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時代は「本当にあった」から「フィクション」へ
『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』や『このテープもってないですか?』と違い、『TXQ FICTION』では初めから「フィクション」と明記されてる点に注目したい。
テレビという公共メディアの特性上、「イシナガキクエを探しています」のような番組を放送するには、フィクションである旨を明記する必要がある。このことについて大森プロデューサーは以下のように語っている。
——事実かどうかをぼやかすことで増す恐怖もありますが、フィクションであると明言した方が潔いですし、態度としても真摯で、優しいと思います。
大森:僕自身、この仕事を始めた最初のころは特に、フィクションと謳うことで魅力が減るんじゃないかと思っていた時期もありました。でも、いろいろ自分の番組を作っていく中で、そこは堂々とフィクションと銘打った方がいい、そのことで魅力を損なうことはないと、はっきり思うようになりました。そこは個人的なフェーズの変化でもあります。
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また、フィクションと銘打つことで生まれた予想外な面白さもある。緻密に構成された映像と、「これはフィクションです」という文言によって浮かび上がるのは、「果たしてこれは本当に嘘なのだろうか?」という疑心暗鬼だ。『フェイクドキュメンタリーQ』でもそうだったが、視聴中に段々とフィクションであることに疑いを持ち始める妙な感覚が生まれる。大森はインタビューでこれを「信用できない語り手」と表現している。
「フェイクドキュメンタリー」とつけることで「逆に本物が紛れ込んでるのでは?」と思えてくるし、「信頼できない語り手」っぽさも出てますよね。
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フィクションと宣言しながら、視聴者に現実と虚構との間の居心地の悪さを感じさせるには、圧倒的なリアリティが必要だ。『フェイクドキュメンタリーQ』や「イシナガキクエを探しています」では、徹底的にこだわられたロケハンや素材でそれを達成している。例えば登場する廃墟ひとつとっても、本当にかつて人が住んでいたかのような湿り気を演出するのは簡単なことではない。
演技面においても同様で、例えば「イシナガキクエを探しています」に登場する高齢男性の「米原さん」がイシナガキクエを探し出そうとする切実さや、撮影クルーに疑いの目を向けられた時の表情は、心にくるものがある。
アイデアが面白がられていた時代から、クオリティが重要になってきている現代のモキュメンタリー。『TXQ FICTION』に参加するクリエイター達は、そんな時代のモキュメンタリーホラーを牽引する重要人物になっていくだろう。
『TXQ FICTION』第1弾「イシナガキクエを探しています」の第3回は5月17日(金)深夜1時53分からテレビ東京にて放送される。「TVer」や「ネットもテレ東」などの配信サイトでは、過去の放送回も無料配信中だ。