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対となった第1話と第5話が示すもの

さて、第1話の副題は「サソリと水餃子」。そして、折り返し地点とも言える重要な回、第5話の副題は「ティエンと進」だった。それぞれの副題がそれぞれ2人の人物を示していると考えると、第1話と第5話の副題は対になっているとも言える。
第1話でそれぞれが食べていたことから、第1話の「サソリ」は鴻田、「水餃子」は有木野を示しているのだろう。その意味は「正反対」ではないか。異なる食べ物の嗜好を持つ、一見、対極に思えた2人は、気づけば良いコンビになって、互いに影響を及ぼし合い、いつの間にか「同じ」バイン・ミーを食べている。

一方、第5話の「ティエン」はベトナム人ケアスタッフのティエン(Nguyen Truong Khang)、そして「進」は同じくケアスタッフの早川進(黒崎煌代)のこと。その意味は「同じ」だろう。だが、物語そのものは、漢字で書けば共に「進」となる「ティエン」と「進」という名前を持つ2人の若者の間に芽生えた友情が、年齢も境遇も職場での立場も似通っているにも関わらず、悲しくすれ違っていった皮肉な出来事を描いていた。「同じ」ではなく「下に見る」「可哀想と同情する」ことでしか友情を築けなかった進に対し、「お互いに必要だから、必要な存在として認めてほしかった」というティエンの言葉が、どこまでも重く響く。優秀な技能実習生ティエンの周りの日本人が抱く負の感情の存在を、『ブギウギ』(NHK総合)のヒロインの弟・六郎役の黒崎煌代と、『らんまん』(NHK総合)の画工兼植物学者・野宮朔太郎役の亀田佳明(本作では同僚のベテラン介護士・別島道則役)が見事に表現していた。
対となった第1話と第5話が示すのは、本稿の冒頭で紹介した「今ここで、私たちの間に線引きしないで」という鴻田の台詞のように、私たちが無意識に引いてしまっているかもしれない人と人との間の線だ。本作を通して私たちが見つめる、外国人居住者の方たちが日本での暮らしの中で感じる苦悩や葛藤は、決して他人事ではない。本作はその残酷な事実を突きつけて終わるのではなく、その先の未来をも示す。第5話の終盤において、ティエンと早川の新たな関係性構築の可能性を示唆するように。「少なくとも今この瞬間、同じ国で生きてるわけだし」という有木野の台詞は、早川に対してだけでなく、第5話を見てドキリとさせられた視聴者全員にも向けられている。