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デヴィッド・リーチが作り出したアクション映画における新しいトレンド
昨今の娯楽活劇映画におけるトレンドの変遷も、「スタント部門」創設を後押ししているだろう。編集とカメラワークでパワーとスピードを表現した「ジェイソン・ボーン」シリーズの2000年代が終わると、アクション映画の傾向に変化が訪れ始める。身体能力に長けた俳優を徹底的に訓練し、百戦錬磨のスタントマンを相手に複雑なコレオグラフを演じさせる。最小限のカット割りによるごまかしの効かないスタントに、より高度な技術が求められるようになってきたのだ。
このトレンドの始まりはおそらく2014年の『ジョン・ウィック』ではないか。スタントマン出身の監督チャド・スタエルスキー(Chad Stahelski)とデヴィッド・リーチによる同作は、キアヌ・リーブス(Keanu Reeves)演じる殺し屋が近接格闘、銃撃、カーチェイス等ありとあらゆる攻撃手段で刺客を撃退していく。リーチはクレジットこそ外れたものの共同監督を務め、以後は映画監督としてトレンドの更新に挑む。単独監督作1本目『アトミック・ブロンド』は終盤、約7分間におよぶ驚異的な長回しによるアクションシークエンスを実現。凄腕スパイ役シャーリーズ・セロン(Charlize Theron)の大立ち回りに映画ファンは度肝を抜かれた。
その後、スタエルスキがアクションスタントの粋を集めた作劇へ先鋭化していく一方、リーチはVFXもふんだんに取り入れながらコミック感のある娯楽映画を目指していく。人気スーパーヒーローシリーズ第2弾『デッドプール2』や、ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムを迎えた『ワイルド・スピード/スーパー・コンボ』、全編新幹線内で展開する『ブレット・トレイン』など、リーチのスタントは荒唐無稽、ド派手かつ笑えるのが特徴だ。
『フォールガイ』はスタントマンたちへのラブレターのような映画だ。車を横転させ、ワイヤーで引きずり回され、時には身体に火をつけられる。命を賭けたスタントをこなしても、細かな調整でやり直しになることも少なくない。スクリーンに映るのはスタントマンの不屈の精神と磨き上げられたスキル、たゆまぬ鍛錬の賜物だ。
そんな彼らの「スタント技」が総動員されるクライマックスは実に爽快で、エンドクレジットはアクションシーンの舞台裏を収めたメイキング集で幕を閉じる。映画製作の舞台裏を描いた作品は数あれど、スタントマン出身監督によるスタントマンを主人公にしたバックステージ映画は稀だろう。こんな映画が出てくるのなら、アカデミースタント賞の創設もそう遠くはないかもしれない。
映画『フォールガイ』(原題:THE FALL GUY)

監督:デヴィッド・リーチ
出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント、アーロン・テイラー=ジョンソン
配給:東宝東和
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公式サイト:https://fallguy-movie.jp/