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「夫婦」や「結婚」というものにかなり疑いがある人間だと思っています。
―亜希と直人は夫婦ですが、夫婦を描くということについて、どのように考えていらっしゃいましたか?
草野:そのことは、深く考えてなかったですね(笑)。当時、私はまだ籍を入れてもいなかったですし、既婚後の今も夫婦や結婚というものにかなり疑いがある人間だと思っているんです。だから、当時も細かく演出しなかったですね。今思うと、それでよくあれだけ役者さんがやってくれたなっていう感じなんですけど。
―そうした結婚への疑いが、足立智充さんが演じる直人という人物の描き方に繋がっていたような印象もあります。
草野:括弧付きの「家庭」といったものに、過度に憧れがある人物というイメージではありました。その、括弧付きの「家庭」というものを作るために、自分のことも犠牲にできるし、他者に対しても強くものを言うといった人物像ですね。
言ってしまえばモラハラ気味な夫を足立さんが演じてくださったことで、野土香役の笠島智さんもそれに引っ張られて、自分の役に入っていけたんじゃないかなって思います。撮影現場の経験が豊富な足立さんが1つの支柱となったというか、1本通った線がここにあるみたいな感じで、足立さんの存在が本当に大きかったですね。

―映画の中では、直人が「家庭」というものを維持するために、父親として強く振る舞わなければならない中で、亜希にとっては、育児をしている野土香が縛られているように見えるようなところがあるのかなと思いました。そうしたことが、先ほどのお話でもあった、亜希が子どもを殺してしまうという展開を招かざるを得なかった理由の1つだったようにも感じます。
草野:個人的な話になるんですけど、私自身は配偶者と家事をまったく分担していなくて、そもそも配偶者がいろいろやってくれる人なんですね。そういう人じゃないと一緒になれなかったと思います。
ただ、私の母は専業主婦で、父方の祖父母と一緒に住んでいたんです。祖父母も厳格な人でしたし、父もすごい仕事人間でした。だから、母が全然出かけられずにずっと家事をしている状態で、家に閉じ込められているような印象がありました。そのことが、自分のものづくりに影響を与えているのはあるんじゃないかと思いますね。そういう母の在り方が、現体験としてかなり強烈だったのだろうと感じます。

―終盤、野土香の娘である穂乃香を亜希が殺めてしまうというシーンのホン読みでは、駄々をこねる穂乃香の声を、野土香役だったはずの笠島さんが叫び、そして亜希役の澁谷麻美さんがそれに答えます。娘と母が入れ替わるような不思議な感覚がするシーンでした。
草野:穂乃香の台詞をあそこだけ野土香役の笠島さんに言わせようと思ったのは、完全に現場での勘なんです(笑)。勘ではあったんですけど、たぶん心のどこかで、穂乃香と野土香をダブらせたいと思っていたんでしょう。
そのことによって凶行に走る人に説得力を持たせるというか、凶行に走ってしまう理由のひとつになりうるものを何か作るっていうことを意図してたんじゃないかなと思います。
―娘の駄々をこねる声が母の声で演じ直されるあの瞬間は、初めて見たときに感動して、泣いてしまって、大好きなシーンでした。
草野:ありがとうございます。