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戦争のトラウマに向き合い、独自の方法で探求する
1章「過去という亡霊」は、戦争に関連する作品が並ぶ。
入ってすぐ目に入るのは、奈良美智のかわいらしい人物像だ。大きな瞳の子どもの絵画には、ベトナム戦争でアメリカ軍が使用した化学兵器「エージェントオレンジ(枯葉剤)」に因むタイトル『Agent Oragne』がついている。頭部は兵士が被るヘルメットのようでもあり、モチーフの愛らしさとのコントラストもあって、見る者の不安をかきたてる。

そのまま歩みを進めると、色鮮やかな着物が目をひいた。琉球王朝時代からの沖縄の独自技法である紅型(びんがた)で染色された照屋勇賢の『結い、You-I』だ。よく観ると、松や桜といった吉祥の意匠に紛れてパラシュートの兵隊が落下しており、戦闘機やヘリコプター、住処を追われたであろうジュゴンらしきものも描かれている。それらの不穏なモチーフは、伝統的な技法で作られた美しい着物の中に潜んでいるため、いっそう不気味な印象を与える。沖縄では日常の中にこうした光景や問題があることを実感させられた。

その他にも戦争画を現代に甦らせた会田誠の『美しい旗(戦争画RETURNS)』、日本統治時代に台湾で建てられた日本風邸宅に焦点をあてた米田知子の「Japanese House」シリーズ、広島とシカゴの彫刻を通して歴史を問い直すサイモン・スターリングの『仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)』など、歴史的 / 政治的な課題をアーティストとして問い直した成果が紹介されている。


