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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
みらんと小原晩の交換日記『窓辺に頬杖つきながら』

希望の5月か、喪失の5月か。みどりの風が薫ってくる。

2023.6.6

#BOOK

fromみらん #5(5.15)

どうも晩ちゃん。5月になったね。
5月と聞くと、頭の中でいつも思い出して嬉しくなることがある。それは大好きな有吉弘行が2022年5月2日にしたツイートで、「あらためて言います。5月は1年で最も良い月です!4月.10月以外の反論はお断りします。」というもの。私はこのツイートが、世のツイートの中でいちばん好きかもしれない。だってなんか、爽やかなみどりの風が薫ってくるんだもん。4月は春めくあたたかさにほっぺた落ちそうになるし、10月は金木犀の匂いと胸まで入ってくる涼しい風が感傷をさわがせてくるけど、それでもやっぱり5月の優越感には敵わない。このきもちよさに、乗っかっていけよ私。そんなかんじで堂々と過ごしたいところ。

ちなみに私が気休めとして大信頼をおいている占いの先生からは、今月は怒らず、器が広い自分を想像し、人を和ませ、温厚であることを意識するよう言われてたりする。そんな大きな意識ばっかりたくさん、出来るんかいなと思うけど、それすらも器広げて、こういうのはイメージの問題だ。イメージが大事なんだ。って頷いて、やってみていくよ。

5月のみどり

さてと、私は相変わらず大阪と東京を行ったり来たりしてます。普段は大阪で生活しているので、東京に来たからには、ここぞとばかりに予定が入る。少し前までは詰まれた予定をこなしてこなして、やっとこさホテルに帰り、ひとりで万歳するのが最高に幸せだったんだけど、お金が嵩むこともあって、最近のブームはホテルをとらず東京に住んでる友達の家に押しかけること。今までに遊んだことがあるとか、年齢とか場所とか、そういう都合は気にせずに、ただただ会いたい人に連絡をしてみる。そうすると案外引き受けてくれることが分かって、会いに行く前に幸せな気持ちになれることも分かった。そうして何人かのお宅にお邪魔させてもらって気づくことは、人によって、もてなし方が全然違うこと。もてなし方って言い方を私がするのは偉そうで恐縮だけど、ほんとに、ほんとに違くてね。ある人はホテルのようにアメニティを用意してくれたり、ある人はお風呂あがりに白ワインを、起きがけに焼きたてトーストの朝食を用意してくれたり、ある人は実家のように、好きにしていいよとキッチンを使わせてくれたり。

やさしい友達

どのサービスもありがたくってあったかくって、私は「嬉しいなあ」ばかり言うことになる。1回の東京遠征で、100回は言うんだよ。これまで、なんだか家族や恋人でもない人に、すっぴんとか、トイレけっこう頻繁にいっちゃうとことか、足広げて寝るとことか、見られていいもんじゃないって思ってたけど、いやそれは今も思ってるところあるけど、それ以上に、みらんちゃんお疲れ様という歓迎の心を受け取ることが、自分にとってこんなにも満たされるものなのかと感動した。おかげさまで、温厚も温厚。人の優しさに触れまくりながら頑張りまくれてます。ありがたすぎるよ。そんでもって、つい気になることは、おこがましいけれど晩ちゃんの私へのおもてなし。ぐふふ。いつか機会があればお邪魔させてよね。今、私ウインクしたよ。よろしくよ。

from小原晩 #5(5.22)

わたしは五月になってからというものあまり元気がなくて、そういえば五月病という言葉があったことを思い出して調べてみると、それは新入社員などのみなさんが、ぐんぐんとためていたあたらしい環境への疲れがどっと体や心にくる月ということらしく、わたしはあたらしい環境もなにもずっと家でウウと唸っているだけなのにつかれ果てているとはなにごとでしょう、と、また一段深く落ち込んで、ということの繰り返しで、爽やかなみどりの風が吹いていることにも気づかずに日々を過ごしていました。

そんなふうにおもてなしするひとたちがいることに驚いているよ。やさしくてあたたかい人がいるものだね。すてきな世界。しかしわたしは、もてなすのは苦手だとおもいます。自信がない。けれど考えてみます。

夜九時、みらんちゃんは仕事を終えてうちに向かってくる。わたしは最寄駅まで迎えに行って、コンビニかスーパーに寄り、ビールやらワインやらお惣菜やらおつまみやらあまいものものを買い込む。
部屋についたら、すぐにお風呂に入りたい派なのか、ひと息つきたい派かを確認する。(わたしはみらんちゃんがくる前にお風呂をすませておく)
(みらんちゃんはすぐお風呂に入る派だと予想して、前に進みます)
お風呂から上がったみらんちゃんにキンキンのビールを手渡して乾杯。それからはお互いの好きな音楽を流しながら、最近のことやこれからのことを話す。

