げがレコードを上回ったのが1986年なので、ちょうど主流メディアがCDに切り替わった時期以降のアルバムが揃っていることになる。

1980年代半ばといえばマイルス・デイヴィスが若手を起用することで最後の輝きを見せた時期でもあるし、ウィントン・マルサリスの登場によりアコースティックのジャズが再び盛り上がりを見せていた時期でもある。具体的にはサックス奏者のケニー・ギャレットがマイルスのバンドに抜擢され、ウィントンが名盤『Black Codes』をリリースしたころ。つまり、ウィスカで鳴っているのは、多くの店がメインにしている1950〜1970年ごろのジャズではなく、その後の時代にフォーカスしている。それらを控えめに鳴らしているのだ。

しかも、CDがただ集まっているだけでなく、内容が抜群でたまらない。例えばロバート・グラスパーを軸に考えてみると、グラスパーが影響を受けたピアニストのマルグリュー・ミラーや、若き日のグラスパーを起用していたサックス奏者のケニー・ギャレットが揃っている。他にもグラスパーの憧れの存在だったトランペット奏者ロイ・ハーグローヴがネオソウルに取り組む以前の作品もあれば、グラスパー本人の初期作もあれば、若き日のグラスパーが同世代と録音した作品もある。どう考えても「わかっている人」の「こだわりのある」コレクションなのだ。
他に目についたところだとニコラス・ペイトンやマーカス・ストリックランド、ピーター・マーティンやアーロン・パークス、ジョーイ・カルデラッツォやクリスチャン・マクブライドなどなど。それらのCDが積み重なっている中にはなにげにジュリアス・ロドリゲスやイマニュエル・ウィルキンスのような最新のジャズも挟まっていたりもする。狭い店内に置かれたCDはしっかり厳選されているのだ。
