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社会派エンタメドラマ『日本一の最低男』で香取慎吾が「日本一の最低男」を演じる意味

2025.2.13

#MOVIE

©フジテレビ
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毎週木曜よる10時から放送中のドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』。

香取慎吾にとって『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(2021年)以来4年ぶり、フジテレビでは『SMOKING GUN~決定的証拠~』(2014年)以来11年ぶりの連続ドラマ主演作ということでも話題となった本作。放送開始以降も、香取慎吾と志尊淳、冨永愛、そして子役の増田梨沙と千葉惣二朗の好演もあって、ドラマ好きの間で人気を集め続けている。

毎話、取り上げられる身近な社会問題とその解決方法も楽しみな本作の第5話までについてレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

「日本一の最低男」というタイトルは何を表すのか

ひとつ屋根の下に暮らすことになった大森一平(香取慎吾)、小原ひまり(増田梨沙)、小原朝陽(千葉惣二朗)、小原正助(志尊淳)©フジテレビ
ひとつ屋根の下に暮らすことになった大森一平(香取慎吾)、小原ひまり(増田梨沙)、小原朝陽(千葉惣二朗)、小原正助(志尊淳)©フジテレビ

タイトルに「※」が入っているドラマを初めて観た。「日本一の最低男」というなかなかにキャッチーなタイトルだが、ドラマを見始めるとすぐにそのタイトルを否定したくなるだろう。香取慎吾演じる主人公・大森一平は確かに軽薄ではあるが、「日本一の最低男」などという大仰な異名を付けられるほどでは無い。そもそも「日本一の最低」とは何を指しているのか、「日本一」も「最低」も何を基準にした指標なのか分からない。議員を目指す男の「日本一」を描いたドラマとなると、それこそ、元SMAPの木村拓哉主演のドラマ『CHANGE』(2008年)のように、総理大臣になるまでを描いたドラマが思い浮かぶ。しかし一平はドラマの前半戦を終えても、まだ区議会議員への出馬すら決められていない。きっとこのドラマは「日本一」たる総理大臣になるまでを描くストーリーにはならないだろう。草彅剛主演の『罠の戦争』(2023年)など、議員を目指す人物を描くドラマも少なくないが、本作ほど、その手前を細かく描いているドラマは珍しい。そこにこそ、本作の新しさがあり、今、それを描く意味があると思う。

ギャラクシー賞ドラマ『フェンス』プロデューサーの最新作

シングルファザーで保育士として働き、2人の子どもを育てている正助(志尊淳)©フジテレビ
シングルファザーで保育士として働き、2人の子どもを育てている正助(志尊淳)©フジテレビ

本作を語る上で重要なのは、そのスタッフ陣の異色さだろう。企画プロデュースは、今回初めてフジテレビの連続ドラマを手掛ける北野拓。北野はNHKの記者出身で、NHK宮崎放送局で『宮崎のふたり』(2016年)を演出。その後は『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』(2018年)、『タリオ 復讐代行の2人』(2020年)、『あなたのそばで明日が笑う』(2021年)をプロデュースし、フリー転身後は連続ドラマW『フェンス』(2023年)を手がけた。『フェンス』ではギャラクシー賞など数々の賞を受賞し、現在はフジテレビのドラマ制作部に所属している。北野がプロデュースする作品は、本人が報道の現場に居たことも影響してか、社会問題を扱ったドラマが多い。また、『宮崎のふたり』の安達奈緒子をはじめ、野木亜紀子、蒔田光治、三浦直之など評判の高い脚本家を起用することが多い。さらに、牛尾憲輔、岩崎太整、菅野よう子など、ドラマ音楽を手掛けることは少ないが、映画などで活躍している音楽家を抜擢することも特徴と言って良いだろう。

本作も、まさにそうした流れの中にあるドラマとなっている。区議会議員を目指す人物を主人公にしたというのが絶妙だ。扱うべき問題の多い都会において、一番身近な存在たるべき政治家である区議会議員。そこに選挙で選ばれるためには、区民一人ひとりの細かい社会問題に向き合わざるを得ない。既に第5話までで、そうした問題の一つひとつが丁寧に描かれている。更に、妹家族の家に入り込む兄という設定も見事と言う他ない。家族ではないが他人でもない存在。妹・陽菜(向里祐香)は既に亡くなっており、その夫・小原正助(志尊淳)はシングルファザーで保育士として働き、2人の子どもを育てている。しかも、娘のひまり(増田梨沙)は陽菜の連れ子で正助とは血が繋がっていないなど、家庭内での関係の難しさまで孕んでいる。

一平が向き合う問題は社会問題だけでなく家庭問題まで多岐にわたる。そして、社会と家庭の問題は複雑に絡み合いながら展開していく。北野プロデュース作らしい、そして、彼にとっても新たなチャレンジと言えるドラマとなっている。

