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空音央が語る、ルールよりも大切なこと。映画『HAPPYEND』という友情と抵抗の物語

2024.10.4

#MOVIE

空音央監督の長編デビュー作品『HAPPYEND』は、混迷を極める2020年代が求めた傑作であり、日本映画の未来の希望だと思う。1990年代のアジア映画のような映像的美質をもって現代の日本社会を鋭く批評し、世界の観客に対しても開かれた問いも投げかけてみせている。

このタフな作品の出発地点にあるのは、友情という普遍的なテーマ。ゆえに本作は、政治的でありながら、「思想」によって観客を選ぶことをしないという二重の要求をクリアしている。そんな本作の奥にあるものに触れるべく、監督の友人でもある井戸沼紀美に取材をオファーした。「社会的な正しさ」に先立つ、愛情や友情、喜怒哀楽について、作品の描き出すものとともに話を聞いた。

空音央(そら ねお)
米国生まれ、日米育ち。ニューヨークと東京をベースに映像作家、アーティスト、そして翻訳家として活動している。2024年公開の坂本龍一のコンサートドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』では、ピアノ演奏のみのシンプルかつストイックな演出ながら『ヴェネツィア国際映画祭』でのワールドプレミア以降、山形、釜山、ニューヨーク、 ロンドン、東京と世界中の映画祭で上映、絶賛された。2024年10月、長編劇映画デビュー作となる『HAPPYEND』が公開。

映画的な喜びとともに表現された「怒る」ということ

―映画の冒頭で「古い枠に人を収めようとする勢力がうるさい」という文字が映し出されて、その直後に赤い光が映し出されたとき、この映画は「怒り」を大事にしているのかなという予感がしました。作品を観進めていく中で、その予感が確信に変わっていく部分があったのですが、今作を作るうえで怒りを意識した部分はありましたか?

空:ありました。怒りって大事だと思う。怒ることができるのって、その対象に対してまだ希望を感じているからこそじゃない? 諦めていることとか、何も気にしていない相手だったら、そもそも怒ろうともしないだろうし。

怒りは個人間においても、社会的なスケールにおいても、めちゃくちゃ大事な愛情表現だと思う。だからそれを鎮静化するのはよくないんじゃないかって思うことがあります。

―怒りの感情を人に伝えるとき、一つひとつの言葉を発するのにも苦労するけど、伝えるほうがいい結果につながる場合もありますよね。一方で、普段の生活の中では「イラつき」まではいっても「怒り」まではいけない自分もいて。だから監督が日常のレベルで、どう怒りと向き合っているのかが気になりました。

空:僕は沸々と怒るタイプで。あまり爆発しないし、自分の感情を自分で理解するのに割と時間がかかるから、感情の瞬発力がない。だから悶々と考えて、沸々と怒りを込めて、文章にしたり、作品にしたりするわけです。

―数秒でドカンと怒れる人もいるし、数日、数週間、数年かけて怒る人もいるだろうし、本当に人それぞれですよね。『HAPPYEND』はそのグラデーションごと、大事にしているような印象も受けました。たとえばコウとユウタが言い合いになるシーンがあるけれど、そのある意味ドラマチックな場面の直後に、二人で協力してものを運んでいる素朴な場面が映し出されます。

空:あのシーンでは、恋人同士の喧嘩ってどういう感じだったっけ、ということを考えていました。経験がある人も多いんじゃないかと思うのですが、喧嘩していると、時間が急に飛ぶような感覚がある気がしていて。叫び合った次の瞬間、微妙に関係が修復されている、みたいな。「いつの間にこんなに叫び合っていたんだろう」「経過はどこにいったんだっけ」って。その主観的な体験を映画でも試してみたいから、シーンをポンと飛ばしてみたんです。

―面白いですね。そういう不思議な撮影や編集もたくさんあったし、遊び心を全編に感じました。楽しんで撮っているんだろうな、って。

空:それは意識していました。撮影中、自分に課した課題があって。一つひとつのシーンに、達成しなきゃいけないプロットポイントがあり、語るべきことがあると思うんだけど、そこへさらにもう一つ、何かしら映画的な喜びを感じさせる要素を入れたい、と考えていたんです。

言葉にすると曖昧なんだけど、それは単純に視覚的なギャグみたいなことでもあるし、音のこだわりでも、ショットの美しさへのこだわりでも、編集の遊びでもある。全シーンに映画的な喜びが感じられるものを入れよう、っていうチャレンジをしていました。

『HAPPYEND』予告編 / あらすじ:ユウタとコウは幼馴染で大親友。いつもの仲間たちと音楽や悪ふざけに興じる日々を過ごしている。高校卒業間近のある晩、こっそり忍び込んだ学校で2人はとんでもないいたずらを仕掛ける。翌日いたずらを発見した校長は激昂し、学校に四六時中生徒を監視するAIシステムを導入する騒ぎにまで発展。この出来事をきっかけに、コウは、それまで蓄積していた、自身のアイデンティティと社会に対する違和感について深く考えるようになる。その一方で、今までと変わらず仲間と楽しいことだけをしていたいユウタ。2人の関係は次第にぎくしゃくしはじめ……。

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