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坂本によるオペラ『LIFE』を再構築したインスタレーション

その隣の展示室に、本展の大きな見どころとなっているインスタレーション『LIFE–fluid, invisible, inaudible…』がある。空中に浮かぶ9つの水槽には霧が発生しており、その霧を通した映像が床に投影される仕組みだ。それぞれの映像と音はランダムに決定され、常に変化しつづけるという。本展には坂本龍一と高谷史郎のコラボレーション作品が5つ展示されているが、本作は彼らの協働の最初期に生み出された1作であり、そのあと繰り返し登場することになる「霧」が、すでに重要な役割を果たしている。

足元に映る青空が霧によって予測不能にぼやけ、水滴の波紋で揺れる。空や樹々の映像が写っているタイミングだと、雨の庭を地面の反対側から見ているようでうっとりするほど美しい。その一方で、本作は元々坂本によるオペラ『LIFE』(1999年)を元に再構築されたものであり、オペラで使われた音や映像が霧越しに現れることもある。

同作は「戦争と革命」「サイエンスとテクノロジー」などがテーマとして掲げられていたこともあり、そのときは会場全体が激しく、心ざわつくような空間に変貌する。床に投影される文字は、意味を追っているうちに霧にまかれて読めなくなってしまった。気になってあとで写真に写った言葉を翻訳してみたところ、人間の環境破壊によって絶滅した鳥類の名前が現れては消えていくワンシーンだったようだ。オペラ『LIFE』を鑑賞している人ならもっと深く理解ができたのだろうか……うらやましい。