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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

【2025年上半期振り返り・音楽編】若手ライター3人が国内外の注目作を語る座談会

2025.7.3

#MUSIC

早いもので、2025年ももう残すところ半分。NiEWでは、上半期に生まれたさまざまな音楽作品やシーンの動向を振り返るべく、座談会を実施しました。

参加してくれたのは、Podcast『コンテンツ過剰接続』のホストで、幅広くポップミュージックを観測し続けるキムラ。国内インディや、ブラジルをはじめ英米以外の各国の音楽に詳しい風間一慶。DJとしても活動し、国内外のインディペンデントなクラブミュージックに精通した松島広人(NordOst)。守備範囲の異なる若手音楽ライター3人に、音楽ファンにはおなじみの作品から、まだあまり知られていないアーティストまで、それぞれが気になった音楽を語り尽くしてもらいました。

音楽通のあなたもきっと、読めば未知の音楽と出会えるはず。良い出会いがあれば幸いです。

私性のにじませ方が絶妙だった星野源『Gen』

キムラ:去年はビヨンセ、アリアナ・グランデ、テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュ、ケンドリック・ラマーとビッグネームが次々にアルバムを出した年でしたけど、2025年はビッグネームの動きがそこまで活発ではないですよね。全体的にまだ去年の余波の中にいる感覚というか、2025年ってどんな年なんだろうというムードをまだつかみきれていない感じはあります。

—ビッグタイトルはレディー・ガガ『Mayhem』、国内だと星野源のアルバムもありました。

キムラ:星野源の『Gen』は良かったですね。彼は日頃からラジオなどを通して世界各国のさまざまな音楽を紹介していますが、『Gen』にはそんな彼の紹介者としての側面、リスナーとしての趣味みたいなものが感じられる。J-POPとして、大衆からの要請に応えているアルバムであると同時に、すごく私的な動機や感情も伺える作品だと思いました。1人のアーティストのインディペンデントな作品として楽しむことができました。

松島:僕は正直メインストリームの作品をあんまりたくさん聴けているわけではないんですが、メインストリームで私小説的な作品って、近年そんなになかったような印象があります。そういう作りのものがここまで広い人に受け入れられるのは、珍しい動きなんじゃないかな。

キムラ:確かに日本のメインシーンに、作家の私的な感情を吐露するような作品がようやく出てきたという感じはしますね。海外だとテイラー・スウィフトが去年出したアルバムとかは、彼女のファンダムにしかわからないくらいの私的なリリックがあったり、それこそケンドリック・ラマーとドレイクのビーフだって、互いの私的な領域を積極的にリリックへと落とし込んでいく行為の連鎖であったわけですが。

松島:ああ、それはそうですね。

風間:内輪向けの表現にはしていないところが、星野源は偉いと思いましたね。ヒップホップのビーフでも、Instagramのストーリーを見てないとわからないとか、6年前にこういうアルバムが出ていることを踏まえている、等あると思うんですけど、星野源はそういうことをしていなくて。

松島:なるほど。

風間:イースターエッグを入れて内輪で囲い込むんじゃなくて、少しふんわりとした言葉で個人的なことや時代性をにじませるやり方が、すごく上手いなと思いました。例えば曲の中で『オールナイトニッポン』のネタとか言われたら、めちゃくちゃ冷めると思うんですよ。

キムラ:うん、うん。そうですね。

オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの接続

風間:5月に出た川島明のアルバム(『アメノヒ』)にも、同じことを感じました。『ラヴィット!』のネタとか入れたらぜったい喜ばれるのに、入れてこないのがすごい。藤井隆プロデュースで、She Her Her HersやLe Makeupが楽曲提供してるんですけど。

松島:Le Makeupさんがそこに参加しているのにはびっくりしたんですけど、広く受け入れられるべきアーティストではありますよね。

風間:たしかにLe Makeupの起用が一番びっくりしました。曲もアレンジもかなりそのままLe Makeupで。

松島:今年の上半期は、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの垣根がなくなって、少しずつ接続されてきている感覚もありましたね。インディペンデント性を保ちながらメインストリームな表現もできるし、インディの中にも決して内輪や自己完結的ではないソングライティングができる人もいるのが、ようやく伝わり始めてるのかな、と。

