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私たちの「はねやすめ」

代々木公園のHINENE NOTEで特別なノート作り 秘密は手書きでとじこめて

2024.10.3

#BOOK

すっかり字を書かなくなった。PCやスマホがあればメモも取れるし、日記も書ける。でもそんな日々だからこそ、ノートを開いて「何を書こう?」と考えることが特別になる。連載第4回目は印刷会社の一角から始まったという、自分だけのオリジナルノートが作れるHININE NOTE(ハイナインノート)を訪れた。

雨の日の光(from みらん)

ほんとうは代々木八幡駅まで行くつもりが、台風10号の影響で小田急線が運転を見合わせていたので、井の頭線に乗り、駒場東大前駅で降りる。

相変わらずの豪雨。けれどこの頃、『東京百景』(又吉直樹著)を読んでいるので、どこの駅で降りても香ばしい。目的地まで、びしょびしょの靴で20分ほど歩く。

今日は久しぶりに友達に会うなあと思って、HININE NOTEに着く手前、一旦立ち止まって、にっと笑ってみた。

店のドアを開けると、同年代くらいの女性店員さんが物腰柔らかく迎え入れてくれた。奥の方にいる晩ちゃんに近づく。晩ちゃんの髪はベリーショートになっていた。似合っているし、着ているベストもすごくかわいいから、いつも自分に似合うものをどうやって探しているのか、ピンと来ているのか、気になる。

店員さんと晩ちゃんと談笑してるうちに、カメラマンの菜々子ちゃんと編集さんが来た。私はまだ服が濡れていてだらしがないのに、みんなさっぱり涼しい顔をしているから、なんでだろう、なんでだろう、が頭のなかで騒ぐまま、ノート作りがはじまった。

店員さんの説明はさらりと簡潔で、あとは自分たちで好きなようにしてください、というかんじ。

外見も中身も、想像以上に選ぶ事柄が多い。飾られている様々なノートを手に取ってみながら、これもいいな、あれもいいなあと、さらに増える選択肢に参ってしまう。

となりで晩ちゃんは、レザー生地にかなり惹かれているっぽい。レザー生地は一番値が張るところを、そんなの全然気にしてないようすだからかっこいい。そういえば前に、本はお金がなくてもつい手が伸びてしまうし、自分にとってそういう存在なんだ。大切なんだ。と言っていたことを思い出す。なるほどなぁと、ちょっと見惚れる。

いろいろいろいろ悩みつつ、えい!  っと表紙を決めてみたら、そこからはすんなりリングや裏表紙、丸タックなどの各パーツも決めていくことに成功。私はデザイン性や利便性というよりも、色の組み合わせ重視で選んでいった。いわゆるカラーコーディネートってやつ、私ちょっと、得意かもしれない……! と思ったり。

ノートの留め具はゴムや丸タックなどから選べる

最後に刻む文字を決める。これまた無限のような選択肢に頭悩ませるタイム突入。

雨が降っているから、「AME SANSAN」とかどうかなって晩ちゃんに言ってみたら、はははっと、それだけだった。微妙そうなのでやめる。

ふと「GURUGURU」が浮かぶ。あれなんか、良いんじゃないのと思ったら、この頃大ハマりしてるドラマ『西園寺さんは家事をしない』の登場人物、ぐるぐるさんからきていることにすぐ気づく。でもでも、ノートの丸タックのところをぐるぐるするかんじとかも相まってるし、やっぱり良いんでないの?  となって採用。

悩んでる間はまるで息をしていなかったので、一気に空気が吸えるようになって、心が軽くなる。晩ちゃんはずーっと悩んでいる。

その様をみていると、いつも自分のために、時には誰かのために、ぎりぎりまで悩んだり、向き合ったりしてるんだなぁとわかる。その姿勢に私は日頃救われているんだよと、心のなかでぎゅっと エールを送った。

そうしてついに晩ちゃんも全部決まり、あとはよろしくお願いしますと、店員さんに投げる。その頃には店員さんが何人も増えていて、お店が繁盛していることを知る。バイトとか、ちょっとしてみたい。

店内で撮影させてもらっていると、ふと晩ちゃんが私の肩に手を回した。そのとき、なんか突然、今自分は元気ではないのかもしれない。って気がした。最近調子がいいと思っていたけれど、それはひとりの生活に慣れくさっていただけで、べつに元気ではないのかもしれない。って、そんな気がして、気がしただけで実際のところどうなのかはわからないけれど、晩ちゃんの手にはあたたかみがじっくりあって、私の気持ちを知っているようで、一瞬のことだったけどドキッとした。

その後みんなでランチへ行き、小一時間でノートは完成。イメージした通りの、けれどそれ以上の輝きを纏って私の手に。

できちゃった。受け取っちゃった。ここからはじまるなにかがある緊張感。ノートを持っている手も、ノートに合わせてしゃんとする。自分のももちろん、みんなが作ったのも、個々に似合っていて素晴らしいなあ。

このノートに何を書きたいか聞かれたら、今のところはそりゃあもう、「書き留めたいような、大事なことや気持ち」としか答えようがないけれど、次にノートを開く時はどんな時だろうと想像すると、光がさすように嬉しい気持ちになった。

無難と凡ミス(from 小原晩)