うーん。ぜんぜんもてなせなかった。おもてなしって、むずかしい。発想が、ないわ。わたしには。

ところで他人の家に泊まるとき、どうやって眠っている? 友だち用の布団があったりするのかな。わたしの部屋はベットがひとつしかないので、友だちを泊めるとき、一緒のベッドで眠ることになるのだけれど、わたしは友だちと肌がふれあうことに対してけっこう抵抗があるの。それはすごく仲の良い友だちだとしても。
ふくらはぎでも、手首でも、背中でも、ふれると自分の肌と他人の肌の輪郭をやけにはっきり感じて、それはいくら時間が経っても馴染まなくて、落ちつかない。うまく眠れなくなって、ベッドを抜け出して、一人掛けのソファーでまるまって眠る、ということにいつもなる。みらんちゃんはうまくねむれる?

fromみらん #6(5.26)

晩ちゃんのおもてなし、シミュレーションにて堪能させてもらいました。晩ちゃんはぜんぜんもてなせてないと言うけれど、まず私が夜九時に仕事を終えてやってくるのを想定しているあたり、そのタイム感、妥当すぎて、それだけで愛おしさ膨らんだよ。私の無理強いウインクに、こたえてくれてありがとう。

家族でも恋人でもないひとと肌が触れ合うのは、ドキッとするよね。言葉ばかり交わすのに慣れていると、突然肌が触れた時、その温度、質感、あったかいようなつめたいような、、一瞬にしては感じ取るものが大きくて身も心もびっくりするかんじ。だけど、一緒の布団でもうまくねむれる? についてのアンサーは、「うまくねむれます」。

ひとつ確固たる理由があってね、慣れない場所で丸一日稼働してきているから、もうくったくたで、目を閉じればすぐ落ちる状態になってるんだわ。その間肌が触れたとしても気がつかないくらいの落ち度。こんなにも他人の家でグースピ寝ている私を横にしたら、晩ちゃんはきっと、大した女だな! と、なんだか笑えてくるはず。いろいろ気をつかわせてしまったと思うので、それからは私の寝顔で一杯やってくださいな。

こちらがさて現実になることは、あるのかないのか。そんなことより、今、現在、晩ちゃんのつかれを私はけっこう心配しているよ。心配するたびに連絡するようなことはしてないけれど。大丈夫かい。

この前、晩ちゃんがはじめて書いたという小説が発売されて、私は本屋さんに行って、買って、すぐ読んだ。晩ちゃんが私の新曲を聴いてくれて、祝ってくれるように、私も晩ちゃんを祝えるタイミングで盛大に祝いたい。自分が時間をかけて作ったもの、世に出るまでは自分だけがよしよしと持っていて、みんなの手に渡ることについて心の準備もしていて、それでもいざ放たれると、みんなが反応してくれる嬉しさはきちんとあっても、喪失感ってのがすごい。それにこの度は五月病という社会がもつ病も関係して、疲れちゃったね。ひとつまえの日記では温厚だった私も、かなりやられちゃってます。みどりの風はみどりの風でいてくれてるのに。とりあえず、ああ、だめかも。と思うたびに深呼吸をして、胸を広げて、手を広げて、ほら、イメージ、想像、怒らない。って唱えてる。するとほんとに大丈夫だったり、もっとだめになったりするから、どうしようもない。けど私は晩ちゃんを心配できる心の場所があった。良かった〜って思う。

何かひとつ、自分の中で区切りがついた時、パッと花が咲かないのは、きっとまだまだ自分にやれることがあるって、そういうふうに希望をもてたら、いいよね。いいんだけどね。無理なんか、絶対にせず。また今度、遊ぶ約束をしよう! 私はもうちょっと、大阪で頑張ります。

どこでも寝落ちているモンチを2枚、どうぞ。

みらん

1999年生まれ、兵庫県在住。包容力のある歌声と可憐さと鋭さが共存したソングライティングが魅力。2021年にはシュウタネギ(WANG GUNG BAND、ex.バレーボウイズ)とのEPや1st AL『帆風』のCD化、EP『モモイロペリカンと遊んだ日』、猫戦のボーカリスト・美桜との共作カセットシングルなど精力的にリリースを重ねる。2022年3月16日(水)に、監督:城定秀夫×脚本:今泉力哉、映画『愛なのに』の主題歌「低い飛行機」(プロデューサー:曽我部恵一)を含む2ndアルバム『Ducky』をリリース。その後、久米雄介(Special Favorite Music)をプロデューサーに迎え入れ「夏の僕にも」「レモンの木」を配信リリースし注目を集める中、3月22(水)に新曲「好きなように」をリリースした。

小原晩(おばらばん)

小原晩

作家。1996年東京生まれ。2022年3月、初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。

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