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令和ならではのリーガルドラマ『モンスター』が描く、もう一つの「モンスター」

2024.12.23

#MOVIE

『モンスター』©カンテレ

カンテレ制作の月曜夜10時台のドラマと言えば、毎クール、注目しているドラマ好きも少なくないだろう。

最近で言えば、『アンメット ある脳外科医の日記』(2024年)。その前では、『アバランチ』(2021年)や『エルピス-希望、あるいは災い-』(2022年)、『罠の戦争』(2023年)など骨太な社会派路線ながらエンタメ性も高い傑作ドラマを数々、扱ってきた。

そんな月10枠で放送中のドラマ『モンスター』が最終回を迎える。NHK朝ドラ『ブギウギ』(2023年)の主人公・福来スズ子役で、一躍、国民的人気者となった趣里が、次なる主演ドラマとして選んだのが本作である。

趣里が演じるのは、得体の知れないモンスター弁護士・神波亮子。突然、大草圭子(YOU)が所長を務める「大草圭子法律事務所」に現れ、「弁護士をやってみることにした」と言い出したことからドラマは始まる。時に法整備が追いついていない令和時代ならではの事件の数々を型破りな方法で解決していくリーガルドラマだ。

そんな『モンスター』では、モンスター弁護士だけでなく、毎話、事件を起こしてしまう「モンスター」も描かれてきたのだが、今回は、このドラマが描こうとしてきた、もう一つの「モンスター」について考えてみたい。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

インターネットやSNSに関連した訴訟を扱った第1~4話

第1話で亮子(趣里)の弁護士宣言に驚く大草圭子法律事務所の人々©カンテレ
第1話で亮子(趣里)の弁護士宣言に驚く大草圭子法律事務所の人々©カンテレ

これまでの『モンスター』で扱われてきた、亮子が弁護を担当した訴訟を振り返ってみると、インターネットやSNSに関連したものが多いのが興味深い。

第1話は、自殺教唆の罪で起訴された塩屋遼(萩原利久)の弁護から始まる話で、その起訴に至った証拠は、彼が自殺した恋人・川野紗江(藤吉夏鈴)との間で交わしたチャットの履歴。一方で、有罪濃厚だった彼を無罪判決に向かわせたきっかけは、亮子が、ハッキングが得意なコンビニ店員・城野尊(中川翼)に指示して行わせたSNS上の世論誘導。そして、無罪を決定的にしたのは、川野がSNS上に匿名で残した投稿の履歴だった。

第2話は、手掛けた新曲の盗作疑惑が指摘された女性アイドルグループ『ハッピー☆ラビット』のメンバー・シホ(なえなの)の弁護から始まったが、彼女を追い詰めたのは、コンビニで店員に苦情を申し伝える様子を盗撮され、切り抜かれた動画の拡散。本来は、直前の客に対する暴言に文句を伝えたものだったが、切り抜かれて拡散された結果、世間における彼女の印象を悪化させることになった。また、盗作疑惑とされた楽曲の歌詞も生成AIを利用して作られたものであった。

第3話での温泉客など亮子の七変化も本作の魅力の一つ©カンテレ
第3話での温泉客など亮子の七変化も本作の魅力の一つ©カンテレ

第3話は、SNS経由の精子提供詐欺にあった大企業の御曹司・五条和彦(渋谷謙人)とその妻・亜佐美(佐津川愛美)が、同じく被害にあった長岡茉由(吉本実憂)による告訴を大きな騒動にしないために、詐欺を行った斉藤文哉(佐藤寛太)を弁護して(示談でおさめて)欲しいという入り組んだ依頼から始まったが、そもそもの詐欺に使われたのはSNSにおける匿名アカウントであったし、斉藤の無罪判決のきっかけとなったのも、長岡との間のチャットの履歴だった。

第4話は、週刊誌に報道された名門大学サッカー部における体罰騒動について、亮子の先輩弁護士・杉浦(ジェシー)の同級生でサッカー部コーチの甘利弘樹(佐野岳)からの相談で始まる。その後、神宮寺和也(夏生大湖)らサッカー部員たちが体罰に対する損害賠償を求めて大学を提訴するのに利用したのは動画配信サイト。第2話では、偽の情報を流すために利用された動画配信が、第4話では彼らにとって都合の良い「真実」を真っ直ぐ伝えるために利用された。