—Peterparker69と野田洋次郎のコラボレーション(“Hey phone”)もありましたし。

松島:そうですね。Peterparker69は「普遍的なポップスを目指してるんだけど、自分たちがいいと思うことをやろうとすると、どうしても変則的な形になっちゃう」ということ前々から言っていて。売れるためにそこをオミットしていくのか、そのままでいくのか、という問いがあると思うんですけど、あのリリースでは「そのままでもどこまでも上を目指せるぞ」というのを、提示しようとしているんじゃないかなって思いましたね。

キムラ:その話で言うと、ニーナジラーチ(Ninajirachi)というDJ / プロデューサーが、櫻坂46のリミックス企画に参加したんですよね( 『Addiction』収録の“承認欲求 -Ninajirachi Remix-”)。『ロラパルーザ』や『EDC』などの大型フェスにも出演している人なので、そこまでアンダーグラウンドでもないんですけど……とはいえ日本ではまだそこまで知られていない新進気鋭のプロデューサーを櫻坂46と接続する仕掛けは、メインストリーム側の動きとして面白いと思いました。

松島:架け橋的な動きでいうと、LDHのガールズグループF5veとかもそうですよね。

キムラ:はい。プロデューサーや客演にケシャ(Kesha)とかA.G.クックを起用してますよね。

松島:caroline『caroline 2』はどうでした? Rolling Stone Japanのインタビューを読んだらダリアコア(=2020年以降に流行しているサンプリング音楽の1ジャンル)の話が出てきて、そういうところから影響を受けてああいう音楽を作っているのは面白いなと思って。

風間:確かにそうですね。

松島:バンド的なフォームにこだわる人もそういうところから影響を受けるし、逆に、ダリアコアの提唱者でもあるジェーン・リムーバー(Jane Remover)なんかはインディーロックから強い影響を受けている。やっぱりいろんなところの境界線が曖昧になっている感じはしますよね。

風間:そういった、ジャンルや人脈をまたぐ存在がいると、両方を聴く人が増えるし、良いですよね。国内だとCwondoさんがそういう存在ですよね。いろんなところで活躍していて。(Cwondoがギター / ボーカルを努める)No Busesの今年のアルバム(『NB2』)もちゃんとそこをつなぐような内容でした。

松島:ああ、すごいですよね。リスペクトしてます。Cwondoさんは実際、小さなクラブでもよく会いますからね。ここにもいる! みたいな(笑)。Cwondoさんと近いところで活動してるvqというアーティストがいて、最近teleにリミックスを提供したりしているんですけど(配信EP『「硝子の線』に収録)、彼もCwondoさんと感応して変わっていっているように見えます。

風間:確かにそういう感じがします。

垣根を超えたメイ・シモネス、貫いている野口文

風間:自分が聴いているものの中で、上半期で一番その垣根というか、「この辺の人たちはこれを聴いてるけどこれは聴いてない」というトライブを超えてきたなと思うのが、メイ・シモネス(Mei Semones)です。

松島:はい、はい。

風間:ブルックリンにいる24歳のシンガーソングライターで、5月に『Animaru』というアルバムが出たんですけど、僕の周りでもトライブを飛び出して支持されている感じがあります。ボサノバの弾き語りで知られた人なんですけど、インディーロックの人たちと一緒にずっとツアーをしてたりして。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/6giorr9WTWilWHmD0Ox4ow?si=P8bvPZ3PRqmY8q0ZLS4Eiw

—来年、Men I Trustのサポートとして来日することも発表されましたね。

風間:お母さんが日本人で、日本語と英語で歌ってるんです。自分でも自分の音楽をJ-POPと言っていて。

キムラ:星野源もラジオで紹介してましたよね。

風間:その影響ですごく認知が広がった感じもありますね。あと、反対にインプットがすごく狭くて、「これしか聴いてません」みたいな人の存在にも、それはそれでテンションが上がるところがあって。びっくりしたのは、2月に『藤子』というアルバムを出した野口文がインタビューで「ジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』とストラヴィンスキーだけ聴いてます」みたいなことを言っていて、めちゃくちゃかっこいいなと思ったんです。

