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友情と愛情が『HAPPYEND』に奇跡を呼び込んだ
―怒りと表裏一体の要素である、この映画の愛情についても話を聞かせてください。『HAPPYEND』の撮影を終えた直後に会ったとき、音央がキャストのみんなが抱き合っている写真を待ち受けにして「本当に最高の現場だった」と嬉しそうに話していたことをすごく覚えていて。実際の作品を観ても登場人物一人ひとりのことが大好きになるし、なんでこんなに愛情深い作品が作れたんだろうと思ったんです。
空:(携帯の画面を出して)これのことでしょ?


空:これは最後のカットを撮り終えたときの写真で。助監督のチーフが、キャストみんなが揃うシーンを撮影の最後に回してくれたんです。
―本当に最高の写真。
空:どうしてこんな作品ができたのか、いろいろ理由はあると思うんだけど、単純に、この作品のインスピレーション源にもなった自分の学生時代の友人たちに対して深い愛情を抱いているから、っていうのはすごく大きいと思う。
彼らとの関係性や体験を借りて映画を作っているわけだけど、友人たちのことを本当に愛してるんですよ。彼らがいなければ今の自分はないし、何年会っていなくても、NYに帰って会えば、いつものように話せる。政治的な理由で切り離したり、切り離された大学時代の友人たちも、もうあまり喋らないけど、彼らも愛しています。彼らのことを思い出しながら作ったからこそ『HAPPYEND』が生まれたんだと思う。
―なんて素敵な。
空:現場レベルの話でいうと、僕は完璧主義者じゃないし、自分のビジョンのために軍隊的にスタッフを使うということもできない。だから一緒に作ってる人たちから、なるべくたくさんいいアイデアが出てくるような環境を作ることを意識していたかな。あとは単純に怖い人が嫌なのもあって、自分もそうならないようにしていた(笑)。

―メインキャストの5人のうち4人は演技未経験ということだけど、演出はどんなふうにしていたんですか。
空:彼ら自身が、想像上の設定の中でいかに自分らしくいられるか、ってことを指針として演出していたかな。現場において「自分らしくいられる」っていうのは、実はめちゃくちゃ難しいことで。相当お互いを信頼してリラックスしていないとできないことだから、まずはなるべく自然に5人が仲良くなれるような状況を作れたらと考えていた。
でも実際は、そんな自分の想定を軽々超えて、5人が勝手に友達になってくれた部分が本当に大きくて。カメラを回し始めた時点で、彼らの関係がある程度できあがっていたんです。
―ちなみに音央が考えていた、5人が仲良くなるためのプランというのは?
空:インの2か月前からワークショップをやって、一緒に作業する時間と場所を設けていたかな。これは濱口(竜介)さんのアドバイスでやり始めたんだけど(※)。そのときはミン役のシナ(・ペン)がまだNYにいたから、週に2、3回ぐらいZoomで会って。自己紹介をしたり、会話の中に一つだけ嘘を紛れ込ませるゲームをしたり。あとは一人ひとつ、自分がどうしようもなく好きで、何十分でも語れる話題を披露しあう時間もあった。
インの1か月前にシナが日本に来てからは、1週間に2、3回ぐらい、公民館みたいなところを借りて、リハーサルやワークショップをして。ワークショップでスキンシップを高めたり、演技とは何かということを話し合ったり。まあいろんなことをやるんだけど、内容はそこまで大事じゃなくて、むしろ狙いは、一緒に何かをする時間を作ることだった。
※CINRA掲載記事「空音央と濱口竜介は、どのように「当たり前の社会」と対峙しているか。映画『HAPPYEND』をめぐる対談」参照(外部サイトを開く)


空:ワークショップが終わると僕は別作業があって帰宅するんだけど、キャストのみんなは勝手にご飯を食べに行ってました。やっぱり一番友情が深まったのはそこなんじゃないかな。自分は本当にきっかけを作ったに過ぎなくて、実際に仲良くなる作業は、みんなが勝手にやってくれていたんです。
―映画を観ていたら、5人のことが自分の友達のように大好きになりました。
空:この前、ヴェネツィアで『HAPPYEND』が上映されたときにも、最高の瞬間があって。ユウタ役の(栗原)颯人が少し遅れて現地に到着したんだけど、来た瞬間にコウ役の(日高)由起刀が嬉しさのあまり号泣してました。
―奇跡みたいなチームですね。
空:本当に奇跡的で、こればかりはマジで計算できない! 彼らの関係性があってこその映画だと心から思います。

『HAPPYEND』

2024年10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
監督・脚本:空音央
出演:
栗原颯人
日高由起刀
林裕太
シナ・ペン
ARAZI
祷キララ
中島歩
矢作マサル
PUSHIM
渡辺真起子
佐野史郎
撮影:ビル・キルスタイン
美術:安宅紀史
音楽:リア・オユヤン・ルスリ
サウンドスーパーバイザー:野村みき
プロデューサー:アルバート・トーレン、増渕愛子、エリック・ニアリ、アレックス・ロー アンソニー・チェン
製作・制作:ZAKKUBALAN、シネリック・クリエイティブ、Cinema Inutile
配給:ビターズ・エンド
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>>サイトを見る(https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/)