現代的な訴訟を扱いつつ、亮子と父・粒来との複雑な関係を描く第5~8話

敵か味方か分からないまま最終回を迎える亮子の父・粒来春明(古田新太)©カンテレ
敵か味方か分からないまま最終回を迎える亮子の父・粒来春明(古田新太)©カンテレ

第1話から、各話に印象的な登場の仕方をし続けていた、亮子の父親で12年間失踪中だった弁護士・粒来春明(古田新太)が本格的に登場した第5話からは、扱われる訴訟の方向性も変わっていった。

第5話~第6話は2話あわせて、アメリカの有名な資産家の娘・サトウエマ(秋元才加)による、亡き父・マサル(石橋凌)が受けた高額医療ツアーがインチキだったのではないかとの訴訟を扱った。元々は地域に根ざした総合病院だったが、父から息子へ院長が変わったことによって、富裕層向けの病院に改革したというのも、どこかで聞いたことがある話。医療ツアーの流行や、高額医療に関する訴訟も現代的な事象ではある。そして、この回で病院側の弁護士を務めたのが、粒来であった。父親との法廷での争いをゲームのように楽しむ亮子であったが、粒来が用意してきたマサルが自身の思いを語る動画を見たエマは、そこに映るマサルこそが自分が知る父であったと認識を改め、訴訟を破棄。本作の第1話で弁護士となった亮子は、初めての負けを父との戦いにおいて経験し、弁護士事務所に戻った彼女は、人目もはばからずに号泣する。

ついに弁護士同士、法廷で争うことになった亮子と粒来©カンテレ
ついに弁護士同士、法廷で争うことになった亮子と粒来©カンテレ

第7話は、人気ドラマのロケ地となった町の住民が、聖地巡礼に訪れるドラマファンによるオーバーツーリズムやゴミの散乱などマナー違反に耐えかねて亮子に相談したことから始まる。更に、現地で行われたドラマのプロデューサー・坂口武広(林泰文)によるトークショーの現場で事故にあった地元の饅頭屋「みやこし」従業員の前園里佳子(堀未央奈)が、トークショーに携わった地元の役所観光課とテレビ局の事業部、過重労働を強いた「みやこし」の店主を相手取っての訴訟を起こしたことから話は展開。聖地巡礼が一般化したのも2010年代以降。「推し活」が話題となった2024年に扱うのに相応しい今どきのモチーフであると言える。

第8話で描かれたのは、成績優秀な高校生・栗本颯(坂元愛登)と仲間が犯した「闇バイトごっこ」の訴訟に対する弁護。他人の家に侵入するだけで、窃盗など直接的に迷惑はかけない、本人たちにとっては「子どもの遊び」のつもりの行為だったが、住居不法侵入は立派な犯罪。栗本がバイトするスーパーの同僚・橘清美(石野真子)宅に侵入した帰りに警察に出くわし、逮捕となった。「闇バイト」自体は、この数年、話題となっている社会問題ではあるが、今期もドラマ『3000万』(NHK)や『潜入兄弟』(日本テレビ系)で描かれるなど、2024年に特に注目を浴びたトピックとなった。

第5~6話で扱われた訴訟に続いて、第8話の訴訟においても、粒来(古田新太)が関わっていた。「闇バイトごっこ」事件を担当した検察の藤吉伸(近江谷太朗)は、この「闇バイトごっこ」事件も利用して闇バイトの指示役である通称「キング」の逮捕にこぎつけようと画策していたのだが、そのキング逮捕を願っていたのは粒来も同じだった。第6話で粒来が行った裁判員への心理誘導を真似て、泣き真似で裁判員の心情を揺らがせることによって勝利した亮子。直接的ではない、父から娘へのバトンタッチが描かれた。

同業の道に進む娘と父との関係を描く新しさ

第9話で「四季の森美術館」を訪れた亮子と絵画の前にいた一人の男(近藤芳正)©カンテレ
第9話で「四季の森美術館」を訪れた亮子と絵画の前にいた一人の男(近藤芳正)©カンテレ

第9話以降は、亮子が12年間失踪中だった弁護士である父・粒来の12年間の空白の謎を追う形で話が進む。第8話で描かれた闇バイト組織の通称「キング」と粒来の接点を調べるべく、事務所で読んでいた資料の中に、「四季の森美術館」という文字を見つけた亮子は、急遽、休暇を申請し、群馬県にある四季の森美術館に向かう。彼女にとって、父の不在の理由を突き止めることこそが弁護士になった理由と思わせるような行動力だ。