松島:貫いてますねえ。

風間:ジャズの要素と宅録の要素がある作品なんですけど、それをやるなら意識してしまいそうな、例えば長谷川白紙や、Suchmosフォロワー的なバンドを本当に聴いてきてなさそうなんです。時代性がないっていうか。たしかスマホも持ってないと聞きました。

キムラ:野口文からは若干の石橋英子っぽさを感じました。日本でああいうコンテンポラリーなジャズっぽい感じに特化していくアーティストって少ないですよね。もう少しマキシマムに、または極めて実験的なサウンドアプローチへと変容していくケースが多いと思うんですけど、野口文はソリッドだしシンプル。職人的とも思います。

風間:まさに8月に、野口文さんの自主企画で、石橋さんと2マンライブをやりますよね。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/2Q0FCN53I8xAbnOi0P0WPp?si=Lh7kGq0uS2CmiTq5WzV9bw

数年の沈黙を経て活動再開した重要アーティストたち

キムラ:僕が上半期注目したのは、しばらく沈黙していて最近また動き出した2組のアーティストです。ひとりはフォー・ゾーズ・アイ・ラブ(For Those I Love)で、5月に“Of The Sorrows”というシングルを出しています。前作は2021年のセルフタイトルアルバムで、亡くなってしまった幼少期からの親友に捧げた作品なんですね。フォー・ゾーズ・アイ・ラブ自体がそのために立ち上げたプロジェクトでもあったので、新しく曲を出すことはおそらくないだろうと思われていたんです。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/74FsSXffJtdMdsUHmn9NBY?si=XVEt3xWvRq-IY1o0LKeOhg

キムラ:その彼が突然新曲をリリースして、それが故郷であるダブリンの苦境について歌っている歌なんです。ダブリンに住む若者たちが、経済的な苦境で故郷を去ることを余儀なくされる社会状況にある。決してこの街から離れたくないという気持ちと、それでも離れなければならないという、引き裂かれた感情、悲痛さを、スポークンワードによって訴えかける作品です。曲の後半からは、アイルランドの伝統的なケルトの楽器の音が入ってきたりして。

風間:ブラジル音楽の「サウダージ」という概念はよく「故郷に戻れない感覚」と説明されますし、それを歌うアーティストは多いんですけど、「故郷を離れなければならない」ことについての歌はいままであまりなかったかもしれませんね。

キムラ:そうですね。

風間:ダニー・ブラウン(Danny Brown)が一昨年にカッサ・オーバーオール(Kassa Overall)と一緒にやった曲(“Jenn’s Terrific Vacation”)が、ジェントリフィケーションに関する内容でしたよね。故郷の景色が変わってしまう不安を扱っていて。ジェントリフィケーションはいま大きな社会課題ですし、もしかしたらこれからもっと、私たちがあまり触れたことがないシリアスさを持って歌われる題材になっていくのかもしれません。不幸なことですけど。

キムラ:もうひとりはフランシス・アンド・ザ・ライツ(Francis and the Lights)ですね。カニエ・ウエストとかチャンス・ザ・ラッパー、ドレイクとか、ここ10年は名だたるアーティストの作品に参加していた人なんですけど、コロナ禍以降はほとんど活動がなくて、まさにそのカッサ・オーバオールのアルバムに若干参加していたくらいだったのが、今年の3月に急にYouTubeに新曲が上がりました(“Ancient Calling (Stubborn Visions)”)。

https://www.youtube.com/watch?v=vQSHrfvJwrA

風間:そうなんですね! 出てたの知らなかったです。

キムラ:それがピアノの弾き語りで、作家としての孤独とわずかな光への祈りを歌うような曲なんです。ちょっと最近の星野源とも重なるテーマですが。この二人がまた動き出したというのは、個人的には大きな事件でした。フランシス・アンド・ザ・ライツはストリーミングにないので、なかなか気づかれにくいんですけど、非常に重要な作家だし、これからも重要な存在だと思います。

