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Momインタビュー 誠実な歌うたいが同時代に差し出した、等身大のエンパワーメント

2025.7.10

#MUSIC

「歌で歌えることって、まだある気がするんです」と、インタビュー中、Momは真っすぐな目で言った。この発言を聞いたときに、僕はとにかく、2025年4月にサプライズリリースされた彼の新作アルバム『AIと刹那のポリティクス』を、まだ届いていないひとりでも多くの人に聴いてもらいたいと思った。傑作なのだ。子どもの声をしたAIが私たちに語りかけてくる4つのスキットと、14曲の名曲たち――『AIと刹那のポリティクス』は、「歌」という表現にはまだ希望があることを、そして歌ですべてが歌えることを信じている、ひとりの野心的な音楽家が作り上げた傑作だ。

最近はインタビューの場にあまり出てこなくなっていたMomが、本作について、たっぷりと時間をかけて語ってくれた。Momの発言は、このアルバムが、いかに複雑かつ大胆なヴィジョンによって作られたのかを物語っている。そして、このアルバムを作るに当たってMomがいかに自分自身と向き合い、今という時代と向き合い、過去と未来に向き合おうとしたのかも。『AIと刹那のポリティクス』は、たくさんの痛みや喪失や覚悟を背負っている。同時に、たくさんの希望とぬくもりを手繰り寄せている。生きることが、選ぶことと失うことの連続なのだとしても。生きることが、死へ向かっていくことなのだとしても。それでも、Momは「この先」を描くことを諦めなかった。<うまくいくのさ、なにもかも>――そう呟きながら、何度でも立ち上がり、何度でも歩き出す。そんな人間の可能性を、Momは、この『AIと刹那のポリティクス』に刻んでみせた。独自進化し続けるシンガーソングライターの現在地、「歌」の最先端。それがここにある。

友人メンバーで編成したバンドで再確認した、シンガーソングライターとしての矜持

―振り返りから始めたいのですが、2023年の暮れに『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』を出してから、バンドでもソロでも、ライブ活動を活発化させましたよね。そこにはどんな思いがあったんですか?

Mom:そもそも、ライブがわかんないなっていう気持ちがあって。ライブに特化した振る舞いってあるじゃないですか。自分がそうした振る舞いを演じることに対して苦手意識があったんですよね。それまでライブはDJセットでやっていたんですけど、音源の再現的なものになってしまうし、音楽的な広がりやワクワク感がなかった。そういう中で、自分がライブにエキサイトするやり方を考えていたんですけど、割と前から周りに「バンドセットでやりなよ」と言われていたんです。それはアドバイスというより、「自分でどうにかしなよ」っていうニュアンスで(笑)。

―(笑)。

Mom:でも、バンド編成でやるにしても、同期の音源を入れたりしながらやったとしたら、結局前と一緒だよなと思って。それよりは自分の知り合いで完結出来たら素敵だよなと。それで、大学時代にコピーバンドをやっていた友達に「久しぶりにやらない?」って声を掛けたんです。だから「やろう!」というよりは「どうにかしよう」で始まったことだったんだけど(笑)、結果的には、ライブが自分の中でポジティブなものに変わっていったかな。

Mom(マム)
現行の海外ヒップホップシーンとの同時代性を強く感じさせるサウンドコラージュ・リズムアプローチを取り入れつつも、日本人の琴線に触れるメロディラインを重ねたトラック、遊び心のあるワードセンスが散りばめられた内省的で時にオフェンシブなリリックに、オリジナリティが光る。音源制作のみならず、アートワークやMusic Videoの監修もこなし、隅々にまで感度の高さを覗かせる。

―それで「Mom and The Interviewers」というバンド名義が生まれたと。具体的に、ライブをやり始めて感じたのはどんなことでしたか?

Mom:「ちゃんと曲を書いているな」という気持ちにはなりました。アレンジも3ピースの音の構成に変えたんですけど、そうなると、もう詞と曲だけなので「歌を作っている」っていうことが、ちゃんと伝わっている……というか、「それをちゃんと伝えている」という実感が持てる。デビューした頃から自分は「トラックメイカーっぽい」とか、いろいろな見られ方をした分、「あんまり曲を聴いてもらえていないな」とずっと思っていて。詞に興味を持ってもらえていない感じもしていたんですよね。そういう意味では、バンド編成でやることで、シンガーソングライターという見え方にちゃんとなっている気はします。

「開けたポップアルバムを、ちゃんと今の時代の複雑性を入れたものとして作りたかった」

―僕はこの数年間「なんで自分はMomさんの音楽に惹かれるんだろう?」ということをずっと考えているんですけど。その中でひとつ思うのは、僕はいろいろな音楽の在り方がある中でも、特に歌が好きな人間なんですよ。

Mom:わかります。僕の中にも「歌が好き」っていうのはめちゃくちゃあって。それはメロディがどうこうという話じゃなくて、歌心みたいなもの。それがあるかないかで見ちゃうっていうのは、作り手というよりも、リスナーとしての立場で思います。なんて言うんですかね……人間としての手触り感みたいなものが見えていないと、信用ができない。連続性が見えないと、楽しめない。それはメロディとか詞だけじゃなくて、ビートひとつとっても感じますね。

―「連続性」というのを、もう少し具体的に言うと?

