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我々の仕事は代弁すること、通訳すること
山口:我々は冷静に、俯瞰で見てるわけですよ、「古舘」っていう人間を。でもお前はずっと主観で見てるから、自分がどんな人間かなんて都合よくしか捉えてないと思うよ。自分自身がわからないまま生きてたんだと思う。
古舘:いや、ほんとそうですね……。長いことずっと、自分がなんなのか全然わからなくて。
山口:古舘ってスポーツもできる、文章も書ける、演技もできる。しかもミュージシャンとしても才能あるわけよ。全部持ってるのに、「なんで?」って。なにが足りないんだろうって疑問だった。でも、だんだん付き合っていくうちにわかってきたわけよ。
古舘:もう10年ですもんね、僕ら。
山口:お前は器用すぎるんだよ。一回でも本気で熱くなったことあるか? って思うわけ。
古舘:確かにその熱はどんどん下がっていくばかりでしたね。
山口:勉強もできるし頭もいい。でも、なにか一つに対して、本気を通り越して狂気になった人間がこういう仕事についていくわけじゃん。だから失敗した時には見向きもされないし、成功した時には人とは違うものを生み出していってリスペクトしてもらえるっていう、リスキーな人生というかさ。そういう道を選んでるわけじゃない?
でも、お前はリスクを背負わないじゃん。常にのらりくらり、うまくいきそうだったらふわっと乗っかって、辛くなったらひょいっとかわして。そのかわし方も周りが納得してくれるような理屈つけてさ。お父さんが有名人だし、生活で苦しい思いしたこととかないだろう?

古舘:う……(笑)。20代の時、自分の尺度の中ではきつかったんだと思うんですけど、いま振り返ると、一郎さんが言ってくれてた意味はわかります。当時は確かに、自分のすごく短い物差しでしか物事を測ってなかったなとは思いますね。
山口:我々の仕事は代弁すること、通訳することだと思う。いまを生きている人たちの気持ちや誰も言葉にできなかったことを代弁したり、その気持ちを通訳したり。それがお前にはできるはずなのに、そこまで深く入り込もうとしない。
古舘:それは本当に思いますね。一番大きかったのは、自信がどんどんなくなっていったことです。自分のことが好きだったはずなのに、いつの間にか嫌いになってた。自分の中には正解なんてひとつもなくて。一郎さんはミュージシャンとしても人としても先輩で、答えを持ってる。でも僕にはない。一郎さんに会いに名古屋に向かってる時、その強烈な劣等感がピークに達してた時でした。
だから一郎さんに「カトマンズに行け!」って言われた時、「僕には無理だ、行けるはずがない」って本気で思ったんですよ。実は、タイに3日間ぐらい滞在してすぐ帰ってこようって計画だったんです。一郎さんも「誰にも言わなくていい」って言ってくれてましたよね。
でも、いざ出発したらちゃんとばらされた(笑)。あれ、なんでですか? やっぱり見透かされてたんですかね? こいつは逃げるぞって。
山口:いやでも、行くには行ったから。そこからはもう、みんなにも知ってもらって、「自分の旅をちゃんとコンテンツにしろ」って思った。
古舘:そうですね、この本にも「なんでばらしたんだ」みたいなこと書きましたね。あれでもだいぶ削ったんですけど、本当の日記にはもっと愚痴っぽいこといっぱい書いてました。