風間:彼はプリズマイザーというエフェクトを発明した人で、それが日本でも浸透しましたよね。この前出た千葉雄喜のアルバム(『永遠』)にもガンガン使われていましたし、米津玄師も“海の幽霊”で使ってたり。大発明だったと思いますし、もしかしたら楽曲以上に大きな功績ですよね。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/5eiwe9Nx2v1M4uHEncqb9e?si=JhxKEEu-RomueuGmbqHsJQ&nd=1&dlsi=fe43d53c169e425d

注目すべき次世代のヒップホップアーティストたち

松島:社会課題を歌うということだと、今年上半期でアップカミングだったWorldwide Skippaというラッパーがいて、彼は排外主義を徹底的に否定するような曲(“ダサくて助かる”)を出したりしていますね。

風間:<皆も気を付けろよ 自分の内なる林原めぐみ>ですね。リリースのスピード感もすごかったですよね。あの人本当にずっとX(Twitter)見てるんだなって(笑)。

https://soundcloud.com/user-6223987/p-pillsbeforesex?utm_source=clipboard&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing

松島:あと若いラッパーでいうと、Sieroくんはチェックしておくといいかなと。活動をはじめて2年経っていないくらいのアーティストなんですけど、ライブの熱量や、単純にスキルと見せ方の部分で、ティーンネイジャーのラッパーの中で頭ひとつ抜けている印象があります。デジコアとかハイパーポップ寄りの、日本語のアンダーグラウンドラップのシーンで、次の世代を牽引していくアーティストだと思います。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/4iF8CQ9SNnfYqb3sAZfnFM?si=x9_BdIg-T6imbRDPb6UUHA

松島:あとは、19歳ぐらいのgoku sasakiっていうアーティストがいて。サウンド的には海外のアンダーグラウンドラップ流れをいち早くつかみつつも、日本的な要素を色濃く載せていて独特なアプローチをしています。この人はいま僕が日本で一番好きなラッパーの一人ですね。この間出た“なんとなく夢を”という曲ではイントロでゆらゆら帝国をサンプリングしていたり、ライブではフィッシュマンズのカバーをやっていたり、そういうものに影響を受けながら、音像がマキシマイズされたヒップホップをやっているっていう、いままでにいなかったタイプのアーティストなんです。

https://open.spotify.com/intl-ja/track/0stVlT3oHq00aOXeACOgbz?si=2d72996b16fa49eb

風間:すごい。なんか海外の日本音楽好きみたいな志向ですね。

松島:そうですね。それでいて、トレンドや対外的な目線じゃなくて、ひたすら自分と向き合って作っているタイプの人なんです。2000年以降生まれの人たちは、もう圧倒的に新しい価値観を持っていると感じています。いま20歳ぐらいの人たちって、親御さんが40〜50代で、青春時代にいまも『フジロック』に出ているようなアーティストや渋谷系を聴いてきた、その子供の世代だと思うんです。こういう人たちが育っていくと、予想だにしない作品やアーティストが次々と出てくるだろうな、と期待してます。

ガールズグループにおける国産クラブミュージックリバイバル

キムラ:クラブミュージックと世代の話で言うと、いま、10年くらい前の日本のクラブミュージックがメインシーンに影響を及ぼしているような気がしています。『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』、通称=日プ女子というオーディション番組から出てきた、ME:Iというガールズグループがいるんですけど、4月に出た『MUSE』というシングルの収録曲が、全体的にマルチネ(=Maltine Records。tofubeatsらを輩出したインターネット発のレーベル)っぽいと自分の周りのDJやライターたちの間で話題になったんです。Avec Avecとか三毛猫ホームレス(いずれもMaltine Recordsのアーティスト)みたいな。

松島:あーー。

https://open.spotify.com/intl-ja/track/3DXsJF9I3rmb4tzTaavbpT?si=e67b3affad9f4474

