<たまらないね この時間だけは><頭の中で踊り出すメロディ><流れる日々に花を>――そんなリリカルなフレーズが耳に心地よく響く、水平線の新曲“たまらないね!”は、ドラマ『晩酌の流儀4~夏編~』(テレビ東京系)のオープニング曲として書き下ろされた一曲だ。
京都発の4人組ロックバンド、水平線。2019年にリリースした1st demo音源『ブルー・アワー』で、早くもHOLDAY! RECORDSが取り扱いを開始するなど、関西のインディーズシーンで徐々に注目を集めてきた彼らは、コロナ禍を経た2024年の3月にリリースした1stアルバム『NEW HORIZON』、そして2025年2月にリリースしたEP『Howling』で、さらなる人気を獲得した期待の若手ロックバンド。2025年の『SOMMER SONIC』や『SWEET LOVE SHOWER』への出演も決定し、その人気は全国に広がろうとしている。
はっぴぃえんどを筆頭とする日本のフォークロック的な情感と、OasisをはじめとするUKロック的なギターサウンド。さらには、同じ京都発のロックバンドの大先輩であるくるりのような叙情性を湛えた日本語詞。しかし、そのどれとも異なる「水平線らしさ」を醸し出すこのバンドの音楽の特徴は、田嶋太一と安東瑞登という2人のギターボーカルが、それぞれ作詞作曲を行い歌うことにある。
聴く人の心に情景を浮かび上がらせる「水平線らしさ」を大事にしつつも、ソングライターとしては、実はかなりのライバル関係にあるという2人のフロントマン、田嶋と安東。その彼らに、それぞれの音楽的なルーツから、バンド結成後のストーリー、程なくして到来したコロナ禍、その後の躍進、さらには新曲“たまらないね!”で感じたバンドのさらなる可能性についてまで、じっくり話してもらった。
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Oasisに影響を受けた田嶋と嵐が好きな安東。2人が作曲する4人組
―プロフィールには、「京都発の4人組ロックバンド」とありますが、そもそもは大学の音楽サークルで結成したバンドなんですよね?
田嶋(Vo / Gt):そうですね。出身地がバラバラの4人が滋賀の大学の音楽サークルで組んだバンドなんですけど、活動自体は、京都のライブハウスが中心だったという。
安東(Vo / Gt):自分らがやるなら京都かなって思って。

京都を拠点に旅を続けるロックバンド、水平線。スケール感のあるアンサンブルとコーラスワークが光る。田嶋(Vo./Gt.)と安東(Vo./Gt.)のダブルボーカル兼ソングライティングにより、UKオルタナティブやフォークポップスなど、多彩な影響を感じる楽曲を生み出している。2024年1stアルバム『NEW HORIZON』をリリースし、2025年2月にはEP『Howling』をリリース。7月リリースの新曲「たまらないね!」はドラマ『晩酌の流儀4~夏編~』のOPに起用され、8月には『SUMMER SONIC』や『SWEET LOVE SHOWER』への出演が決定している。
―水平線がユニークなところは、ここにいる2人――田嶋くんと安東くんという2人のギターボーカルが、それぞれ作詞作曲をすることだと思っていて。なので今日は改めて、それぞれの音楽的なルーツというか、音楽遍歴を聞かせてください。
田嶋:僕の場合は、ずっとサッカーをやっていたんですけど、中3の終わりぐらいにどんどん試合に出れなくなって、サッカー面白くないなって思うようになって。そのあたりから音楽に対する興味が湧いてきました。それでそのとき仲が良かった友だちにQUEENをオススメされて、ギターに対する興味が強まっていって……。
ちょうどその頃、僕が行っていた美容院のマスターが使わないアコースティックギターを僕にくれて。それから自分でもアコギを弾くようになりました。
―それが高校生ぐらい?
田嶋:そうですね。で、高校でフォークソング部に入るんですけど、そこに洋楽好きが結構いて。それでもともと母親も1990年代の洋楽が好きだったこともあって、自分も聴くようになりました。Extremeの“More Than Words”とか、MR. BIGの“To Be With You”とかをアコギで弾くことから始めて……あとはOasisの弾き語り系の曲とか。ギターは簡単なフレーズだったりするのに、すごいカッコいいなって思って。

