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映像作品に舞台演出を持ち込んだ手法が生み出す、見る者が自身を投影できる余白
8人は、怒り方が分からない20代の大学生や、バイト先の普段は誰も来ない小さなオルゴール記念館で2人の同姓同名の人物に出会った20代の女性、小学生の頃の初恋の相手とその後の人生で何度か偶然の再会をする30代の男性、司法試験に落ち続けて50代を迎え家族に借金をしている男性など、年齢も経験もさまざま。しかし、今世に見切りをつけたという共通点がある。今世を早上がりしても構わない人に、早上がりを願う人。そんな登場人物一人ひとりが抱える人間ドラマには、他人事としては見過ごせない痛みや苦しみがある。
そんな人間模様を演じるのは、小澤役の堤真一をはじめとする豪華俳優陣。8人の男女役に名を連ねる中川大志、染谷将太、上白石萌歌、森田想、古舘寛治、平原テツ、中嶋朋子、窪田正孝が、決して浮世離れではない、見るものにとって既視感のある人生の傷や後悔を、より一層切実なものに引き立てている。

また、「演劇をやれば映像的だ、映画をやれば演劇的だと言われることに嫌気が差し、今回はそのどちらの手法をも持ち込み、そのどちらでもない『滅相も無い』というドラマを作りました。映画的、演劇的の定義がハッキリとしている前提です」と、作品発表に寄せた加藤のコメントの通り、舞台の芝居を鑑賞しているかのような、劇中の演劇パートもこの作品の特徴だ。それぞれの登場人物の回想シーンは演劇的な手法を用いて全てスタジオセットで撮影されている。友人や家族など、語り手に関連する登場人物は、わずか6人のスタジオキャストがおよそ150の役をこなし、セットチェンジや着替えもキャストが映像内で行った。3人組ロックバンドのUNCHAINが担当した劇伴は、スタジオセットでキャストの演技に合わせて演奏されており、これもまた舞台演出さながらの手法となっている。
スタジオセットで用いられる小道具は、教室の机や部屋のベッドと窓など、シーンを設定するのに最小限なものにとどめられている。舞台演出的な手法といえばその通りなのだが、見る者に想像する余白を与える仕掛けとも捉えることができるだろう。従来の映像コンテンツとは対照的に、視覚情報が限定されることで、部屋の壁紙や空の色など不確定な余白に、見る側の立場にいる我々が思い思いの情景を重ね合わせていく内にいつの間にか、物語の当事者かのように、登場人物の感情に移入していく。