脚本と音楽のチーム編成における挑戦

一平を見守る今永都(冨永愛)と小原正助(志尊淳)©フジテレビ
一平を見守る今永都(冨永愛)と小原正助(志尊淳)©フジテレビ

本作の脚本は、政池洋佑、蛭田直美、おかざきさとこ、三浦駿斗の4人体制で手掛けられている。政池は数々の映画・ドラマの脚本を手掛け、『ミス・ターゲット』(2024年)など単独で連続ドラマの脚本を担当し、蛭田も『舟を編む~私、辞書つくります~』(2024年)など賞にも輝いた連続ドラマを1人で手掛けた人気脚本家だが、いずれもフジテレビ制作連続ドラマの脚本を書くのは初めて。その点でも北野ならではの抜擢と言えるが、『あなたがしてくれなくても』(2023年)などのおかざき、『オクトー ~感情捜査官 心野朱梨~』(2022年~)などの三浦との4人体制で、それぞれに各話を任せたというのも、昨年の『3000万』(NHK)の脚本開発チーム「WDR」のような、昨今の海外ドラマの脚本制作体制からの影響を感じる。

音楽は、数々のCM音楽やゲーム音楽を手掛け、アニメ『時光代理人 -LINK CLICK-』(2021年)や連続ドラマW『坂の途中の家』(2019年)、映画『さんかく窓の外側は夜』(2021年)などの劇伴も担ってきた作曲家・ピアニストのyuma yamaguchiが担当。自身のアルバム『NotAnArtist』(2021年)でラブリーサマーちゃんや七尾旅人、角銅真実、Leo Uchida(Kroi)らをフィーチャーして来た彼が、本作の劇判では、注目のミュージシャン北村蕗(参照:インタビュー記事)をフィーチャーしている。豪華なオーケストラで演奏される楽曲に北村蕗の美声が重なるシーンには毎回、胸を打たれてしまう。

陰陽あわせ持つ香取慎吾の新たな代表作

第1話で小原家と暮らし始めたばかりの一平(香取慎吾)©フジテレビ
第1話で小原家と暮らし始めたばかりの一平(香取慎吾)©フジテレビ

そして、何と言っても、本作最大のトピックは、香取慎吾が、4年ぶり、フジテレビ系列では11年ぶりに連続ドラマに主演したことだろう。ミュージシャンとしてだけでなく、芸術家としても活躍し、新しい地図として様々なバラエティ番組にも出演している彼が久々に選んだ作品が様々な挑戦をしている本作であったことは、らしいとも言えるが、ファンにとって待ちに待った主演の役柄が一癖も二癖もある役であったのは興味深い。パブリックイメージとしての明るさと不真面目さ、一方で、バラエティ番組などで明かして来た暗さと真面目さ、その両面を本作においては、巧みに表現できている。例え、世間の評価が付いて来なかったとしても、彼にとっての代表作の一つになっていくことは間違いないだろう。

第5話で一平が慎吾ママの決め台詞を発した意味

第5話で正助(志尊淳)の務める保育園でボランティアを始めた一平(香取慎吾)©フジテレビ
第5話で正助(志尊淳)の務める保育園でボランティアを始めた一平(香取慎吾)©フジテレビ

第1話では子育ての難しさ、第2話では同性愛の結婚の難しさ、第3話では不登校の難しさ、第4話では「こども食堂」実現の難しさ、そして第5話では保育園の運営の難しさが描かれてきた。いずれも、ニュースで取り上げられるような社会問題であるが、一平にとっては共に暮す「家族」が関わる極めて個人的な問題でもある。一平が目指す区議会議員という仕事は、そうした個人的な問題を議題とする場だ。ドラマには、個人的な問題を説教臭くなく視聴者に届ける力を持つ。身近にいる人であっても、家族や友人など普段から関係性を築いている相手でなければ、その問題を知り、自分事として考える機会はなかなか無いだろう。そういった点においても、多くの人が認知し、親近感のわく香取慎吾という俳優が本作の主人公を演じることに意味がある。

また、これまでの第5話までで、第1話~第3話と第5話は政池が脚本を担当したが、第4話は蛭田が担当した。第4話では、娘・ひまりの生理が始まった悩みを、家族とは言え異性である家族3人に打ち明けることの難しさが描かれた。その点において、蛭田が脚本を担当することに妥当性があり、ひまりを演じる増田梨沙と、ひまりが悩みを打ち明けた今永都を演じる冨永愛の好演もあって、前半戦の中でも最も胸を打つ回となった。

保育園児たちと心を通わせる一平(香取慎吾)©フジテレビ
保育園児たちと心を通わせる一平(香取慎吾)©フジテレビ

第5話では、フジテレビのバラエティ番組『サタ☆スマ』(1998年~2002年)で生まれた香取慎吾の名物キャラクター「慎吾ママ」の決め台詞「おっはー」を、一平自ら、保育園の園児に対して呼びかけるシーンもあった。一平ではない香取慎吾自身が「おっはー」をその年の流行語になるまで流行らせた2000年から25年が経過していることを考えると、園児たちの「おっはーって、なに~?」という反応にも納得感がある(慎吾ママは2021年からEテレで放送されている『ワルイコあつまれ』にも登場するが、今どきはテレビを観ない子どもも多い)。しかし、母親が不在の家庭に入り込んだ一平に、「慎吾”ママ”」というキャラクターを想起させる台詞を語らせたのは、偶然の一致だろうか。

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