―安東くんは、どんな感じだったんですか?
安東:歌うことは、小さい頃からずっと好きでした。うちは車の中では絶対音楽が流れているような感じだったので、自分もそれに合わせて歌うようになって……母親の影響で、コブクロとかいきものがかりとか歌ってましたね。僕が好きやったんは、嵐なんですけど。
そこから徐々に自分でも音楽に興味を持つようになって、地元のTSUTAYAでCDをたくさん借りてくるみたいな生活を、高校ぐらいまで続けていて。ONE OK ROCKとかはその時に知りました。いまひとつ思い出したんですけど、小6で転校してきた子が、9mm Parabellum Bulletとかthe pillows、八十八ヵ所巡礼とかをめっちゃ聴いていて、彼にもいろんなバンドを教えてもらいました。

―もともと歌うのが好きと言っていたし、安東くんはバンドというよりも、歌とかメロディに興味があったんですかね?
安東:そうかもしれないです。そう、Mr.Childrenは小さい頃からずっと好きで、それこそいちばん最初にゲットしたCDは、ミスチルの『SUPERMARKET FANTASY』だったんですけど、高校あたりで「あ、ミスチルもバンドやん」って、ようやく認識して。
―(笑)。
安東:そこから本格的にバンドへの興味を持ち始めたのかな。僕はそれまで、ずっとテニスをやっていたんですけど、高3ぐらいのときに、何かテニスをしっかりとやる気がなくなってきて。
―どこかで聞いたような話ですね(笑)。
安東:(笑)。それで高3の頃に受験勉強の息抜きという名目でエレキギターを買って、大学では音楽のほうに全振りしました。
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結成に踏み切った一押しは、神戸のバンド・プププランドのライブ
―そんな2人が、大学の音楽サークルで出会うと。
安東:サークルでコピーバンドをやってましたね。
田嶋:ただ僕自身は、高校のときからオリジナルに興味があって。大学のサークルも、そこで良いメンツを探したい気持ちで入って。それで、ベースの水野(龍之介)くんに、「オリジナルをやるバンドを組んでみない?」って話をして、声を掛けたのが、安東くんとドラムの川島(無限)くんだったという。
安東:ある日、田嶋から電話が掛かってきて……「あ、やります」と(笑)。
―(笑)。当時、田嶋くんは、どんな感じのオリジナル曲を、バンドでやりたかったんですか?
田嶋:くるりとかフジファブリックが好きだったから、日本語でやりたいなっていうのは漠然とあって。それぞれ好きな音楽は結構違ったりもしたんですけど、日本語のロックは共通項でした。
ちょうどその頃、プププランドのライブを観に行ったんですよ。そしたらそのライブが刺激的で「やっぱり自分も、オリジナルのバンドをやりたいな」って気分に繋がったようなところがあって。
安東:初ライブでは、プププとネバヤン(never young beach)とALの曲を演奏しましたね。
田嶋:そのライブが2018年の秋だったかな。

