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宮崎駿からの影響と、「アメリカ」に対する視点
もう一つ脚色で特筆すべき点は、ミッキーたちが開拓をする惑星を棲家とする「クリーパー」と呼ばれるクリーチャーの描写だろう。原作では「ムカデ」と表現されているこの生物を、ポン・ジュノ監督は可愛らしいイモムシのような生物として描いている。監督の過去作『Okja/オクジャ』にはアニメ『となりのトトロ』からの影響を感じたが、このクリーパーは、どこか『風の谷のナウシカ』に登場する王蟲を想起させる。
原作同様に映画でも、惑星を開拓する人間とこの王蟲のような生物、クリーパーとの関係性は大きく物語に関わってくるのだが、映画では過剰に脚色された独裁者マーシャルの存在と合わせて、植民地支配やアメリカの帝国主義を描いた側面が見えてくる。(前作『パラサイト 半地下の家族』で上流階級の息子が、アメリカ先住民族のコスプレをしていたことも思い出される。)物語が終盤に差し掛かると、非アメリカ人監督による、アメリカ批判的な作品の輪郭がさらにくっきりと浮かび上がる。

今年公開された、同じく非アメリカ人であるイラン出身の監督、アリ・アッバシによる若きドナルド・トランプを描いた『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』も、トランプの伝記映画に収まらない、広く「アメリカ」について切り込んだ作品だった。同様に、フランス人監督コラリー・ファルジャによる『サブスタンス』もアメリカ・ハリウッドを代表とするショービズ界のルッキズム、エイジズムをボディホラーとして描き出す作品だ。いま、共鳴するかのように、非アメリカ人監督による「アメリカ」についての映画がいくつも作られている点は興味深い。
ハリウッドのメジャー作品でも、ポン・ジュノ監督は一貫して描き続けてきたテーマと確かな演出力を武器に、アメリカの巨大な資本主義と闘った。非アメリカ人監督たちの挑戦は、権力者に立ち向かう二人のミッキーの姿と重なって見える。
『ミッキー17』

3月28日(金)公開 4D/Dolby Cinema🄬/ScreenX/IMAX🄬 同時公開
監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ロバート・パティンソン、ナオミ・アッキー、スティーブン・ユァン、トニ・コレット、マーク・ラファロ
配給:ワーナー・ブラザース映画
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