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身近なツールを使うことで伝わりやすくなる
─頭像の作品は『部屋X(肖像画)(※)』というタイトルでしたね。
※編注:「部屋」の読みは「セルX」
haru.:私は自分がアーティストだという感覚はあんまりないんですけど、セルフィーで作品を作るので、感覚的に繋がる部分を感じました。

─haru.さんがセルフィーを手法として使うのはどうしてですか?
haru.:いまを生きる女性たちに、何かを作ってメッセージを伝えるときに、その手法があまりにも遠いものだと伝わりづらくなる気がするし、手軽にできることも自分がやる上ではポイントだと思って。それで自分で手刺繍した布切れを身にまとって、セルフィーすると、そこに刺繍してある文字が反転して読めるようになる作品のシリーズを作りました。当たり前だと思われていることを問い直すときに、無意識的にごく身近なツールを使っている気がします。
─今回の展示の副題になっている『無題(地獄から帰ってきたところ)』も、亡くなった夫のハンカチという身近な素材に刺繍した作品ですね。
haru.:身近なものに一刺し一刺し刺繍していく、それも亡くなった夫のハンカチにというのはやばいなと思いました(笑)。実物を観たいと思っていた作品です。

─『無題(地獄から帰ってきたところ)』も含め、今回展示されている作品は80代に入ってから作られたものが半数を占めているそうなのですが、80代に入ってからこれだけの作品を作り続けたエネルギーにも圧倒されます。
haru.:その年齢になっても怒りや悲しみが原動力になっていたのは、それだけ彼女が人生で受けてきたダメージが大きかったんだろうなと感じます。私も、政治家の発言とか、社会の状況とか、希望を持てないと感じることが多くて。もちろん幸せな瞬間も日々たくさんあるんですけど、どこかでずっと不安なんです。作ることのモチベーションとして、不安や怒りがあるところは、かなり近い感覚があると感じました。
─由来に違う部分があったとしても、不安や怒りのような感情は、現代を生きる私たちにとっても身近なものですね。
haru.:不安や怒りのような感情って軽んじられがちで、「そういうものだから」と諦めなきゃいけないことも多いと思うんですけど、展示を観ることで、ブルジョワさんが抱えていた感情が自分たちとそう遠くないものだと気づいたり、それについて話す価値があると感じられることが大事な気がして。本当に私が抱えている葛藤や怒りは本当に自分のせいなのか、受け入れなくてはいけないことなのか、その問いに対しての何かしらの応答やヒントが欲しいときに、私はアートを観に行っているように思います。