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ライブハウスで撃沈して向き合った「自分たちらしさ」
―そこから徐々に、いまのようなソングライター2人体制になっていったんですか?
田嶋:もとのアイデアを僕と安東くんがメインで出し合って、アレンジはバンドでやる感じになっていきました。そこから1年ぐらい掛けてようやく自分らの曲だけでセットリストを組めるようになったんですけど、これが水平線だっていう軸は、全然固まっていない状態でした。その頃に、京都のnanoに自分たちの最初の音源『ブルー・アワー』を送ったら、ライブができることになって……。
―いきなり、すごいじゃないですか。
田嶋:ただ、ライブのあと、店長のもぐらさんから「ライブ観たら、意外とよくわからんかった」とか「良い曲もあるけど、結局何がやりたいの?」みたいに、結構一発目でバチーンと言われて……。
安東:もともと好きな音楽が、田嶋が洋楽で僕が邦楽みたいな感じやったから、たしかにちょっとチグハグした感じがあったんですよね。
田嶋:「お前ら、居酒屋行って、メンバー同士、もっとしゃべり合え!」みたいなアドバイスをもらって……。
安東:で、「なにくそ!」って思って、敢えて居酒屋には行かなかったんですけど(笑)、メンバー同士で話し合いました。
田嶋:それから1年以上、nanoからは声が掛からなくなるんですけど、そこからちょっとずつ、お互いの曲の雰囲気みたいなものを、より感じ合うようになっていきました。
……で、ちょうどそのあたりに、コロナがくるんですよ。でもリリースの目標だけは、その都度ちゃんと立てていました。コロナ禍を抜けたあたりから、ようやく同世代のバンドの活動も活発になってきて、いろんな輪が一気に広がって。2022年に初めて東京でライブをやって、ようやくバンド活動っぽくなってきたタイミングで、安東くんが会社を辞めるんですよ。
―バンド1本でやっていく覚悟を決めた?
安東:そもそも遊びでやろうとは思ってなくて。田嶋が卒業するタイミングで「俺は就職しない」って言うから、すぐに自分も辞めました。それが2022年の5月ですね。
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2人揃って野心の塊。目指すはアリーナクラス
―いよいよ本格的に動き始めて、どのあたりから、自分たちがやっていることに対する「手応え」みたいなものを感じるようになるんですか?
田嶋:手応えは今も……これまでもあんまり感じてこなかったかもしれない(笑)。
安東:そうやな……自分たちが見ているところが大き過ぎるのかもしれないけど、これぐらいでは満足いかないみたいな感じが、ずっとあって。

―ちなみに、どのあたりを見ているんですか?
田嶋:大型フェスの大トリを任せられるというか、そういう存在になれたらいいなっていう。
安東:それすなわち、アリーナクラスの会場では、やっているよなっていう。それに付随したニュアンスも含めて、実はかなりデカいところを見ていて。だから、あんまり納得いってないのかもしれないです。
―とはいえ、2024年3月リリースの1stアルバム『NEW HORIZON』は、結構な手応えがあったんじゃないですか?
田嶋:いちばん反響があったし、それまでずっとアルバムは出してなかったから、集大成みたいなところもありました。
―アルバムを出すことによって、水平線というバンドの全体像が、ようやくわかってきたというか。それこそ、はっぴぃえんど、くるり、the pillows、Oasisとか、いろんなバンドの影響を指摘されたりしたんじゃないですか?
安東:ただ、そのどれもが、自分的にはあんまピンときてなくて。僕の理想としては、知っているバンドでは言い表せないけど、すごく聴きやすいとか、そういうものになりたい。
―水平線ならではの感じって、どんなところにあると思いますか?
田嶋:歌やメロディに対する意識には自信があります。あと、リズムに関しても、弾き語りでも成り立つようなものを、バンドサウンドとして、どう広げていくかは考えてますね。
安東:それは僕のほうでも共通認識としてはあって。ただ田嶋のつくる曲は、弾き語りまで削ぎ落しても曲の軸がブレへんけど、僕が書いた曲は自分ひとりでは表現しきれへんというか、僕は全体の音の絡まり方で、曲をつくっているかもしれないです。
―個人的には、四声のコーラスはもちろん、風景描写と叙情性に、水平線らしさみたいなものを感じました。
安東:「情景が見えるような曲がいいよね」っていうのは、最初、曲をつくるときの話し合いで決めました。
田嶋:ああ、たしかに言っていたかもしれない。
安東:僕が書く曲と田嶋が書く曲は、音楽的なルーツも含めていろいろ違うし、対照的だったりもするんですけど、共通認識があるからこそ、水平線の曲としてまとまっている気がしています。

