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制作工程をさかのぼる宝箱

やがて、ゆるく「The Wall」に囲まれた楕円形の展示空間へ。全方向を『ONE PIECE』に囲まれる体験は圧巻である。1000話以上にわたって規則正しく繰り返されてきた週刊連載のリズムが可視化され、作家の途方もないルーティンが実感される。PLAY! のプロデューサーである草刈大介は「作中の効果音の「ドン!」がどれくらいの頻度で出てくるのか観てみるのも面白いと思います」と語っていたが、大小(強弱)織り交ぜながら数ページおきに必ず描かれる「ドン! ドン! ドドン!」を目で追っていくと、まるで音頭を聞いているような不思議な高揚を感じる。

会場内の各所に設置された展示ケースは、宝箱をイメージした形のライトボックスになっている。展覧会の入り口から終盤にかけて、この宝箱の中はどんどん制作工程を遡っていく趣向だ。読者の手元に届くコミックスの状態から、裁断される前の2冊ひと組の状態(岡本曰く、ワンピースならぬ「ツーピース」)、とんでもなく細かい色の校正、『週刊少年ジャンプ』を作る活版輪転印刷のための樹脂版に、それを作成するための製版フィルム……。


具体的に知れば知るだけ面白いポイントだろうが、必ずしも、全てのプロセスを仕組みまで細かく理解する必要はないと思う。おそらく大切なのは、そこに存在する熱や密度を感じることである。

本展でフィーチャーされているのは節目である1000話・100巻だが、2021年の1000話掲載当時にとられていたこの印刷手法も2024年では新しい技術に代わられたものがあり、現在の『週刊少年ジャンプ』 では、展示のような黄色の樹脂版や製版フィルムは存在しなくなっているらしい。技術とはそういうものなのかもしれないが、この間まで主流だったものが、驚くほどスッと居なくなってしまう。そこを知り、記憶に留めておくのもこの展覧会の役割なのかもしれない。