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旅では人は変わらない
古舘:最近、一郎さんからSNSで「調子乗んなよ」っていうメッセージが来たんですよ(笑)。
山口:Xでさ、お前に「調子乗んなよ」ってリプ送ったの。そしたら「お前もな」って返信がめちゃめちゃ来たんだから(笑)。
古舘:僕もある日、Xでコメント見ようと思ったら、「これより先はセンシティブで攻撃的な内容が含まれます」って表示されてて。なんだろうと思ったら、一郎さんからの「調子乗んなよ」だった(笑)。たぶん、XのアルゴリズムやAIをもってしても、僕と一郎さんの特殊な関係は理解できないんだなって思いました。その真意は褒め言葉なんじゃないかって。
山口:褒め言葉じゃないよ(笑)。人生、良い時も悪い時もあるじゃん。古くんにもThe SALOVERS時代があって、すごくいい作品を作ってたよね。俺、“夏の夜”って曲を聴いた時、本当に嫉妬したもん。東京のローカルな若者の感情を、こんな風にうまく表現できるミュージシャンがいるんだって。で、こんな才能があるやつが東京にいて、僕と出会って、音楽っていう世界でどんなやつなのか見極めたくなったんだよね。
そしたら役者もできる。俺の親父はNHKの朝ドラをよく見るらしいんだけど、「古舘佑太郎っていうミュージシャンがいてさ、古舘伊知郎の息子だろ? あいつ、めちゃくちゃいい役者だぞ」って言うわけ(笑)。鈍感な親父でもわかるくらい、才能が溢れ出ちゃってるんだよ。
古舘:ありがとうございます。
山口:やっぱり良い時も悪い時もあってさ。お前、悪い時に懲りないよね。
古舘:懲りないっすね、確かに(笑)。
山口:いい時のことをずっと引きずってんのね。バンド解散して、どん底に落ちて、そこからどうするんだろうって時に、ちまちまアコースティックライブやってただろ? 新しい曲作るわけでもなく、それで忙しい忙しいって。音楽っていうのはさ、食いつなぐためにやり始めたらもうダメなの。食いつなぐために音楽やるんじゃないの。でもお前はそれをやり始めてたから、もうミュージシャンとして死ぬ一方だと思った。
だから、バンドを解散した時に、俺は旅に行けって言ったの。一回全部リセットして、そこからあとは這い上がるだけじゃん。本を出したほうがいいって思ったのも、絶対に才能あるし、いつか書籍としても作家としても絶対評価されると思ったから。出版社の方も売れないと思ってただろうけど、即重版もして、俺の本より売れてるじゃん(笑)!
古舘:そこはまだ、わかんないですけど(笑)。
山口:つまり、いまのお前は「いい時」なんだよ。だからこそ、これからどうするかを今日来てくれたみんなに知ってもらわないとさ。
古舘:旅を経てなにか変わったかっていうと、正直、変わってないんですよね。僕も旅に行く前は「変わりたい」って思ってたんですよ。だからガンジス川にも入ったし、色んなことに挑戦して、ちょっとトラベラーズハイみたいになってたんです。でも、帰国ギリギリのタイミングで気づいた。旅って別に変わらなくていいんだなっていう発見があったんですよ。
当時は自分のことがすごく嫌いになってたから、それを克服しなきゃ克服しなきゃって思いがすごい強かったんですけど……やっぱりなにをやってもどこへ行っても、どうしても変わらない部分があって。でもアジアをぐるっと回ってきた時に、「変わらなくていいんだ」って思えたんです。それを見つけた時に、自然と昔より自分のことが好きになれたんですよ。すごく自己肯定感が上がった感覚がありました。だから帰ってきて、まず自分がなにをしようと思った時に、「いったん流れに身を任せてみよう」と。
いままでの自分は、潔癖症だったりせっかちだったりで、常に道順を決めないと耐えられない人で。自分はこうあるべきとかこうしなきゃとかばっかり考えて、明日・あさって・しあさってとなるべく計画を立てて、それ通りにいかないとイライラしたり凹んだり、もう嫌だってなってたんです。でも、いったんそうしたちまちましたルートを全部やめて、自然体の自分でいこうと。
この旅を通して、新しい出会いがあったり古い付き合いがまた戻ってきたり、そういう変化に自分の身を任せてみようっていう思いで活動してきたんですよ。なので、いますぐまた自分の物差しで測ろうとするのは、まだちょっと早いような気がしています。「ガンジスの流れに身を任せる」というのが、この1年間のテーマでしたね。

山口:つまり、「変わらなかった」ってこと?
古舘:そうですね、この本は「変わらなかった」って本です。変わったことといえば、だんだん髪の毛のパーマが取れてきて、ぺったんこになったくらい(笑)。これは声を大にして言いたい。「旅では人は変わらない」って。