キムラ:同じシングルに収録されている“Affogato”という曲は、渋谷系ボッサというか、初期CAPSULEっぽい感じがある。他にも例えば、いまものすごく成功しているKAWAII LAB.(=FRUITS ZIPPER“わたしの一番かわいいところ”、CUTIE STREET“かわいいだけじゃだめですか?”などのヒットを生んでいるレーベル)のプロデューサーは、実際に中田ヤスタカとか増田セバスチャンとか、あの頃の「原宿かわいいカルチャー」みたいなものをリアルタイムで経験していた人ですし。10〜15年ぐらい前のクラブミュージックが、特にガールズグループに影響として出てきているのは強く感じますね。

松島:直接的にはHALCALIのリバイバルヒットもありましたよね。

キムラ:そうですね。あと、国外ですが、ソフィー(SOPHIE)『Product』の10周年記念版がつい最近出ましたけど、ソフィーもaespaを中心としたK-POPシーンとかに、ものすごく影響を及ぼしているなと思います。

クラブのオーディエンスの変化と、ジェーン・リムーヴァー

松島:やや脱線しますが、普段DJをしている中で、特にデイタイムの若い世代向けの現場の雰囲気が変わりつつあるのを感じています。いままでデイタイムのクラブイベントって、好きなアーティストのライブアクトを目当てにチケットを買ってくるお客さんがほとんどで、DJはライブイベントの転換の時間と変わらない扱いだったりすることも珍しくなかったんですが、この間lilbesh ramkoくんたちと一緒に出演した『DEMONIA Vol.10』では、ライブタイムよりDJが盛り上がるみたいな、今まであまり考えられなかった逆転現象が起きていて。

—そうなんですね!

松島:みんなが知ってる曲や派手な曲だけじゃなくて、例えばUKガラージみたいな曲で若い子たちがブチ上がってくれたり。あくまで仮説ですけど、2023年、2024年ごろに『Boiler Room Tokyo』(=ロンドン発の、クラブイベントを配信するサービスの日本版)のアップロードが続いたじゃないですか。あれで若い人たちが、YouTubeを見る延長でクラブやDJの様子を見るようになって、自分も発散するように踊ってみたいというニーズが醸成されてきたんじゃないかな? と思います。あとは、ジェーン・リムーヴァーや2hollisといった、ハイパーポップやデジコア経由でインディペンデントからメジャー化していったアーティストたちの存在も、そうした文化の入口として一役買っているんじゃないかと。

—ジェーン・リムーヴァーも上半期、アルバム『Revengeseekerz』のリリースがありました。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/21b4cDNse2AMpj94ykfuON?si=5W_a9UweTNK3ZejgjY6qeA

風間:はい。ジェーン・リムーヴァー、『フジロック』で見る予定なので楽しみです。フジの深夜でどういうふうに盛り上がるのか気になりますね。いまdeadAir(=ジェーン・リムーヴァーをリリースしているレーベル)はめちゃくちゃ熱くて、今年はクアデカ(Quadeca)のアルバムがこれから出るはずなので、それもとても楽しみにしています。下半期にもこの回があったら、僕はクアデカの話ばかりしているかもしれません(笑)。

松島:うらやましい。ジェーン・リムーヴァーすごい見てみたかったです。2hollisは2月の初来日時にDJとして共演できて観れたんですけど、早くも『SONICMANIA』に来ますよね。フジがジェーン、ソニマニが2hollisを呼ぶのは、2大フェスそれぞれの志向がよく出ている感じがします。

キムラ:うんうん、そうですね。

『コーチェラ』のモヤモヤと小袋成彬の立候補

風間:フェスの話だと、今年の『コーチェラ』の配信で、クレイロ(Clairo)が見たくて待機していたんですよ。そうしたら急にバーニー・サンダースが出てきて。彼は民主党の中でも左派性が強い年配の議員ですけど、「若者の選択に未来がかかっている」と説く演説をしたんです。その後にバンドメンバーが出てきて、クレイロの今回のツアーでは毎回、ステージを始める前にワインを飲む演出があるんですよ。これに関しては『コーチェラ』だけじゃなくてアルバムのツアー全部でやっているんですけど、乾杯して飲んだ後に演奏を始めるんですね。その図が、何て言えばいいんだろうな。正直に言うと、そういうことだから民主党は負けたんじゃないのかなっていうのをすごく思ってしまって。

キムラ:いや、本当にそれは思いましたね。

バーニー・サンダース / “Bernie Sanders” by Gage Skidmore is licensed under CC BY-SA 2.0.