Mom:その人が見てきたものや育ってきた場所や環境、どんな時代を生きてきたのかっていうこと、その温度みたいなもの。そういうパーソナリティと作っているものが接続しているかどうかっていうことですね。それが見えないと信じられないっていうのは、今特に思います。リファレンスを持ってきてそれを再現するって、そんなに難しいことではないんですよ。それよりも、その人が感じた情緒みたいなものが音楽になっていないと、僕は楽しめない。音楽でも映画でも、引用元をみんなで共有していることで楽しめるものってあるけど、そういうものは一時的な盛り上がりで終わっちゃったりするから。

―作品を作るうえで、引用したり参照したりっていうのは大切な行為でもあるけど、それだけが目的化していたり、盛り上がりが表面的だったりすると、すごく寂しい気持ちにはなりますよね。

Mom:そう、寂しい(笑)。寂しいって言葉が一番しっくりくるかもしれない。

―ライブに話を戻すと、僕は2024年以降Momさんのライブをよく観に行っていたんですけど、たしかに「終盤でエモいMCをする」みたいな形式的なことはやっていなかったけど、聴き手と音楽を共有することに対しては、真っすぐに向き合っている印象がありました。曲によっては「一緒に歌おう」と呼びかけていたし。

Mom:そうですね。そういうことが、今の自分のバンドセットのフォーマットなら無理なくできるんだと思います。あれでただ歌って終わりだと、ちょっとキザすぎる。バンドで、その場で音やリズムを鳴らすって、すごく開けた行為だと思うから。そこは無理のない形でお客さんと一緒に歌ったりできたらっていうのはあるんです。楽しい方がいいですしね(笑)。

―「楽しい方がいい」というのは、ずっとMomさんの根本にあるもののような気がします。

Mom:創作の方向性自体がそうかもしれない(笑)。

―バンドでライブをやってきた経験は、新作の『AIと刹那のポリティクス』にも反映されていると思いますか?

Mom:どうですかね? 直接的なものはあまりないかもしれない。けど、今回は「ポップなものを作りたい」という気持ちがあったんです。結果的にどうなったかはわからないけど(笑)、開けたポップアルバムを、ちゃんと今の時代の複雑性を入れたものとして作りたかった。シンガーソングライターが作る、今のポップアルバム。そこには、たしかにバンドをやり始めてからの気持ちも関係していなくはないのかもしれない。あまり自分では意識していなかったけど。

#AIと刹那のポリティクス is out now

―「ポップアルバムを作ろう」というのは、どういったところから出てきたんですか?

Mom:まあ、もっと聴かれたいなと思って(笑)。1個前のアルバムの『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』は、根っこのテーマは今作と繋がる部分があるんですけど、アルバムの構造や歌っていることの抽象度をひっくるめて、そこまで伝わらなかった体感で。だから音楽的にも、詞の部分でも、もっと明瞭に言おうって。気分と言えば気分なんですけど。

Mom『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』

―Momさんにとってポップとはどういうものなんだと思いますか?

Mom:高揚感があるもの。高揚感があると「生きてるぞ!」って感じがするし、その高揚感は必然的に、ちょっと死の香りもするし。僕は、結構メジャーなものが好きなところがあって。言い方は難しいけど、ちゃんと大衆に届けようとした気概があって、それが結果的に時代の音になって、僕みたいに昔の音楽を辿りながら聴くような人間が後からそれに出会ったりする。それは僕が中学生くらいの頃に出会ったオザケン(小沢健二)の『LIFE』もそうだし、中村(一義)さんの音楽もそうだし、佐野(元春)さんもそうだし。彼らがポップを意識的にやっていたのかはわからないけど、ああいう高揚感や、音楽的な肉体性のあるもの。自分の中では「あれはポップなんだ」っていう感覚があるんですよね。

―なるほど。

Mom:逆に、突き抜けてポップな人っていうのは、今の時代は売れている人でもあまりいないような気がする。みんな技巧的になっているからかもしれないけど、体感として「ポップだなあ」ってならないんですよね。ちょっとこの辺の話は感覚的な部分だから、まとまらないんですけど(笑)。

Mom / ワークアウト’25

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