同性の親子が同業の道を進み、親子間でのバトルや確執を描くようなドラマや映画は数多くあったが、父と娘の関係におけるそれは珍しいと言えるだろう。リアルサウンド映画部のこちらの記事で言及されている通り、父娘の関係を主軸として描いたドラマは今年2024年冬期のドラマに多かった。同じくカンテレ制作の月曜22時ドラマ『春になったら』や、『厨房のありす』(日本テレビ系)、そして、今年の流行語にもなった『不適切にもほどがある!』(TBS系)などもあるが、同業の父娘関係を描いたドラマとなると、日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)がある。しかし、『さよならマエストロ』では、夫婦関係は破綻に近づいているものの母親は健在だったが、『モンスター』では、亮子が小さい頃に母親は亡くなっている。父が失踪した高校時代から自立して生きていかざるを得なかった亮子。幼少期は仕事場につきっきりで父の側を離れなかった彼女にとって、思春期を迎えたとは言え、大いに傷つく経験であったことだろう。

先の記事では、「女性の社会進出によって、家事を担当する母親だけでなく働く父親としての役割も求められるようになっている」と言及があった。同じく趣里が主演した朝ドラ『ブギウギ』で「母親としての役割を果たすと同時に、父親として振る舞うことが求められるようになっていく」主人公(続く朝ドラ『虎に翼』の主人公もそうだった)が描かれた延長線上で、本作のように、父のような道に進む娘が当たり前に描かれるようになってきたことには新しさを感じる。

橋部敦子ら熟練のスタッフと趣里とジェシーなど新鮮なキャスト

第1話では亮子のモンスター弁護士っぷりを訝しげに見ていた杉浦義弘(ジェシー)©カンテレ
第1話では亮子のモンスター弁護士っぷりを訝しげに見ていた杉浦義弘(ジェシー)©カンテレ

本作は、ベテラン脚本家・橋部敦子によるオリジナル脚本ドラマである。橋部といえば、本作と同じカンテレ制作の『僕の生きる道』(2003年)、『僕と彼女と彼女の生きる道』(2004年)、『僕の歩く道』(2006年)の、いわゆる「僕シリーズ3部作」で有名だが、最近でも、第39回向田邦子賞受賞作の『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(2021年 / テレビ朝日)や『ゆりあ先生の赤い糸』(2023年 / テレビ朝日系)などの話題作も手掛けており、いずれもドラマが放送された時代にも通じる社会課題をモチーフとして扱ってきた。本作にスタンスが最も近いドラマと言えるのは、『半径5メートル』(2021年 / NHK)だろうか。橋部によるオリジナル脚本であったこのドラマでは、週刊誌記者を主人公として報道の問題も追求しつつ、出張ホストやミニマリスト、トランスジェンダーなど、当時も話題になっていたトピックスを的確に扱っていた。

メイン演出は、数々の橋部脚本ドラマやカンテレ制作のドラマ演出を手掛けてきた三宅喜重が務め、他に、木内健人と樹下直美が演出を担当している。

亮子と同じ勝訴の道筋を見られるようになった杉浦©カンテレ
亮子と同じ勝訴の道筋を見られるようになった杉浦©カンテレ

キャストは新鮮そのもの。朝ドラ主演直後であるから、趣里の主演が当たり前のように思えるかもしれないが、映画では主演作も少なくないものの、地上波ドラマにおける主演作は数えるほどしかない。SixTONESのメンバー・ジェシーも、主演級の扱いのドラマは、これまでに『最初はパー』(2022年 / テレビ朝日系)くらいであったし、事務所で働くパラリーガル・村尾由紀子を演じる音月桂やハッカーコンビニ定員・城野尊を演じる中川翼を初めて観るドラマ好き(もちろん宝塚ファンや大河ドラマを見続けて来た人にとっては良く知る俳優だと思うが)も少なくないのではないか。

熟練の脚本・演出コンビが生み出した新たなキャラクターを、新鮮なキャスティングで描く。本作の懐かしくも新しさを感じさせる面白さは、そんなところからも来ているのかもしれない。

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