風間:『コーチェラ』自体が、いまフェスの価格高騰で金持ち向けのものになっていると槍玉に上げられているところで、バーニー・サンダースがそれを言い、壇上の人たちがワインで乾杯するという……。

松島:それって、逆に壁を作っていないか? という。

風間:トランプ1期目の2016年には、テイラー・スウィフトが声を上げて(プロテストが)団結するのを、良いふうに思って見ていたんです。でも、あれで盛り上がっている『コーチェラ』の図を見た時に、自分の中でけっこう変わるものがあったんですね。こういうやり方が有効だった時期はもう終わったのではないか、ポップミュージックと社会が幸せな関係でいられたのはもう過去の歴史なんじゃないのかと感じて、見ながらズーンと落ち込んでしまいました。

キムラ:『コーチェラ』では、ポスト・マローンのステージの方がよっぽどアメリカとしてリアルだったなという感じはします。小袋成彬の立候補も、ちょっとバーニー・サンダースのその印象につながりますよね。

松島:ああいう人が手を挙げてくれることに対しては、期待はもちろんありますし、話題作りではなくてしっかり向き合っているとは思うので、否定もできないですが。

風間:うーん。「アーティストや芸能人が選挙に出てみました」というのとはちょっと違っていて、だからこそ評価の難しさがありますよね。ポジティブな要素が素晴らしいのはわかるけど、選挙や政治となると、ネガティブな要素の取り除き方のほうが問われちゃうので。市議とかではなくいきなり市長選に出たのは、とても小袋成彬っぽいなと思いました。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/3zpeZbl6NBa9KJbXpQMrig?si=gUhlo8m3TmSIpEfdqAvc9Q

—小袋成彬はアルバムのリリース(『Zatto』)もありましたが、そちらはどう聴きましたか?

風間:betcover!!とはまた別の昭和の解釈というのかな。リズム歌謡の歴史をもう一回辿って、リズムの多様さを呼び戻すようなアプローチは面白いし、それをイギリス経由で、いまイギリスで流行っているサウンドの匂いまで含めてやったのも面白いと思いました。ただ、そういう新しさがどこまでみんなに届いているのかな? とは思いますね。

松島:音像は素晴らしかったですね。ただ、僕がそういう音楽の素養が少ないからというのもありますけど、個人的には『Piercing』や『分離派の夏』の方が好きだとどうしても思ってしまう。あくまで自分の志向の話で、それで言えば僕は、去年のチャーリXCX『brat』とかも、総決算ではあるし良くできた作品だと思うけど、心を揺さぶられるものだとは感じられなかったんですよね。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/2lIZef4lzdvZkiiCzvPKj7?si=_aPUA_hdQUefjlFbCoe3nA

キムラ:うんうん。やっぱりPC Music(=チャーリXCXと長く共同作業を行ってきたA.G.クックが主催するレーベル)に対して思い入れがある人たちはそう言いますよね。『コーチェラ』にもA.G.クックとチャーリXCXが出てたじゃないですか。A.G.クックは、あの頃からの自分のジャンルというものをしっかりとやったステージだったのに対して、チャーリはポップスターとして大衆から求められる要請をしっかり引き受けるようなステージで、二者のスタンスがはっきり分かれていた。それは決してネガティブなことではなく、どちらも未来にしっかり橋渡しをしていて美しいわけですが、『brat』が好事家の間で厳しい評価だというのもすごくわかります。

風間:なるほど、確かにそうですね。僕は逆にPC Musicにそこまで触れてなくて、その種の音楽にずっとあんまりハマれていなかったのが、『brat』を聴いて開花して、今年のNo Busesのアルバムで本格的にハマったんです。そこまで触れてなかった人間からすると、総決算的なものが出てくることで見えるものがとてもあって、ありがたさがあったんですよ。

松島:そうそう、別に否定する気は全くなくて、入り口としては素晴らしいアルバムだと思います。

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