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みらんと小原晩の交換日記『窓辺に頬杖つきながら』

「あなたは光っていること、わたしは忘れません」交換日記の終わりに寄せて

2024.5.7

#BOOK

from みらん #17 ― 2月7日(水)

コーヒーがうまく淹れれない晩ちゃんとは裏腹に、私はインスタントコーヒーを唸るほど美味しく淹れることができます。ひと口飲んでは「うまぁ」と声に出すくらいの。うわべは酸っぱく、でも大胆に熱くて苦いコーヒーは至福よな。コツがあるので、今度教えてあげるね。

さて先日、「太陽、そして爆音、しかし冷静」をテーマにバンドセットでライブをしたところ、かなり良いライブができました。寒い夜に、頑張って来てくれるお客さんに元気を与えたい一心だった。良いライブをすることしか考えてなかったから、終わって帰ってから、放心状態になった。自分の中から太陽も爆音も冷静も無くなり、外は大雪、雷も鳴り出して、布団にくるまった。あの日は凍えたなぁ。晩ちゃんは大雪も雷も、平気だった? 私はもう、どんどん小さくなって、でもせめて布団の中で出来ることをしようとこの日記を書くけれど、書いては消して書いては消して、まったく集中できず、そのまま2日経ちました

ようやく、窓から光が差したので、外に出て、バスに乗り、公園を歩き、バナナミルクを飲み、ベンチに腰かけ太陽を浴び、日記を書きだす。

「太陽を浴びているところ」

時々、池の上で波紋を広げながら進むアヒルを見たり、土の上でしば犬がうんちするのを静かに待ってる飼い主を見た。晩ちゃんが前に、窓の外の風景のこととか書くといいよと言ってくれたのを思い出す。ほんとうに、いいね。立ち上がって、歩き出して、光るベンチを見つけてまた腰かける。となりで若いママ同士が、「まじ日暮れるの早いよね」「まじでそれな、つらい」と会話してるのを聞く。それも書いちゃおう。ついでに、夕暮れ時の、寂しいブルーとオレンジのグラデーションも。書いたらなんか、良いもんだ。

それからは電車に乗り、下北沢のカフェへ。お店のドアを開けて壁際ソファ席、晩ちゃんがひとりぽつんと待っていて、かわいかった。

from 小原晩 #17 ― 2月13日(火)

あんまり人のいないカフェにあらわれたみらんちゃんはフードをかぶって帽子をかぶってマスクをつけて完全防備の形相だったわけだけれど、そのわずかな隙間からみえる肌はぴかぴかとして希望っぽかった。

雪の日の朝、それはまだ雪の降る前で、元同居人から久しぶりに連絡があってお昼ごはんを食べにいくことにしたのだけれど、わたしは天気予報をまったくみないから今日は雪の降る日だということを知らなくて、げらげらと麻婆豆腐を食べていたらいきなり雪が降ってきたのだった。どうりでさむいよね。それから珈琲をのんだりしてるうちに雪はうすくつもるほどになって、小田急線にのって家へ帰った。たしかに雪がたくさん降ると、ここ以外に逃げ場はない感じでがしてちょっと苦しいね。そうは言ってもうれしい感じもあったかもしれない。不思議な幸福感があった。それはただたんに非日常と言ってしまえばそれだけのことなのだけれど、雪が降った、それだけで、人間たちの、街の、ふんいきがガラッと変わってしまう、そういう事実に対しての浮遊感があった。

日々を記録することの尊さ、削れよう、いいことばかりじゃないけれど、悪いことばかりでもない感じ、そのあやふやな感じは、この交換日記を通して体感しました。日々を記録するということはいつだって何か言っているようで何も言ってないのだね。つまり意味は、生きることに意味は、必要ないのだと、そういうことなのかもしれないと今のわたしは思っています。

生きているだけでみんながそれぞれの光を放っていること。その光がどれだけ怪しくとも、可笑しくとも、僅かでも、あなたは光っていること、わたしは忘れません。その光を信じるだけの、みつめるだけの、余裕が、余白が、みんなに、そしてわたしに生まれることを祈っています。交換日記を通して、やり取りのうれしさを教わりました。みらんちゃんのまぶしさにわたしはこの1年間ずっと照らされました。ありがとうね。

from みらん#18 ― 3月4日(月)

晩ちゃんから届く最後の日記。いつも通り、すかさず読んだ。読み進めていくうちに、文字が発光していった。こちらこそ、まぶしいよ。救いだよ。ふくよかだね。ありがとう。

あれから完全防備はやめました。代わりに、自分を守ってくれそうなピアスやネックレス、タトゥーシールを身につけて、よく外に出ています。大した進歩だ、と踏みしめていく一歩一歩。思考に行動が伴っていて、快い。

勢いにまかせて、友達にもたくさん会っている。

祝日の井の頭公園を散歩しながら、煌めく池を縦横無尽に泳ぎまわるスワンたちを見て笑い合ったり、深夜に集まりお酒を飲みながら好きな音楽を流して踊り合ったり、雨降りの日に水族館に行ってイルカショーを見てちょっと泣き合ったり。

たのしい時間、うれしい時間を共有できてありがたいなあ、恵まれているなあ、と思えば思うほど、無性に家に帰りたくなる。それで帰って湯船に浸かりながら、友達が自分に向けてくれた顔の優しさ。その奥に堪えている寂しさや日々の労働をいたわって、私がなんとかしてあげられないだろうか、と考える。けれどいつも行き着く先、今の私が出来ること。それはもう、笑顔で音楽を届けること。ほんとにそれしかなくって、それだけが凄まじくあって、燃えるような気持ちが募って、ギターをもつ。マネージャーが新年に手渡してくれたエレキギターの重いこと。よろめきながら、しっくりきて。

生きることに意味はないのかもしれないけど、生きていると、出会う人、交わす気持ち。そうして手のうちに宿るエネルギー。そこにはしかりと意味、というか、与えられた役割、みたいなのがある気がして、私は私のそれを全うしたいと強く思う。

晩ちゃんの言葉には、いつも全うさがあって、その存在感に、痺れるほどうれしくなります。しゃんとします。ほんとうに出会えてよかった。

感謝を込めて、交換日記はこれにておしまい。窓辺に頬杖つきながら、よくよく書いたね。いい時間だった。これからは、一緒に外へ出かけましょう。景色を見て、季節を感じ、文化に触れ、よく食べ、よく笑い、バイバイしたら、エッセイを書こう。きっと、楽しくなるね。

みらん

1999年生まれのシンガーソングライター。
包容力のある歌声と可憐さと鋭さが共存したソングライティングが魅力。2020年に宅録で制作した1stアルバム『帆風』のリリース、その後多数作品をリリースする中、2022年に、曽我部恵一プロデュースのもと 監督:城定秀夫×脚本:今泉力哉、映画『愛なのに』の主題歌を制作し、2ndアルバム『Ducky』をリリース。その後、久米雄介(Special Favorite Music)をプロデューサーに迎え入れ「夏の僕にも」「レモンの木」「好きなように」を配信リリース、フジテレビ「Love music」でも取り上げられ、カルチャーメディアNiEWにて作家・小原晩と交換日記「窓辺に頬杖つきながら」を連載するなど更なる注目を集める中、新曲「天使のキス」を配信/7inchにてリリースした。2023年12月13日には新作アルバム『WATASHIBOSHI』をリリースする。

小原晩(おばらばん)

小原晩

作家。2022年初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版。2023年「小説すばる」に読切小説「発光しましょう」を発表し、話題になる。 9月に初の商業出版作品として『これが生活なのかしらん』を大和書房から刊行。

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