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映画『正体』レビュー 横浜流星と藤井道人監督、両者にとっての集大成

2024.11.29

#MOVIE

藤井道人監督と横浜流星それぞれの集大成

藤井道人監督は自身の作品でほぼ一貫して、同調圧力や望まない状況にいることで、生きづらさを抱えている人を描いている。今回の「指名手配をされ、警察のみならず、一般市民からも追われる四面楚歌な主人公の逃亡劇」は、まさにその作家性が究極的に発揮される題材といっていい。

逃亡犯の主人公はもちろん、彼と交流する人々それぞれの、周りから理解されない、または誰かを頼れなかった苦しみも伝わる、彼らの出会いと変化、いや救い、もっといえば人間讃歌を描く藤井監督の手腕が、これ以上なく発揮されている。だからこそ、藤井監督の集大成といえるのだ。

(左から)介護施設で働く酒井舞(山田杏奈)と鏑木慶一(横浜流星)

演技の幅の広さにも定評がある横浜流星にとっても、「5つの顔を持つ逃亡犯」という役柄はまさに集大成だ。もっとも近いのは、やはり藤井監督と組んだ『ヴィレッジ』の「最悪な状況が重なり『修羅』に落ちる」様だろう。他にも『線は、僕を描く』の時のようにひたすらに純朴かつ繊細な青年や、はたまた『流浪の月』の時のようにまともなようで攻撃的な一面を匂わせる恋人を連想する場面もあった。

(左から)メディアライターの安藤沙耶香(吉岡里帆)と鏑木慶一(横浜流星)

横浜流星は常々「演じる」ではなく「(役を)生きる」と表現しているそうだ。その言葉通り、仕草や声色や目線に至るまでこだわり、『正体』というひとつの作品において、5つの顔それぞれで本当に違う人物と思えるほどの雰囲気をまとっている。それは、前述した主人公の文字通り「正体」を疑ってしまう劇中の人々と、さらには映画を見ている観客の心理を強く揺るがせるために必要なことであり、その難しすぎるハードルを、横浜流星ははっきりと超えたのだ。

さらには、横浜流星は中学時代に空手の世界王者となり、さらに2023年にはボクシングのプロテストに合格して、『春に散る』ではもはや「本物」のボクサーの青年に扮していた。その飛び抜けたどころではない身体能力は、今回の『正体』でも「マンションのベランダから飛び降りて全力疾走して逃げる」スリリングなシーンに活かされている。このシーンではアクション指導者やカメラマンとの連携に苦労したこともあり、計14回もジャンプを重ねたそうだ。そのかいあっての、本気の走りぶりにも注目してほしい。

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