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AIへの冷静な視点を忘れていない『アイの歌声を聴かせて』との共通点
同じようにAIへの冷静な視点を忘れていない日本のアニメ映画に、口コミで大評判になった『アイの歌声を聴かせて』(2021年)がある。吉浦康裕監督は、X(旧Twitter)で「正直な話『高度なAIに自我や魂は宿るのか?』系の疑問って、あまり考えたこと無いんですよ。人間の意識自体を“超超超高解像度なAIのようなもの”と捉えれば割とスッキリしますし。本作の主な登場人物の価値観も、それに近いものがあるのかもしれません」と語っていた。
なるほど、人間の意識もまたAIのような機械的なプロセスを複雑化したものとも言えるという理論には納得だ。裏を返せば、進化したAIはどこまで進化したとしても、人間の意識に限りなく近いプロセスを経ているにすぎないのかもしれない。
実際に『アイの歌声を聴かせて』劇中の女子高生AIはあくまでプログラミングに従った言動をして、それをもって「学習」もしていると描かれている。そうであるのに、初めこそ突飛に思えた彼女の言動が、人間のように愛情を持っているようにも思える、後半で明かされる「秘密」にとてつもない感動があるのはなぜなのか。
それは、その人がAIに「感情がある」「愛情がある」「幸せを願っている」と思うことができれば、本当にそれが絶対的な価値観になるという、人間の「主観」があるからだ。それは客観的にはプログラミングと命令に基づく結果なのかもしれないが、そもそも人間の意識や、『野生の島のロズ』の動物たちの自然の中での生き方も、超超超高解像度のAIのようなものだと思えば、それぞれに大きな違いはないのかもしれない。そうした思考を促してくれることも『野生の島のロズ』と『アイの歌声を聴かせて』では共通していた。

なぜ『野生の島のロズ』に「プログラムを超えて生きる」というキャッチコピーが付けられているのか。それは、客観的には「AIがトライアンドエラーを繰り返した結果、いままでとは違う行動や結果を示した」とも言えるのだが、主観的には「本当にプログラムを超えてロズは生きている」「素晴らしい母親になっている」とも思えるからだろう。
それもまた人間の一方的な考えかもしれないが、そう「思える」ことそのものが感動的であるし、現実のAIにおける見かた、大きく言えば人間とAIの関わりにおいて希望を投げかけるほどのものだった。ぜひ、『アイの歌声を聴かせて』と『野生の島のロズ』を併せて見て、そうした思考の一助にしてほしい。

『野生の島のロズ』

■2025年2月7日(金)全国ロードショー
■日本語吹替:綾瀬はるか、柄本 佑、鈴木 福、いとうまい子
千葉 繁、種﨑敦美、山本高広、滝 知史 、 田中美央、濱﨑 司 他
■声の出演: ルピタ・ニョンゴ、ペドロ・パスカル、キット・コナー、キャサリン・オハラ他
■原作:「野生のロボット」(福音館書店, 作・絵:ピーター・ブラウン/訳:前沢明枝)
■監督・脚本:クリス・サンダース
■製作:ジェフ・ハーマン
■配給:東宝東和、ギャガ
■Ⓒ2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.
■公式HP:https://roz-movie.jp/
【ストーリー】
無人島で目覚めたロボット・ロズの“出会い”が、壮大な<運命の冒険>へと導く─
計算不能の世界で、ロズが見つけていくものとは?
<最新型アシスト・ロボット>のロズが目覚めたのは、大自然に覆われた無人島。
未来的な都市生活に合わせてプログラミングされた“彼女”は、野生の島では全く機能しない。
動物たちの行動や言葉を学習し、徐々に未知の世界に順応しはじめたある日、 “彼女”は雁の卵を見つけ、雛を孵すことに。 「ママ!」──そう呼ばれた瞬間、“彼女”の奥深くで、“ある変化”の兆しが現れる。
ひな鳥を“キラリ”と名付けたロズは、ハズレ者のキツネ・チャッカリの知恵を借りながら、
“食べる”、“泳ぐ”、”飛ぶ”という渡り鳥に必要なことを手探りで教えていく。
そしてキラリの旅立ちの日、ロズは彼の飛行をアシストするために全力で走り、飛び立った姿をいつまでも見つめ続けるのだった。それは母親の眼差しそのもの──。
しかし、動物たちと共生し優しさや愛情を理解しはじめたロズの前には、彼女が築いた居場所を引き裂くような危機が迫っていた。はたして、ロズと野生の島の運命は──?!