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4冊の漫画――「残りの生きる時間とか、素敵だったと思える時間を増やすことはできるはず」
―続いて、田島列島さんの『水は海に向かって流れる』。
澤田:これも衝撃でしたね。絵柄はポップというか、柔らかくて、書き込みも多くないタッチなんですけど、田島列島先生は全体を通して、重たいはずの言葉を重たくなくずっと差し込むんです。捨てられた猫を拾ってきたときの「君は幸せになるよ」とか、当たり前の言葉で、でもあとあとすごく納得させられるってすごいことだなって。この人は絶対に遠回りをしない、直接伝えることに重きを置いている方だと思うんです。2人で傘に入ってるシーンの、「俺がいなければ、この人の肩が濡れることはなかったのに」っていう、これだけで全部伝わるというか、やろうと思えばもっと言葉を増やせると思うんですけど、それをやらない強さがある。3巻完結なので、よかったらぜひ。
ー入りやすいですね(笑)。次が平庫ワカさんの『マイ・ブロークン・マリコ』。
澤田:親友が自殺したところから始まる話で、喪失の話ではあるんですけど、でも「私が何かしてあげられたかな?」ではないんですよ。「なんで死んだ?」ももちろんあるんですけど、「自分が死んだら相手は置いていかれる。そのことを想像しなくてもいい存在だったんだ」っていうところとかにもフォーカスを当てていて。
自死を選ぶマリコという女の子がもうずっと壊れてるんですよ。よく「穴の空いたバケツ」って言い方をしますけど、どれだけ注がれても下から出ちゃう人がいて、その人を救うことは不可能だとわかりきってる。それでも自分だけはそうじゃない、自分だけはその穴を修復できる人物だと思いたい、みたいなものにはやっぱり引っ張られちゃいますね。それを諦めたら、今後の人生で嫌な達観の仕方をしてしまう。「こういう人たちは救えないからさ」って。
僕もその穴を埋められるとは思ってないですけど、せめて水の流れを遅くすることはできる。その人の残りの生きる時間とか、その人たちが素敵なものであったと思える時間を少しでも増やすことはできるはず。そういうところにも絶対触れている作品で、僕もそうありたいです。

―はらださんの『ワンルームエンジェル』。
澤田:これは友達にもらったものなんですけど、どれどれと読んだら、やられましたね。「天使くん」という男の子がいるんですけど、この子は人間の感情に左右されちゃうんですよ。そばにいる人間が悲しければ、羽が抜け落ちていってしまうし、その逆も然りで、そばにいる人間が温かい気持ちなら、羽がどんどん回復していく。そういうギミックがたくさんある中で、要は心に触れる話をずっとしてるんですね。
もう一人の主人公は優しいけど風貌ゆえに周りからはちょっと敬遠されがちで、結果的にはお互いがお互いを救うための存在だったことがわかる。だから漫画全体としては「あなたが思ってるほど人間って悪いもんじゃないんだよ」っていうのを伝えようとしているというか。与えているから与え返される。その暖かさのバランスがとれていて、優しくなればなるほど、人として適切な対応をすればするほど、さよならが近づいていくことも含めて、「これはずっと心の話をしてるんだ」と思いました。

―幌山あきさんの『マーブルビターチョコレート』。
澤田:これは消費のお話です。小説家の女性が主人公で、パパ活をやってる女の子に突撃して、本意でなくともルポライターみたいなことをやるんですけど、そこでそのパパ活をやってる子に惹かれちゃうんですよ。恋愛的にというより、人間として。自分が馬鹿にしていて、「しょうがないからこいつらでお金を稼ぐか」と思った対象が、自分の想像を超えてしまっていたどころか、自分に手を差し伸べられる存在かもしれなかったっていうところから始まる。でもこの人のやってることは消費で、「パパ活女はこんなんだった」みたいなのを書かされて、自分も疲弊していくんです。最終的にはその子のためにも自分はもう手を引きたいって話をするんですけど、出版社からは「もうあなたは逃げ出せないよ」みたいなことを言われてしまう。あなたがやったことはとっくに消費であり、おぞましいことで、急に「もう加担しない」は許されない。それも恐ろしく正論だと思うんです。
僕も音楽で他の誰かのことを消費してしまって、それを僕は攻撃だと自負はしている。でも自負してりゃいいって話じゃねえぞっていうのがここに書かれていて、できることはその事実を受け入れることだけ、その後の言葉は何も意味をなさないっていう話でもある。これは結構食らっちゃいましたね。