ミランダ・ジュライの東京初個展『MIRANDA JULY: F.A.M.I.L.Y.』が5月9日(木)から8月26日(月)までプラダ 青山店で開催されている。

エレベーターを降りると、暗い会場に生活音がこだましている。布が擦れる音、シャワーの音、そして人の息遣い。音がする方向へ進むとそこには6枚のモニターに奇妙な映像が映し出されている。

アメリカ出身のパフォーマンスアーティストであり、映画監督や作家としても活動するミランダ・ジュライによる同展。展示タイトルの「F.A.M.I.L.Y.」とは「Falling Apart Meanwhile I Love You」の頭文字を取った略語で、Instagramを通じて行われた7人の見知らぬ相手との1年にわたるコラボレーションで制作された。

Miranda July at Osservatorio Fondazione Prada, Milan
Photo: Valentina Sommariva
Courtesy: Fondazione Prada
参加者はジュライからの一連のプロンプト(指示や質問)に対するリアクション動画を送信し、それをジュライがSNSコンテンツ向け無料編集アプリの切り取りツールを使って作品化した。シーツを被った2人のメタモルモーゼ、説明不能な動き、バーチャルなキスなど、ジュライと参加者が新しい身体言語を通じて親密さと境界線を模索するシュールなパフォーマンスを見ることができる。

キュレーターを務めたミア・ロックス(Mia Locks)は、同展の作品について「ジュライが好む活動形態」だと語っているが、その言葉の通り、ジュライはこれまで「インターネットを通じた人々の交流」に着目した作品を多く制作している。
例えばハレル・フレッチャー(Harrell Fletcher)と共作したウェブサイト『Learning to Love You More』はインターネットを通じた指令(「Take a picture of strangers holding hands(見知らぬ人同士が握手してる写真を撮ろう)」など)に対する答えを世界中から集めた。
また、ミュウミュウと共同制作したメッセージアプリ『Somebody』では、相手にテキストメッセージを送るのではなく、自分の代わりに口頭で相手に伝達してくれる「誰か」に送信するという、1対1のコミュニケーションを3者のコミュニケーションに拡張するサービスを展開した。
このように人と人の交流をファシリテートするテクノロジーの機能について意識的なのがミランダ・ジュライだ。今作『F.A.M.I.L.Y.』においてもそれは一緒で、プロンプトを通じた相手の行動と、それに呼応したジュライの行動で作品は成立する。それは関係そのもののコラージュと言うべきか。

新しいテクノロジーが生まれれば、新しい関係の形が生まれる。それはつまり、新しい親密さの形が生まれるということ。視覚情報に重きを置いたInstagramにおいては、私たちは他者から愛情を込めて見つめられることを求めている。

Miranda July
July and @nitegallery (Amanda Medina) in F.A.M.I.L.Y. Kiss, 2024
Still from video
Courtesy of Miranda July Studio
しかし、そういったプラットフォームは長続きしない。インターネット上では新しいSNSが誕生しては消えていく。その関係の脆弱性さえも、この作品には現れている。無料ツールで切り抜かれた人々のシルエットは曖昧で、バーチャルな関係の不安定さを感じさせる。さらに、居心地の悪い生活音のサウンドも、被写体を宙に浮かせる編集も、全てが宙ぶらりんだ。

July, @craigmontyjames (C.M. James), @donaldklee (Donald Lee), and
@goatzfoot (Lisa Ziegenfuss) in F.A.M.I.L.Y. Boombox, 2024
Still from video
Courtesy of Miranda July Studio

July, @enter_laughing (Augusta Dayton), @thongria (Zoë Ligon), and
@goatzfoot (Lisa Ziegenfuss) in F.A.M.I.L.Y. Cloud, 2024
Still from video
Courtesy of Miranda July Studio
そんな脆さを孕んだバーチャルな居場所で、生まれたばかりの赤子のように、新たな関係の仕方を覚えていく。私たちはテクノロジーを介して、どれだけ親密になれるだろうか。
Try to remember that someone else is there with you, even though you are alone in the room right now. See them, feel them, look them in the eye
『F.A.M.I.L.Y.』プロンプトより
たとえ今、部屋にはあなた一人しかいなくても、あなたと一緒にいる誰かがいるということを思い出してください。その人を見て、感じて、その人の目を見てください
『MIRANDA JULY: F.A.M.I.L.Y.』

日時:5月9日〜8月26日
場所:プラダ 青山店 6階
住所:東京都港区南青山 5-2-6
料金:無料
公式サイト