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『王国(あるいはその家について)』草野なつか監督が語る、「結婚・家庭」に抱く違和感

2023.12.8

#MOVIE

子どもを育てる家ってすごく特殊なんだなと衝撃を受けました。

―登場人物は冒頭の刑事を除くと、妻の野土香と夫の直人、そして2人の住む家に出入りする妻の昔からの友人である亜希の3人のみですね。

草野:企画を立てた段階から「何かに執着する人、特定の人物に執着する人を描きたかった」というのが、1組の夫婦と外部から来る女性というかたちになった理由です。

さらにもう1つ理由があって、トランプのゲームみたいな映画を作りたいと思っていたんです。この映画では、妻の野土香がジョーカーの役割を果たしていて、野土香を直人と亜希のどちらが取るかみたいな。それによって強さが全然変わってくる、カードゲームのようなものですね。それが、この作品の持つ「領土」というテーマにも、共通してくるのかもしれません。

左から、野土香(笠島智)、亜希(澁谷麻美) / 『王国(あるいはその家について)』場面写真

―実際に撮影されて、俳優の身体や発話の変化の過程を、私たち観客も見ていくわけですけれども、撮影現場で見たとき、あるいは編集で見直したときで、その変化に違いは感じられましたか?

草野:やっぱり、現場が一番感動しました。これ以上やったら、もうホン読みじゃなくて本番になっちゃうから、リハーサルはここで終わらせないといけないなって思うような瞬間が明確にありました。それは、現場にいた人全員がそう思うという瞬間でした。ただ、撮った映像を、まったく現場には来ていない共同編集の鈴尾啓太くんに見せたら、そこまでの熱量を持って語るほどの変化はわからないって言われたんです。やっぱり映像になると伝わらない部分もあるなと思いました。ですから、編集でまたどう見せていくかというのは、かなりこだわりましたね。

―リハーサルでの俳優の変化に感動し、その感動を撮影現場にいた人々の全員が共有していたということ自体が、劇中に出てくる「密度の濃い時間」という言葉とも響き合っているような気がしました。

草野:「密度の濃い時間」という言葉は私の発案ではなく、高橋くんからシナリオが上がってきた時点ですでにあったものでした。亜希と野土香が過ごした、その「密度の濃い時間」を表すために、2人のあいだに通じる何かの合言葉を決めようとなったんですが、それは最終的に歌になりました。

歌は、滝廉太郎の”荒城の月”なのですが、完全に私の好みで選びました。井口奈己監督の『ニシノユキヒコの恋と冒険』(2014)で”浜辺の歌”を歌ってるシーンがありますけど、ああいうのがすごい好きなので、私も歌をやりたいなって。

―さきほど「領土」がテーマともおっしゃっていました。劇中では亜希と野土香が過ごした時間が「王国」と呼ばれます。その一方、亜希は、直人と野土香の家を「空間を持ってしまった王国」と呼び、そこに危ういものを感じたとも言います。

草野:私が実際に友人夫婦の家に遊びに行ったときに、繭というか、幕で覆われているような感じがしたんです。温度も湿度もちゃんと管理されて、小さな生き物を育てている柔らかい空間みたいな印象を抱きました。子どもを育てる家ってすごく特殊なんだなと思って、その衝撃がすごかった。なので、子どもを育てている家を自分の作品で描きたいと思ったんです。

でも映画の中では、結果的に子どもは死んでしまうので、その友達にも、「本当にごめんね。モチーフにしちゃってごめんね」って話したりしていました。

―亜希が、直人と野土香の子どもである穂乃香を殺めてしまいますね。この展開は、今あらためてどのように感じられていますか?

草野:子どもが亡くなってしまったという、すごく気になっていた事件があったんですが、それを企画段階で作品に落とし込めたらいいなと思っていたんです。はじめは本当にそれだけの単純な理由でしたが、これに結局ずっと苦しめられてるというか、落としどころが見つかってない状態です。フィクションの中とはいえ、本当にそれで良かったのか悩んでいます。

それが作品上、必要だったとしても、劇中で子どもを殺してしまう展開にしたことに、ちょっと、まだね、答えが出せてないんですよね。やっぱり作り手として、まだ未熟だった部分がある。だから今回、公開することで、何か答えが出ればいいなって思うんです。

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