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生成AIに職能は奪えない。人間が使う新しいツールとしての生成AI
平野:生成AI全般についても質問させてください。隈さんの事務所でも生成AIが使われていると伺いました。具体的にどういうふうに使われているのか、あるいは今後どのように建築の設計に生成AIが使われていくと思いますか?
隈:生成AIの使い方に関しては、事務所全体としての指針は全く与えてなくて、各自に任せているんです。なので、思ってもいない使い方がいっぱい出てくる。構造計算なんかもできちゃうわけですよ。質問の設定の仕方でどんな質問にも答えるのが生成AIのすごいところで、質問する人間のレベルによっては、ほとんどエンジニアを必要とせず、どんどん設計が進められるなんてことも考えられる。
実際のところは、AIにイメージのリファレンスを出力させて、そこからディレクションを決めていく使い方が一般的だと思います。事務所のほとんどの人間がその使い方をしているんじゃないかな。
それは僕の事務所が今まで築いてきたアプローチと非常に近いところがあるわけです。僕がトップダウンでディレクションを決めるのではなくて、「どんな方向性があり得るか」僕が質問し、その質問と答えの問答から次第に方向性が導かれていく。それはまさに生成AIの一番得意なところ。人間の知能ではありえなかったスピードで質問に対する答えが素早く返ってきて、クエスチョン&アンサーを繰り返すことで方向性が定まり、また次のステップへと進むことができる。僕の事務所で30年間やってきたあり方が、AIによってさらにスピードを加速して、検討の幅も広がっていく。新たなターボ的なものを手に入れた感じがしますね。

平野:一方で、人間しか持っていなかったとされる「クリエイティビティ」さえも生成AIに置き換えてしまい、職能が全て奪われてしまい、「建築家は必要ではなくなってしまうのでは」と危惧する声もありますが、いかがお考えですか?
隈:その心配は全くないと思っています。例えば、僕の事務所のクリエイティビティは大きな作り方、システム全体にあったわけですよ。集まってきた人間がクエスチョン&アンサーを繰り返しているうちに、方向性が決まって何かが生まれてくる。最初は海の物とも山の物ともつかないようなものの形が少しずつできていく。結局、人間が作っているものには変わりないんです。その人間が使う道具にAIという新しいツールが加わっただけで、人間が創造していることに関しては全く変わりがない。むしろAIによって僕らのクリエイティビティは上がるんじゃないかと思いますね。