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ポン・ジュノ監督が一貫して描いてきたもの
画面に映る全ての要素に意味を持たせる緻密なポン・ジュノ監督の映画設計は、「ポン・ジュノ」と「ディティール」という言葉を掛け合わせた「ボンテール」という造語が作られるほどに賞賛され、そのストーリーテリングの巧みさとエンターテイメント性の高さから「韓国のスピルバーグ」と呼ばれてきた。実録犯罪劇(『殺人の追憶』)からスリラー(『母なる証明』)、SF(『スノーピアサー』)、ケイパームービー(『パラサイト 半地下の家族』の前半)まで、様々なジャンルを扱いながら、常に作品の軸にはブラックコメディがあり、登場人物の激しい運動が映し出されたと思ったら、ふいにジャンルを超越する瞬間が訪れる。予測不能なジャンル横断は「ポン・ジュノ映画」としか表現できない手触りだ。また、一貫して「階級闘争」「格差社会」「支配階級への皮肉」といったモチーフを扱ってきたことも、ポン・ジュノ監督作の特徴だろう。

監督デビュー作の短編『白人色』においては貧困層の住宅群をリアルに切り取り、初期の短編『支離滅裂』では支配階級の知識人をシニカルな視点で見つめた。『スノーピアサー』では、貧困層が最後尾に住み、富裕層が前方車両に住む未来の列車を舞台に格差社会を水平方向に描き、『パラサイト 半地下の家族』ではその水平方向が垂直方向に転換した。そんなポン・ジュノ監督が一貫して描いてきた「ブラックコメディ」「格差社会 / 支配階級への皮肉」がエンターテインメントとして昇華されたのが、『ミッキー17』と言える。