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『晩酌の流儀4~夏編~』オープニング曲は2人のコンペで決定
―そんな水平線の新曲“たまらないね!”が、7月4日にリリースされました。これは、ドラマに書き下ろした曲ですか?
安東:そうですね、こういうつくり方は初めてです。まずはバンド内で、ミニコンペみたいなのがあって。
田嶋:2人でたくさん案を出しました。
安東:その中で僕が書いた、この“たまらないね!”に決まったという流れです。
―2人としては、どうだったんですか?
田嶋:初のタイアップでもあったから……そう、ここの2人は、結構バチバチでやっているんですよ(笑)。
安東:仲間なんですけど、ライバルではあるというか、結構メラメラはしてるよな。まわりの人たちが思っているよりは、平和じゃないと思います。

田嶋:だから、この曲に決まったあと、2日間ぐらいは、結構落ちていて。
安東:まあ、俺はそれを経験しているからな。
田嶋:そう、それもわかったから、そこからは気持ちを切り替えて、バンドとしてこの曲を最高の形に持っていくことに集中しました。

―安東さんの「俺は経験しているからな」っていうのは?
安東:2025年2月にリリースしたEP『Howling』の先行リリース曲は、田嶋が書いた“シリウス”に決まったんです。
田嶋:リードトラックを、ずっとこの2人で取り合っているんですよね(笑)。
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ポジティブだけど思う、日常は楽しいことばかりじゃないということ
―水平線の曲って、どちらが書いた曲も、歌詞の中にあまり個人的な思いは直接的に描かれていないような気がしていて……あくまでも、水平線として、歌詞を書いているような印象があります。
安東:直接的に自分の中身を出すみたいな歌詞は、2人ともあんまり書かないんじゃないかな。ただ、“たまらないね!“の歌詞は、僕自身の人間性が結構出ていると思っていて。
―どういうことでしょう?
安東:僕、実はかなりポジティブなんですよ。
田嶋:そうそう。でも曲調も含めて、めっちゃポジティブなところが目立っているからこそ、意外と安東くんの内省的な部分が浮き彫りになっているような感じがしています。

―基本的にはポップですが、<賑やかな孤独>とか、ちょっと気になるワードも混じっていますよね。
安東:楽しい曲をつくりたいなっていうのが、まず大前提としてあって。でも明るいだけで終わってしまったら、水平線っぽさがちょっと消えてしまうから、Bメロをマイナー調にしてみたりとかして。日常って、そんなに楽しいことばっかりじゃないじゃないですか。だから人前では明るく見える人も、一人の時間にはいろいろあるよねみたいな深みは、出したかったんですよね。
―なるほど。今回が初タイアップ曲ということですが、何かテーマを与えられると、自分たちから何が出てくるのかわからないような面白さがあったんじゃないですか?
田嶋:そうですね、それが新鮮でした。
安東:どうやったら与えられたテーマに流され過ぎず、落とし込むことができるのかっていう実験がすごく楽しかったです。
―結果的に出てきたものは、水平線らしさはあるけれど、これまでにない雰囲気の曲には仕上がったわけで、このバンドは、まだまだいろいろな引き出しがあるというか、バンドの可能性のようなものを感じました。
安東:ありがとうございます。今回はこういうアウトプットになりましたけど、まだまだいろんな形でアウトプットしたいし、「水平線らしさ」みたいなものも、まだまだ形成している途中ではあると思っていて。
田嶋:うん、そうだね。
―そう言えば、活動開始当初に「旅するロックンロールバンド」というキャッチフレーズがありましたが……。
安東:それは最近の自分たちと近い感じがあるなって、改めて思っていて。いろんな音楽のエッセンスを取り入れて、それを自分たちのものにしたいんです。「音楽の旅」じゃないですけど、J-ROCKの島に行ったり、UK ROCKの島に行ったり、フォークの島に行ったりしながら、『ONE PIECE』みたいに仲間を増やしていって、全員自分たちの船に乗っけて、一緒に旅をするみたいなイメージをしています。島の数がちょっと計り知れないので、これは終わらんなあって思ったりもするんですけど、いまはワクワク感のほうが強いです。

水平線 企画『潮の目』

潮の目 -いつ-
2025.07.24(木)大阪・心斎橋LIVE HOUSE Pangea
OPEN 18:30 / START 19:00
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潮の目 -む-
2025.07.30(水)東京・渋谷 Spotify O-nest
OPEN 18:30 / START 19:00
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