台風の朝だった。

一度、台風が近づいたせいで日程を延期したのに、また東京に台風はやってきて、東京じゅうの電車やバスが止まっていた。やっとの思いで最寄りについて、お店までの道を歩く。どれだけ傘の柄を短く持っても横殴りの雨にやられてずぶ濡れになる。

普段はあまりノートを使うタイプではない。自分の字が下手すぎて、見ていていやな気持ちになるからである。何かを考えたりまとめたりするためにノートを使いたいのに「字が下手だなあ」という感想にひっぱられて何も考えられなくなる。致命的である。

しかし、ときどきノートを買ったりもする。ノートとは素敵なものだと思うのだ。なにやら新しいことがはじまる予感がするし、一冊のノートを埋めた未来の自分は成長しているような気がするし、ノートに何かを書くこと自体がとても素敵だとも思うからである。私はノートに憧れている。使いこなす人にも憧れている。

ということで、いろんな階段をすっ飛ばして、オリジナルノートを作りにHININE NOTEさんへやってきた。

以前、友人に連れられてお店を覗いたことがあったけれど、あまりの素敵さに物怖じしてしまい、何も作らずにお店を出てしまった過去がある。本当はじっくりゆっくりノートを作ってみたかったのだ。

簡単な説明を受けてから、ノートを作りはじめる。ほんとうにいろいろと選ぶので、なにから手をつけていいかわからなかったけれど、お店のスタッフさんたちが作ったのだというノートを見ていくところからはじめた。

惹かれたものはすべてレザーの表紙だったので、レザーの表紙に決めて、色を選ぶ。ネイビーにする。私は無難な色が好きなんだ。それから、バネの色。バネの色はむずかしい。グレーにする。無難な色、好きだ。

リングは全17色からセレクト可能

それらからいろいろとある紙の種類のなかから無難だと思ったものを選び、無難で素敵なノートが完成する。こう書いてしまうと、とても手軽に簡単に決まったように思われるかもしれないけれど、「無難」にたどり着くまでの間はゆらゆらゆらゆら悩んでいたのだ。

だいたいの形が決まって、山場がやってくる。ノートに文字を入れるのだ。べつに入れなくてもいいのだけれど、入れたほうがオリジナル感がでるのだから、入れたほうがいいと判断し、むんむん悩む。悩んで悩んで、みんなを待たせて、種田山頭火の「うつむいて石ころばかり」という自由律俳句を「UTSUMUITE ISIKORO BAKARI」と入れることにした。けっこう暗い句だと思われるかもしれないけれど、何だかほっとするような現実感のある句だと思うのだ。

選び終わったので、近くで昼飯を食べながら完成を待つ。みらんちゃん以外は全員アジフライ定食を食べた。みらんちゃんはカレー。

みんなには言っていなかったのだけれど、このとき、店員さんから私のもとにこっそり連絡をもらっていた。どうやら記入シートに「BAKARI」と書いたつもりが「BAKRI」と書いていたらしいのだ。これはたぶん「BAKARI」だろうと思った店員さんが、わざわざ確認してくださったのである。ほんとうに申し訳ない。お恥ずかしい。揚げたてのアジフライを頬張っている場合じゃない。

みんなにも言えばいいのに、何となく言わないまま、お店に戻ってノートを受け取る。

かわいくてうれしい。とっても気に入った。みらんちゃんのノートはパーツがカラフルでかわいい。こんな色を選んでいたことぜんぜん知らなかった、自分のことに必死で。恥ずかしい。歳上なのに。いつになったら余裕とかって出てくるだろう、と雨の音を聞きながらぼんやりとする。

かわいい紙袋に入れてくださって、大事に大事にノートを持って帰る。

何を書こうかな。人には絶対言えないこととか、書こうかな。

HININE NOTE 代々木公園店

住所:渋谷区上原1-3-5 SK代々木ビル1F
電話番号:03-6407-0819
営業時間:12:00-20:00(19:00ラストオーダー)
定休日:火曜日

オフィシャルサイト:https://hininenote.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/hininenote/

みらん

1999年生まれのシンガーソングライター。
包容力のある歌声と可憐さと鋭さが共存したソングライティングが魅力。2020年に宅録で制作した1stアルバム『帆風』のリリース、その後多数作品をリリースする中、2022年に、曽我部恵一プロデュースのもと 監督:城定秀夫×脚本:今泉力哉、映画『愛なのに』の主題歌を制作し、2ndアルバム『Ducky』をリリース。その後、久米雄介(Special Favorite Music)をプロデューサーに迎え入れ「夏の僕にも」「レモンの木」「好きなように」を配信リリース、フジテレビ「Love music」でも取り上げられ、カルチャーメディアNiEWにて作家・小原晩と交換日記「窓辺に頬杖つきながら」を連載するなど更なる注目を集める中、新曲「天使のキス」を配信/7inchにてリリースした。2023年12月13日には新作アルバム『WATASHIBOSHI』をリリースする。

小原晩(おばらばん)

小原晩

作家。2022年初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版。2023年「小説すばる」に読切小説「発光しましょう」を発表し、話題になる。 9月に初の商業出版作品として『これが生活なのかしらん』を大和書房から刊行。『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(実業之日本社)が11月14日発売予定、全国書店で予約受付中。

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