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『POP YOURS』の「実験的な編集」
それらは、このフェスが掲げている「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」というテーマを考えると納得がいく。ヒップホップを軸としながら、多様な音楽性をも飲み込んだ上でいかに提示できるか。曲が良いだけでなく、ショーとしてダンスや映像も使いながらいかにスペクタクルなステージを見せられるか。それは、まずヒップホップというカルチャーが一堂に会すること自体に意義があった伝説のイベント『さんピンCAMP』(1996年)とは全く趣きが異なるものだ。


『POP YOURS』がやっていることは、もっとエディトリアルでありキュレーションである。ヒップホップというカルチャーを中心に置きながら、それを編集することでポップカルチャーにもなり得るかという実験をしている。あくまでもヒップホップカルチャーに立脚するのが重要な点であり、ポップカルチャーを標榜するからといって突然ポップスターを連れてきたりするわけではない。微妙な匙加減が難しいところだが、そのあたりは極めて慎重に進めているように見える。
代表的な事例が、『POP YOURS』ならではの企画だろう。昨年はBonbero、LANA、MFS、Watsonによる楽曲”Makuhari”がスマッシュヒットを記録したが、今年はLEXとLANAによる兄妹コラボ楽曲”明るい部屋”やKaneeeとKohjiya、Yvng Patraによる”Champions”、さらにJJJ、BLASÉ、Bonberoによる”YW”といった曲が『POP YOURS』オリジナル楽曲として制作された。
会場でのフード販売は漢a.k.a.GAMIが企画するYouTube番組『漢 Kitchen』から出店があり、現行シーンを俯瞰で眺めながら誰と誰を繋げ、何をどう磨いていくと面白いものになり得るかという工夫が凝らされている。
前述した通り、これらは実験であるからこそ、実際にやってみたところ思うような面白さが生まれなかったということもあるだろう。しかし、その試行錯誤の末にこそヒップホップがポップカルチャーになり得るかという問いの答えは見えてくるだろうし、だからこそ私たちは次々と公開される『POP YOURS』の実験的な編集に身を任せて、わくわくしながら楽しむのが一番だ。